第4話 回想・この世界は色に支配されています

 そして二年後。

 十二歳になったトオルは王立サンドラ学園に入学した。


 新入生は九十八人だった。


『この世界は色に支配されています』


 入学初日。

 教壇に立った紫色の髪をした女性が開口一番に、そう言い放った。

 生徒を教え導く者にしては露出過多気味の服装で彼女は続ける。



〇●○●○●



 入学早々に何を言ってるんだ、そんな顔ですね。


 ああ、自己紹介がまだでした。

 私はクリスタ・ハープ。

 王立サンドラ学園第三百二十一期生――つまり、みなさんの担当教官です。

 これから四年間、どうぞよろしくお願いしますね。


 ちなみに担当教官は各騎士団が順番に行っていて、みなさんは赤の騎士団の持ち回りなんです。

 よかったですねー?

 むさいおっさんよりも美人なお姉さんのほうが嬉しいですよね?


 え?

 さっそく質問ですか?

 今年の生徒さんは元気がありますね。


 ええと……あなたはカレン・サクラノさん、ですね。

 年齢ですか?

 秘密、っていうのは芸がないですし……三十にはなってないとだけ言っておきましょう。


 彼氏?

 彼氏は募集中です。

 なんならあなたが立候補してくれてもいいんですよ、ライア・フレミール君?


 はい?

 年増は対象外?

 三十前の女性に年増とは……フレミール君、これが終わったら面談室に行きましょうか。

 どうやらあなたとは、、じっくりお話しなければならないようですから。


 っと、話がそれてしまいました。


 とりあえずは、ご入学おめでとうございます。


 みなさんは様々な事情で騎士を目指し、この王立サンドラ学園に来たと思います。

 そんなみなさんに、私は真っ先に伝えなければなりません。

 それが、さきほども言った《世界は色に支配されている》という事実です。


 色はどこにでもあります。

 あふれて、ありふれています。


 草が、どうして緑色なのか。


 炎が、どうして赤色なのか。


 それは、それぞれに、その色が宿っているからです。


 色は、あらゆるモノに宿っている。

 これは一般常識で、誰もが知っていますね。


 本題はここからです。

 実は、人間にも色が宿っているのです。

 みなさんも例外ではありません。


 考えてみれば当然の話です。

 あらゆるモノに色が宿っているのなら、人間にも宿っているのが自然です。

 でも案外、言われるまで気づかないものなんですよ。

 人間は、自分たちを枠の外に置きたがりますから。


 この事実は限られた人間にしか明かされません。

 一般には、あえて隠しています。


 では、どうして隠さなければならないのか。


 色には、力が宿っているからです。


 そして私たちにも色が宿っている。


 力は訓練によって扱えるようになります。特別な素養は必要ありません。

 個人の内なる色によって発現される、特別な力。

 それを《彩能さいのう》と呼びます。


 みなさんがどんな彩能に目覚めるかは、まだわかりません。

 それでも、その多くは強大で常識から外れた力となるでしょう。


 どんなものでもそうであるように、知らなければ存在しないのと変わりません。

 この話を聞く前のみなさんと同じように。


 ですが二年前の内戦からもわかるとおり、人間は愚かしい生き物です。

 知ってしまえば、きっと使わずにはいられないでしょう。


 だからこそ彩能という、争いの道具になりえる特別な力は隠さなければならないのです。


 あら、レフトス・アクアドル君。

 察しが良いですね。

 そのとおりですよ。


 みなさんはたった今、隠されてきた事実を知ってしまった。

 もう後には戻れません。


 もし途中で学園を止めようとも、もしも騎士になれなかったとしても、この事実を口外することは許されません。

 うっかり口を滑らせてしまったら……この先は賢いみなさんなら簡単に想像できますよね?

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