富田村 ~エピローグ~


「ねぇねぇ、そういや聞いた?」


塾帰り。

いつものファストフードの、いつも席。

座った瞬間に目を輝かせ口を開くボーイッシュ娘に、眼鏡娘は苦笑を浮かべる。


「聞いたって、どっち?」

「え、二つあるの?何々、教えてー」


眼鏡娘の言葉に目をぱちくりさせたボーイッシュ娘は、ポテトを摘まみながら、話を請う。

その様子に、眼鏡娘は口角を上げる。


「井上さん……と言うか、あの心霊スポットの件、それと、ターボ兄さん」

「ターボ兄さん、って、婆さんじゃなくて?」


そう、と眼鏡娘はナゲットにソースをかけ始める。


「とある高速道路でね、車より速い何かが走って、ビュンビュン車を追い越してたの」

「それが、お兄さんだったの?」

「いや、早すぎて解んなかったのよ。で、このドラレコの映像で、若い男って解ったみたい」


眼鏡娘がスマフォをいじると、有名な動画サイトの映像が流れ始めた。

そこには、すごい早さで高速を走るナニかの、スロー映像が映し出される。


「……顔までは解んないけど、これ人間なの?あと何このキラキラ眩しいの」


映像では、顔までは解らないが若そうな男性が、あり得ない速さで走っている。

しかも、右手が黄金色の輝きを放ち、陽の光を乱反射させている。


「私達と同年代な感じに見えるけど、人間じゃないでしょ、コレは」

「それか大学生くらいだから、お兄さん言われてるのよ」

「ふーん、で、何だろねこのキラキラ光る奴」

「さぁ?でもドライバーの多くが見とれて、事故起こしたりしたみたいよ、死人は無かったみたいだけど」

「こりゃ、正体確かめようとする人出てくるだろうなぁ」


2人が同時に、シェイクを口へと運ぶ。

ズズズと音を立てた後、眼鏡娘が短く息を吐いた。


「……井上さん、帰ってこなかったみたいね」

「聞いた話だと、スマホとかと一緒に、数百万のお金が送られてきたんだって」

「井上さん、本当は生きてるんじゃない?その金も実は人身売買とか」

「いや、死体も戻って来たって聞いたよ。でも、死に方が普通じゃなかったみたい」

「……やっぱ、行方不明になってた人、全員?」

「聞いた限りでは、そうみたいだよ」

「皆、バカみたい。怖い話なんて、聞いたり見たりするだけで満足すればいいのに」


2人がの言葉が途切れた瞬間、店内に音楽が流れ始めた。

最近ブレイクした、若手アイドルの新曲だ。

鬱蒼な気分を払拭すべく、ボーイッシュ娘が極めて明るい声ではしゃぎだす。


「あ、夢見羅観香ゆめみらみかの新曲じゃん。コレ、めっちゃ流行ってるんだよね」

「『I can make your dreams come true』だっけか。最近よく聴くよね。てか、ゆめみらみか、って言うんだ?歌ってる人」

「相変わらず芸能関係疎いよね。彼女のライバルが自殺したってのも知らないっしょ」

「心に響く歌だけ追ってればいいし……、あ、そういやこの歌にも曰くがあったわね」

「あー、あの噂か。ノイズじゃないかなぁ、聞きようによってはそう聞こえはするけどさ」


眼鏡娘が、ケチャップの付いた手で再びスマフォを弄る。

その画面に映る記事には、こう記されていた。




『自殺した加宮嶺衣奈かみやれいなの怨霊か?夢見羅観香の新曲に「許さない」と混ざる恨みがましい声』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る