幽霊の声が入った歌 ~エピローグ~


「ねぇねぇ、なんかすごい事になってるよ!」


いつものファストフード店の、いつもの席。

最早常連となった女子高生2人が、新作のバーガーを楽しみながら、話に花を咲かせ始める。


ボーイッシュ娘の興奮した様子に、眼鏡娘は苦笑いを浮かべた。

同じく新作のポテトにトリュフ塩を塗し、相槌を打つ。


「加宮嶺衣奈の件でしょ?テレビどころかネットでも大賑わいだから、知ってるわよ」

「嶺衣奈ちゃん、まじ可哀そう……」


ボーイッシュ娘がスマフォで件の記事を開く。

そこには「超人気アイドル夢見羅観香のマネージャーと、人気番組のプロデューサーが海へ転落死」がタイトルの記事。

そしてもう一つ「加宮嶺衣奈は自殺では無かった!海へと転落死した二人が事件に関与か」と冠された、記事。


「芸能業界って闇が深いねーて話よね」


眼鏡娘が、記事をタップした。

人気番組『Song Infern☆!』のライブがあった会場付近。

そのライブに携わった夢見羅観香のマネージャーと番組プロデューサーの乗った車が、海へ突っ込んだ。

現場を見ていた人からの通報で警察と消防が駆け付けるも、夜であることもあり、車の引き上げに時間がかかる。

そして引き上げられた車内で、二人は既に死亡していた。

法定速度を無視した速度で暴走している所を多数が目撃してる事から、誤って海へ落ちたとのではと思われている。

……以上のような事が、記事には書かれている。


「……ってこれだけ見れば、不幸な事故、なんだけどねぇ」


眼鏡娘は、新しい記事をタップする。

水没するも奇跡的に生きていたドライブレコーダーから様々な事実が判明。

先日自殺とされた加宮嶺衣奈の死に、死亡した伊丹(夢見羅観香のマネージャー)が関与。

テレビ局にて隠されていた監視カメラの映像を押収。

先日の『Song Infern☆!』にて起こった照明落下は、同じく死亡した轍プロデューサーが関与。

同氏の自宅よりアイドル志望の少女を食い物にした映像を多数押収。

中には加宮嶺衣奈のモノも。

……以上のような記事が、騒がれていた。


記事はSNSに多数拡散され、無責任無秩序な情報の波が起きている。


「これ、友達の友達に聞いたんだけど、車から夢見羅観香の新曲が入ったCDが押収されたんだって」

「へぇ?……で?何か不思議な事があったの?」

「うん、これも水没してたのに何故か生きてて、聴いてみると……入ってたんだって」

「……もしかして?」

「うん、加宮嶺衣奈の『ゆるさない』って声」

「そりゃこんな事すれば、呪われるのは仕方ないと思うわ」


記事を見るにつれ、眼鏡娘が吐き気を催す。

芸能界は明るく華々しい故に、闇も暗く深い、と思ったようだ。


「でも、夢見羅観香はアイドル続けるみたいだし、良かったわね」

「それが救いだよ!ライブじゃ加宮嶺衣奈の幽霊と共演したって言うし、DVD楽しみぃ!」

「幽霊?アバターじゃなくて?」

「幽霊って説が今の所有力かな、夢見羅観香も今後はその幽霊とのユニットで売り出すそうだし」

「いやいや、皆現実を見ようよ……」


互いにポテトを摘まみ、一時的に無言となる。

どうやら新メニューをお気に召した様子で、口へ運ぶ回数が増え始めた。


窓から差し込む茜色の光りに、二人は目を細める。

この楽しい一時もすぐに終わり、またつらい一日が待っているのだと内心溜息を吐いた。


「あぁ、また変な都市伝説、あったわよ」

「お、何々?」

「飴玉兄さん、って話」

「また兄さん?婆さんじゃなくて?」

「なんかね、飴玉を配るんだって。んで、それで当りを引いて、金塊貰った高校生がいるんだって」

「はぁ、何それ、羨ましい。ハズレだったらどうな……あら?」


店内に、賑やかな声が響きだした。

二人が視線を向けると、緑青色のセーラー服を纏った女性と集団が入店したようだ。


「うーわ、あれ、天恵女学院の制服だ」

「あの超お嬢様校の!?何でこんなとこに……って警備っぽい人もいる」

「もしかして庶民の暮らし体験、みたいな行事なのかしら」


二人が無遠慮な視線を向ける中、お嬢様三人は黄色い声を上げながら、席へとつく。

どうやら生まれて初めてのハンバーガーの様で、食べ方に四苦八苦し始めた。

だが味は概ね満足の様で、ケチャップの付いた顔には笑顔を浮かべている。


「はぁ、コレが庶民の味、なのですね」

「味は下品……と思ってましたが、味付けが濃くて美味しいですわ」

「駄菓子も衝撃的でしたが、こっちも負けていませんわね」


もそもそとハンバーガーを啄む三人の美少女。

周りの男性は、それを可愛いモノを見るような眼で遠くから愛でている。


「次は、店員様が仰ってた牛丼屋も、行ってみたいですわね」

「私は、カラオケと言う施設に行きたですわ」

「でしたら私は……」


お嬢様校であろうと、若人。

店で皆がそうするように、談笑し始めた。


だが若人であろうと、お嬢様。

周りには所謂ボディーガードが布陣しており、ナンパは許されないだろう。


「……そういえば、また『出た』そうですわ」

「うぅ、怖いですわ。次は何処に?」

「えぇ、昨日ですが、中庭にて、気付けば立っていた、と」

「本当に、どこでも出るようですわね。その、後ろに立つ少女、は」


怖がってはいるが、所詮は他人事。

彼女達の通う学校に出るという幽霊の話で、今、彼女達の思い出に楽しい一ページが刻まれた。

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