第2話 スカートのなかにあるのは、なーに?

 言葉の処理に追われて一切の行動を停止させるトオルに、さきほどと寸分たがわない満面の笑みでカレンが同じ質問を重ねる。


「どーして、パンツを見せてなんて言ったの?」


「ま、待て!」

トオルはしどろもどろになりながら弁解を始めた。

「それは違う! お前は誤解してるぞ!」


「ゴカイ? どこを、どんなふーにかな?」


 言いながらもカレンの笑顔は崩れない。

 まるで仮面のような冷たい笑顔に恐怖すら覚えながらトオルは疑問をぶつけた。


「そもそもっ、なんでカレンがそのことを知ってるんだ! 俺とは違う闘技場だったろ!」


 模擬戦闘訓練の授業は、日替わりで学級を二つに分ける。

 午後の授業でトオルは第三闘技場、カレンは第四闘技場だった。


 それでも、いずれは噂になるだろうとトオルも覚悟していた。

 同級生たちの前でみっともない醜態をさらしたのだ。

 後ろ指をさされないほうがおかしい。


 問題は、いま、どうしてカレンがそれを知っているかだ。


 疑問に対する解答をカレンがジト目で口にする。


「ウワサになってたよ。たぶん、もー学園で知らない人はいないんじゃない」


「まさか! 広まるのが早すぎるだろ!」


 午後の授業が終わってから時間はさほど経過していない。

 広まるにしても早くて明日のはずだ。


「それだけのことをしたって自覚、トオくんにはないの」


 責めるような視線を向けられ、トオルは言葉に詰まった。

 それだけのことをしたんだと突きつけられれば反論のしようがない。

 トオル自身も、


(あれはやっぱ、やりすぎだったかなー)


 後悔し始めているくらいだ。


 それで、と熟練騎士が行う尋問さながらの雰囲気でカレンが言う。


「さっきトオくんは勘違いをしてるってゆったよね? どこを、どんなふーに勘違いしてるのか、ぜひとも説明してほしーなー?」


「だったら説明してやる! 俺が言ったのは《パンツを見せてくれ》じゃない! 《スカートの中を見せてください》だ!」


「トオくん……」


 未確認生物に遭遇したかのような形相のカレンに、トオルは自分の正しさを主張した。


「な? 違うだろ?」


「トオくん?」

 カレンが口もとだけで笑みを作る。

「スカートの中にあるのは、なーに?」


「ん? そりゃあ、パンツだろ」


「だったら同じじゃん!」


「いや、同じじゃない。百人に一人くらいはパンツを穿いてないかもしれないだろ? そう考えるとスカートの中がパンツだと断定するのは決めつけであって、」


「それを見たいとか、もっと悪いから!」


 まったくもってそのとおりだ。


 すみません、とトオルは素直に頭を下げた。


「はああ、もーいーよ」

 カレンが投げやりな息を吐く。

「でも、どーしてそんなおバカなお願いしたの? なにか理由があるんだよね? あたしの知ってるトオくんは、そんなヘンタイさんじゃなかったもん」


「それは……」


 夢の続きも。


 苦悩の日々も。


 すべては六年前から始まった。

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