後ろに立つ少女 ~エピローグ~


塾帰りの生徒で混雑する、ファストフード店。

いつもの席で、いつもの二人組が、勉強疲れを癒す為に今日もハンバーガー片手に雑談している。


「へぇ、また変なのが出たみたいよ」

「ふぇ?何々ー?」


眼鏡娘が見ているスマフォの画面を、ボーイッシュ娘が覗き込んだ

指に付いたポテトの塩をペロリと舐め、愉快そうに声を上げる。


「何これー!すごい速さで動く二宮金次郎像って!」

「なんか夜中に、本の山を背負って街中走っていたみたいね。最後は女子高に入って行ったんだって」

「私、二宮金次郎像を実際見た事無いんだよねー」

「新しい学校には無い所が多いって聞くし、時代がねー」

「うん、本じゃなくてスマフォ見てる二宮金次郎の方が今っぽい」


眼鏡娘が、新作のバーガーを齧り、笑みを浮かべる。

ボーイッシュ娘はコーラを飲みながら、周りを見渡した。


「皆、宿題に追われてるなー」

「9月がすぐそこだしね。あんたは終わったの?」

「勿論だよ、最初の週で終わらせたよ」

「マジか、負けた」


ふと、眼鏡娘が前方の席の様子を見る。

平凡な男子、高身長でごつい男子、そして怪しく変装した女性の変な組み合わせ。

どうやら平凡な男子に、電子書籍の使い方を教えている様だ。


電子書籍は便利だけど、やっぱ紙媒体の存在感と匂いが好きだな…と眼鏡娘が考えていると、店内BGMが新しい曲へと切り替わる。


「あ、夢見羅観香の新曲だ」


ボーイッシュ娘の声に、眼鏡娘が頷く。

どうやら新メニューはお気に召したようで、口の周りにケチャップが付いたままだ。


「すごく売れてるみたいね」

「そりゃそうだよ、嶺衣奈ちゃんの声もばっちり入ってるから、両方のファン歓喜だよ」

「霊が歌ってるって話題だけど、合成じゃないの?」

「もう、夢が無いなぁ。そういや夢見羅観香に熱愛疑惑でてたんだっけ」

「異性の友達、ってオチでしょ、どうせ」


眼鏡娘のある種の淡白さに苦笑しながら、ボーイッシュ娘は自身のスマフォに目を移す。

開くのは、もちろん都市伝説のサイトだ。


「うわぁ、これも古いなぁ。何で今頃」

「んー?どうしたの?」


苦笑を残したまま、ボーイッシュ娘がスマフォの画面を見せた。


『マスク詐欺だろ』

『撮影しとけばよかった』

『耳元まで開いてた』

『脅かすだけで害はなかった』

『包丁を突き付けられた』

『恐怖で足がすくんだ』


そこには、とある怪異の目撃情報が、ずらり。

眼鏡娘は、もはや都市伝説では常連の彼女の名前を、ぼそりと零した。


「口裂け女、かぁ」

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