おまけ・設定と解説
【舞台設定について】
あえて明確な舞台設定はしていませんが、一応おおまかに「関西の某地域」を主なモデル地として想定しています。今回の舞台となった神社のモデルについても、あえて明言はしていませんが、神社仏閣に詳しい方はすぐにピンとくるのではないでしょうか。
ちなみに本作で愛稀が経験したことの中には、作者自身がこの神社で経験したことを追体験させたものもいくつかあります。
ただ、飽くまでも創作ですので、実在しない場所・風景を描いている部分もあります。
【雨の理由】
物語冒頭で、突然空は晴れているのに雨が降ってきます。一般的には“狐の嫁入り”と呼ばれる現象ですが、物語上さまざまな意味合いをもたせています。
一つは、愛稀が不思議な世界に来たという伏線。プロローグでユウが雨が降った理由について、彼女のせいだと考える場面がありますが、ユウはこの時点で彼女が自分たち山の住人とは異なる世界の存在だと気づいています。
他にも、ユウの悲しい心や、カグラとトマの結婚など、色々な解釈ができると思います。
とにかく、この世とは違う特異な世界の現象として、雨の描写を加えた次第です。
【ユウが左からのルートを選んだ理由】
山を巡っている時に、ユウがあえて左からの(右回りの)ルートを選んだと説明するシーンがあります。その理由は、現実世界とあちらの世界の時間の流れ方の違いにあります。
現実世界の時間(時計)の流れは右回りですが、一方であちらの世界では時間の流れは逆で左回りなのです。ここで、ユウは人間のように願いごとをしようとしているので、あえて人間界の時間の流れ方と同じ右回りを選んだのでした。
【愛稀の不思議な力】
愛稀が夢の世界を通じてユウを探したり、念動力を発揮して相手を倒したり、といったシーンが唐突に出てきますが、これは愛稀のルーツや生い立ちに原因があります。
彼女はそういった特別な力をもつ血族に生まれました。そして、育っていくにつれて、徐々にその才能を開花させていきます。
本来はそのあたりをきちんと説明してゆくべきなのですが、今回は途中からの話になってしまったので、かなり不親切な描き方になってしまいました。愛稀の生い立ちに迫る話も、今後徐々に書いていきたいと思っています。
ちなみに、凜も愛稀ほどではないですが、似たような能力をもっています。
【凜を案内する謎の少女】
作中で凜を案内する巫女姿の少女が出てきますが、この少女は愛稀の遠い祖先で、名をイチコといいます。古代、とあるクニの巫女を務めていた女性で、神とつながる力をもってクニを導いていました。現代では精霊として、子供の姿となって存在しています。今回、愛稀のピンチを知り、彼女を救出するために凜に協力をしました。
そんなイチコですが、普段は本作の序盤で紹介のみされた、愛稀の「6歳下の後輩」の心に宿る形で存在しています。その後輩も、愛稀や凜と並んで重要なキャラなので、いずれその子が活躍するお話も紹介させていただけたらと思っています。
ちなみに、ラスト間際、愛稀が夢の中で女の子に怒られてしまう場面があります。お気づきかと思いますが、その少女の正体も実はイチコです。
実は凜もイチコとは浅からぬ縁があります。
【カグラたちの能力】
神様ほどではないものの、人間より上位な存在であるカグラたち眷属も、多少なりとも不思議な力を宿しています。
建物の中に隠れる愛稀が幻聴で凜の声を聴く場面がありますが、あれはカグラが起こしたものとみて間違いないでしょう。カグラが彼の声を聴かせたのではなく、愛稀の心にはたらきかけることで、彼女がいちばん思っている者の声を彼女自身の脳内に再生させたのです。
いずれにしても、人の弱い心につけ込んだ、姑息な手段といえるでしょう。
【神様が愛稀を助けてくれた理由】
神様は最終的には愛稀を助けてくれましたが、当初は彼女のことを考えて行動したわけではありませんでした。
むしろ、神様は人間の個人的な気持ちや願いには無頓着です(作中で一度も凜や愛稀の名を呼んだことがないのは、人間に対する興味のなさの表れでしょう)。その意味では、愛稀をそのまま放置することさえあり得たかもしれません。
神様が本当に気にしていたのは、このおおやしろや山の秩序でした。
自分の眷属が暴れて、少女を無理やり連れていこうとしたことに、神様は怒ったのです。私に断りもなく勝手なことをするな、という気持ちもあったのでしょう。
しかし、愛稀の本心や真摯な人柄、彼女のことを思いやる人たちの思いに触れるうち、少しは同情する心が生まれたようです。
神様にも人間っぽい一面があるのですね。
【ラストシーンの意味】
最後の空港の場面ですが、あのシーンにも一応意味をもたせました。
我儘だった自分を反省し、凜の門出を応援しようと決めた愛稀でしたが、やはり土壇場になって不安な気持ちが現れます。その気持ちを吹っ切ろうと衝動的に彼にキスをしたわけですが、今度は「向こうの国では、こんな大胆なことを普通にする女性がいるのでは」などと考えて、余計に不安になってしまいます。
この場面には「人間はそうそう変わらない」という意味をこめました。同じことに何度も悩みながら、経験を積み重ねて成長してゆく。愛稀がこれからも人として大きくなってゆくことを思わせる描写にしたつもりです。
一方で、凜もまだまだ成長の余地があるようです。そもそも、留学するという自分の希望を無理に通そうとしたことが、愛稀を悩ませてしまった要因ですし、ラストでも彼はクールな様子で去っていきますが、彼女にあれだけのことをさせたのだから、情熱的に抱きしめるとかしろよ……!などと作者としても思います(ただ、あれが凜なんですよねぇ)。彼は彼で、彼女のことをちゃんと思いやっているつもりなのですが、いまひとつ足りていないところがあるようです。
凜も愛稀もそれぞれに欠点を抱えています。神様の助言どおり、今後ふたりで完璧になれるよう努めていくわけですが、そのためにはまだまだ経験値が必要なようです。今後、そのようなところも描いていけたら――と思っています。
神々の棲む山を往く Tomokazu @tomokazutomoerinaki
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