コミック・ラーメン屋のじーさん、いま、どーしてる?
柴田 康美
第1話ラーメン屋のじーさん いま、どーしてる?
ボクだって怒りたいときありますよ。
こないだラーメン屋🍜にいったんだ。たぶんヒルころだとおもいます。春の雨がしっとり降っていた。ガラガラと入るなりフツーのショウユを注文した。ショウユ⌛ならすぐできるかとおもったからね。ところが30分たってもいつまで待ってもでてこない。こーゆーときiPadかなんかで視覚効果用の映像サンプルをだして食べたつもりになるのはどうーかな?つ、も、り、だよ、バーチャル。観るだけ。そんなもの食べられないのにバカな。おまえさんアホか。よけーに腹がへるって。アハ~ハァ~ハア(あまりにバカげていて笑うに笑えない)。
「さっきから待ってるんだけど。こないんだけど。どーかしました?」遠慮しながら気をつかいながらじーさんにきく。オタクのボクでもキラクにしゃべられる所がこのラーメン屋のじーさん。キブンを害したくはないです。でも、キホン待たされるのはスキじゃないんでね。15分までならOKだけどそれ以上はムリ。こっちもガチせっかちだからかんべんしていただきたい。
👴じーさん「きょうは、ちょこっとたてこんでいるもんですから。」といいながら「わしゃ、きょうはしごとしたくないな。」とポツリ。さぼりじーさんは店の隅でシレッとテレビのワイドショーかなんかをみている。この店はむかしからじーさん&ばーさんでやってるのをみんなしっている。なんで客がきて注文してるちゅうのにのんびりこしかけてムクムク笑っているのか。わきゃわからん。ヨウジで歯をほじりながら目線はテレビ。それほど面白い番組じゃないとおもうがねぇ。このテレビをみないでラーメンなんかくうやつの気がしれねえ。もうラーメンなんか金輪際みたくもないぜという顔をしてる。
以前、きげんのいいじーさんとはなしたとき、食ったらすぐ帰る客をてばなしでカンゲーするといってた。食い終わったあと後ろで待ってるのに話しかけてくる客なんかはイヤだね。厨房へ入ってきていろいろナベのなかみを聞かれるのもキライ。取材!?そんなのまっぴらだねー。客を回すのが商売なんだよ。回転、回転だよ。それこそメニューもなるべく少ないほうがええ。なんだったら単一でええ。ショウユだけ。材料費がかからないからね。ゾラは続けるーーそれにグルメ番組の影響かこのわしゃのまえできょうのダシはどうのこうのと講釈をたれる客がいるんだ。ド素人がよキミ、イイ度胸してるね。ダシのウデはドリョクしだいでもつくもんさ。レンシュウとガンバリ。それにウデは一度上がったら下がらない。ところが、材料はときどき変わる。イイときもワルイときもある。それが難問。それで、材料がワルイときはいつもみがいているウデでカバーするんだ。そのウデヂカラを毎日続けるーーこれがたいへん。毎日、何十年も、毎日。これはどんな仕事も同じなのかな。ああ、そうだ!一番だいじなことは朝起きたらウオーとか叫んで気合いをいれることだ。ウオーだよ。ヤッホーじゃない。これを忘れちゃいけねぇ。ホントは座禅をくんでから30分くらいピアノを弾くとキモチがシックリしていいんだけど。朝仕込みで忙しいのにそんなことやってらんないのよね。ただ、健康にいいことはやっちゃダメ。ニンゲン健康だとロクなことは考えない。病んでるときのほうがいいアイデアがでる。叫びの画家ムンクは病気のときのほうがイイ作品描いたといいますからね。病人バンザイ!
具は、メンマ、二タマゴ、ナルト、ノリ、チャーシュー二枚に薬味がキザミネギ。ダシはトリとブタの割合7対3にあとはタマネギ、ニンジン、ニンニク、ショウガなどその日のキブンしだい。いまじゃ、スーパーへいくとうまいインスタントラーメンがいっぱい㌜からあふれてる。そんで、ショウユなんかだれでもかんたんに作れるものとおもってバカにしちゃいけねぇ。本気でやればやるほどむずかしいもんだよ。しょうじき味は毎日変わるんだ。きのうとおんなじもんはつくれない。ま、なんでもそうだけんどいっぽんで進むとなりゃ軽るかあないよ。けっこう重いんだ。ウチのがまずかったらヨソへいってもらうしかないな。だれの口にも合うものなんかはつくれない。最大公約数とるしかないじゃん。
ふう~ん。なるほど、ね。ぼくはヒマすぎてやることがないから冷水をガブガブ飲んで新聞を二度も読んでジーサンの語りをポツポツ思い出している。雨はまだ降っているにゃ。変わったじーさん大好きなんだけどいまはラーメン食いたい。客はぼくひとりしかいない。商売やるきあるのでしょうか。でもここは常連が多いからボクのモンタージュの面はわれている。マジで怒れない。逮捕される。パトカーを呼ばれないようここは言いたいことをぐっとがまんする。
そのうちプロレスラーみたいなガタイをした客がふたりきた。横を通るとき身体からいい匂いがした。最近の相撲取りはボディクリームを5種類くらい塗っているというから彼らもこってり塗っているかもしれない。店内の気圧が一気にあがった。ふたりはなにかわからないコトバでしゃべってる。ガイジンさんいらしゃい。でもラーメン🍜っていう単語だけはワカッタ。世界共通語か。ゾラはいつのまにか奥へ消えた。
「あいよぅ。おまちー。わるかったねぇー。」 ばーさんひとりでちゃちゃちゃとつくってもってきた。「カッパ着て、長靴はいて、裏の畑へいって、ネギをぬいて、タオルで手をふいてきた。そんだからおそくなっちゃって。」 あーそうだったのか。ばーさん働く意欲マンマンでかわいい。
水飲みすぎて腹のなかで腸が泳いでるけどダシはカラダの深いところにしみてくる。ゴクリゴクゴク、あ゛ぁ゛ーう、うめェー。
でも、みなさん、この店にいってみようかなどと思ってはいけません。さがしてもみつかりません。なぜって、これはかんぺきフィクションなんですから。
読んでいただいてありがとうございました。
(了)
コミック・ラーメン屋のじーさん、いま、どーしてる? 柴田 康美 @x28wwscw
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