Re:09 Return

 私が昴夜と侑生と仲良くなったきっかけは、高校の入学式だ。


 入学式は新入生代表だけ指定席で、私はその新入生代表だったのだけれど、何も知らない侑生が間違えてその指定席に座ってしまい、そのすぐ隣に昴夜がやってきた。二人は指定席の存在に気付かずに、待ち合わせ場所がどうのこうの、来なかったのはどっちだのと喋り散らかしていた。


 そんな二人を見た瞬間、私は戦慄せんりつしていた。なんたって昴夜は金色、侑生は銀色に髪を染めていたのだ。


 はいざくら高校は特別科と普通科に別れていて、私達のいた普通科は特別科より偏差値が低く、規律も緩いほうだった。だから髪を染めている子なんて珍しくなかったけれど、それにしたって金と銀なんて他にいなかった。しかも二人は、入学式終了直後、難癖をつけにやってきた先輩をそろって殴り飛ばした。ああ、こんな二人と仲良くなってしまっただなんて、私の高校生活は終わった、とその瞬間は絶望したものだ。


 でも、それ以外は二人ともいたって普通で、なんなら昴夜はそこらの男子より人懐こかったし、侑生なんて最後は私を抜いて一番の成績で卒業するほどの優等生だった。だから、気付いたときには休日も一緒に遊ぶほどの仲となっていた。


 侑生に告白されたのは、高校一年生の夏休み明けのことだった。新学期初日だったから、九月一日だと思う。


 始業式後の掃除時間中、私と侑生は、特別科のある男子と会った。私の中学の同級生で、しかも過去に私に告白してきた人で、彼は「三国と雲雀は付き合ってるって噂がある」なんて言い始めた。


 今になって思えば、彼には、自分をフッた相手わたしが不良呼ばわりされている侑生と付き合っているなんて、という劣等感があったのだろう。ただ、そんなことは侑生にとってどうでもよく、なんなら彼が私を「思わせぶりな女」と罵ったことで、侑生は怒って彼を殴りとばし、先輩達が止めに入るほどの大騒ぎになった。


 侑生に告白されたのはその後、生徒指導の先生に呼ばれてお説教を受けて帰るときだった。


『好きだよ』


 その一言を口にした瞬間、みるみる赤くなっていった侑生の顔を、私は今でも覚えている。


 片想いなのは分かってるし、返事はすぐじゃなくてもいい、そう言われたのに甘えて、私は一週間悩んだ。


 私は、侑生を異性として見たことはなかった。でも間違いなく、私にとって侑生は特別な友達だった。


『きっと、私は、雲雀くんのことを好きになると思う……』


 そうして私は、侑生と付き合った。体育祭のすぐ後のことだった。




 ガラケーを確認する。待ち受け画面に表示されている日付は「八月二十五日」……日付は、正しい。


 でも――うろ覚えの操作に従ってカレンダーを開いて表示されたのは「平成十九年」。


「英凜、どうした?」


 呆然として、その場から動けなかった。


 令和三年の十四年前――高校二年生だ。


「……夢?」


 それにしては妙にリアルだ。息を吸えば、地下鉄の改札前特有の、閉塞的で冷たい空気が鼻孔を通る。ただの背景の人々は、服の模様まではっきりこの目に映り、耳を澄ませば会話まで聞こえる。私の髪だって――触れて、セミロングではないことに気が付く――伸ばしっぱなしの黒髪のポニーテールだ。その重みも、つるんとした質感も、はっきりと感じられる。


 最初の違和感にも気が付いた――ファッションが十年前なのだ。高校生くらいの子達は、女の子はこぞってミニスカートとニーハイを履き、男の子はベルトが見えるほど丈の短いティシャツにスキニーを履いている。電話をしながら歩く人の耳にあるのはガラケーで、歩きスマホをしている人は一人もいない。


「なんの夢?」


 目の前の侑生だって、そう。その手にあるのは、無愛想なガラケーだ。そして高校二年生の侑生はまだ銀髪で――頬には既に傷痕があった。


「……夢……、じゃ、ないのかな。和暦は整合してるし、変に現実味があるけど……なんで急に髪も伸びて……侑生と……?」

「誘ったの英凜だろ、夏休みも終わるから一緒に映画でも借りてみようって」


 行こう、とでもいうように手を引かれる。でも手を繋いでいるわけじゃない。手首を掴まれていた。その手のひらの温かさも、夢とは思えないほどはっきりと、それでいてじんわりとしみ込んでくる。


 雑踏の中をゆっくり歩く、侑生の後ろ姿を見つめる。ただの紺色のティシャツに七分丈の緩いズボンを履いただけのラフな格好には、確かに見覚えがある。侑生の肌は女子顔負けの綺麗さで、ろくにすね毛もないのだ。侑生の家に遊びに行ったとき、そんな話をしたことがあった。


 懐かしいな。地下通路と繋がった古いビルのテナントはレンタルDVDショップで、そんなところまでリアルだった。


「……そっか、そういえばここでよくDVD借りてたね」

「そういえばってなんだよ、たまに来るだろ」

「だってレンタルDVDショップなんて、もうほとんどないから」


 今なら映画といえばサブスクに決まっている。目で探さなければならないほどDVDケースが陳列された棚を眺めていると、夢の中の侑生は変な顔をした。


「どういうこと」

「もうDVDレンタル業なんてすたれちゃったじゃん。多分、いまはもうここもないんだろうなって」

「未来予知かよ」

「未来既知だよ」

「なに、真夏のタイムトラベルでもしてきたの?」

「……そうなのかな?」


 そんなまさか、有り得ない。でも、いまの私は十六歳だし、高校生のときお気に入りだったティシャツとショートパンツを着ている。……きっと夢なのだろう。


「未来はどうだった、なんか変わってた?」

「……一色市ここはなにも、まだ散策中だけど。ていうか私、卒業したら離れてそのまま帰ってこないんだよね」

「なに、俺とは別れてた?」


 振り向いた笑みに浮かんでいるのが、冗談なのか寂寥せきりょうなのか、私には分からなかった。


「二年生のホワイトデーにフラれたんだよ、私が侑生に」

「俺がフッた? なんで?」

「受験に集中したいって建前だったけど」


 でも本音は、私が侑生の親友を――昴夜こうやを好きだったからだ。


 侑生は、私が昴夜を好きだと知っていた。私が自覚するずっと前から気付いていて、そのせいで喧嘩をしたこともあった。一年生のときなんて、それが原因で、侑生は大怪我をした。


 私が侑生と付き合い続けた理由に“罪悪感”がなかったと言うと、多分嘘になる。でも私は確かに侑生を他の友達より特別だと感じていたし、好きでもあった、はずだ。


 それでも私は昴夜に翻弄ほんろうされ、そんな私を見て、侑生は別れを決意した。私から侑生を捨てることはないと確信したうえで、嫌な役目を引き受けてくれた。


「別れた直後は理由が分からなかったし、私も悲しくて先輩達の前で泣いちゃったけど……冷静になって、全部私のためだったんだなって気付いた。別れた後も、ずっと私のことを守って、庇ってくれたし」

「別れた後もなんかあったの?」

「ん、色々あってちょっとした虐めっぽいものを受けた。そしたら侑生が庇ってくれた」

「まあ、よっぽどのことじゃなけりゃ庇わないって選択はないだろ」

「でも別れてたのに。優しいよね、侑生は」


 それこそ、別れた彼氏にそこまでしてもらうなんて何様だと私をなじった子だっていた。


「今日はこれを借りてた気がする」

「……借りてた気がする、ね」


 ひょいと侑生がDVDを取り上げる。


 クロスボディのカバンの中には子どもっぽいお財布が入っていて、その中に「レンタル100円」と書かれたチケットを見つけた。


「うわ、アナログ。懐かしい」

「未来だとどうなってた?」

「全部スマホ」

「スマホ?」

「スマートフォン」


 夢の中の侑生は首を傾げていた。その手にチケットと五十円玉を渡して、私達は侑生の家に向かう。


 侑生の家は、高級住宅街の白金しろかねえきにある邸宅だ。お祖父さんが地元で一番おおきな雲雀病院の院長だし、そもそも四、五代前に開業した医者一族だしで、絵に描いたような豪邸だった。


 だから玄関も当然のように立派なのだけれど、いつも靴箱の上が妙に殺風景なのが気になっていた。当時は首を傾げるばかりだったけれど、今になって思えば、父子家庭の玄関が華やかに飾られていることのほうが珍しいというだけの話だ。


 侑生のご両親は離婚し、お母さんと妹さんは岡山に住んでいて、侑生の家はいつも空っぽだった。


「昼飯食ったの」

「食べてきた。侑生、食べてないの? 何か作る?」

「食べてないけど、朝遅かったから別に要らない。てか作るってなんだよ」

「だって目の前の侑生、高校生だから」


 侑生の食事はいつも冷蔵庫に入っている家政婦さんの作り置きだった。当時の私は大したものを作ることができなかったけれど、今の私は一人暮らし歴もそこそこ長い。


 夢の中の侑生はやっぱり少し変な顔をする。


「……未来の英凜は、何歳だったの」

「三十歳」

「めちゃくちゃ年上だな」

「年上通り越しておばさんだけど、未来は侑生も三十歳だよ」

「何してたの、三十歳の俺達」

「侑生は多分医者かな、卒業してから連絡取ってないから知らないんだけど。私は弁護士」

「喧嘩別れでもしてんの、俺達」


 お湯を沸かして、紅茶を淹れる準備をする。侑生はコーヒーより紅茶派だった。


「……喧嘩したわけじゃないんだけど」

「けど?」

「……高校二年生の夏って、新庄しんじょうは少年院だよね?」


 ティーポットにお湯を注いでいる侑生の横顔が、わずかに強張る。


 昴夜と侑生はただの“問題児”だったけれど、新庄篤史あつしは違った。彼は“札付きのワル”なんて表現では足りない、正真正銘、半グレに分類されるべき人だった。現に、彼がしたことといえば、私が知っているだけでも、傷害に恐喝、強盗、そして強姦未遂と枚挙にいとまがない。一年生のときに侑生が大怪我をした原因も新庄だった。


 その新庄は、確か二年生の夏休みに詐欺罪で逮捕され、余罪も明らかにされ、少年院に入った。だから今は、一色市にいない。


「……そうだけど、新庄に何かされるの」

「……卒業した後、私の、大学の合格発表の後に……」


 でも、私達が高校を卒業する頃に、彼は戻ってくる。


「……何から話せばいいんだろう」


 “うちの高校に伝説の不良がいてさ、クソ野郎って有名だった不良をぶっ殺したんだよ”――十余年経ったいまでもそう語られるあの事件のことを、どう説明したら。


 口を開く前に、ガランガランッと氷の音が響く。手早くアイスティーを作ってくれた侑生は、そのまま私の手を引いた。


 侑生の部屋のソファに座ってティッシュ箱を差し出されたとき、自分が泣いていることに気が付いた。


 私はいつもそうだ。あの日のことを思い出すたびに、私はいつも、夢の中でも泣いている。


「……私ね、卒業式に昴夜と付き合ったの」


 しばらく泣いた後、やっとそう口にした。


「バイトとか、合格発表とか、色んな理由があって全然デートできなくて。私が大学に合格した日の午後、やっと二人で会おうってなって」


 そうして昴夜の家に向かう途中、私は新庄に会った。


 新庄は、昴夜と侑生と犬猿の仲だった。だから新庄が私を狙ったのは当然といえば当然で、新庄に襲われたのは一度ではなかった。


 その日もそうだった。昴夜の家に向かう電車の中で新庄に出会った私は、口を塞がれ、公共の場であることなどお構いなしに体をまさぐられた。恐怖のあまり、私はまったく抵抗できなかった。逃げ出すことができたのは、偶然にして不幸中の幸いだった。


 その話を、私は昴夜に黙っていた。新庄に関わってほしくなかったから。


 それなのに、その日の夜、昴夜は後輩を人質に新庄に呼び出され、今までに私がされたことを知り、新庄に執拗な暴行を加えた。


 その二日後、私は、新庄が死んだことをニュースで知った。


 昴夜が新庄を殺害したと自首した、そう聞いたのは、さらにその二日後だった。


「昴夜は、自首する前に侑生に会いに来てたんだって、侑生から聞いた。でも昴夜は、私達が一切合切関係を断ってくれることを望んでた。新庄が殺されたことは――市内と県内のニュースではかなり大きく取り上げられてたし……週刊誌にも、昴夜が殺したんだ、もとから残酷な子だったんだって感じで書かれて。だから、私達ももう二度と会わずにおこうってことになった」


 新庄を殺害した真犯人が逮捕された、そう知ったのは、それから二ヶ月後だったと思う。


 昴夜は、新庄に対し、執拗に暴行を加えたことを認めていた。一方で、その行為態様は新庄の死因と結び付けられず、捜査が進んだ結果、昴夜の暴行は新庄の死と無関係だったことが判明した。真犯人は新庄の先輩、その動機は「新庄に斡旋されたオレオレ詐欺のバイトが原因で逮捕され、少年院に行くことになったから」と、身勝手な逆恨みだった。


「でも、昴夜が事件とは無関係だったって判明した後も、連絡はつかなかった」


 私が事件の全容を知ったのは、それから七年後だったろうか。たまたま昴夜の事件を担当した弁護士と知り合い、たまたま事件の話を聞いた。


『暴行の動機ですか? うーん、報復……とは少し違うかな。その少年にね、好きな女の子がいたんですって、高校一年生のときからずっと好きだった女の子。その女の子が、被害者の少年に乱暴されていたことが判明したそうです。被害者の少年が、まるで挑発でもするように、どんな態様でその女の子を辱めたかを語り、それに激昂してしまったんだと話していました。最後の最後に聞いた話ですし、その子の名前も教えてもらえなかったし、審判では話しませんでしたけどね』


 以来私は、その十余年前のことを、たまに思い出す。もっと早く昴夜への恋心に気付いていれば、新庄にされたことを話していれば、あの夜に昴夜を引き留めていれば。そんなたらればを繰り返して。


 ……ああ、そうだ。でも私は、侑生にも言っておきたいことがあったんだ。


「だから、私が引っ越す前に最後に会ったのは侑生なんだけどね。もう二度と会うことはないねって話して、本当に、それ以来一度も会ってないんだけど」


 私がもっと早く昴夜への恋心に気付いていれば、そうすれば、私は侑生を傷つけることもなかった。それも、私の後悔だった。


「高校生のとき、侑生からは色んなものをもらうばっかりで何も返せなくて、ろくにありがとうも言えないで、ごめんね。私にとって、侑生もずっと特別で大事な人だから……、だから、侑生はちゃんと、幸せになってね」


 夢は覚めないままだった。侑生は静かに、どこか唖然としたした顔で私の話を聞いていた。


 もう一度涙を拭いて、鼻を啜った。まだ夢が続くというのなら、これからどうしよう。もともとは昴夜の家に行こうと思っていたけれど、隣には侑生がいる。恋をしていたのは昴夜でも、侑生だって特別で大事な人だというのは嘘ではなかった。


「あの頃みたいに過ごそっか。お菓子食べながらDVD見て……夕飯作ったことないけど、今日は一緒に食べる?」

「……それなら、祖母ちゃんに連絡しないとな」

「……そうだね」


 この夢の中に、お祖母ちゃんはいるのだろうか。ガラケーを改めて開くと、スマホにはない「三国妙子たえこ」という連絡先がリダイヤルに入っていた。お祖母ちゃんはメールを打てなかった。


 ガラケーを耳に当てると、プルルルル……と発信音が聞こえる。少しだけ、緊張していた。


「《もしもし、英凜ちゃん?》」


 ……お祖母ちゃんだ。十三年前と変わらない、お祖母ちゃんの声だった。


「……お祖母ちゃん、今日、雲雀くんと晩ご飯食べてから帰るね」


 再び泣きだしてしまいそうになり、震える声で伝えた。お祖母ちゃんと晩ご飯を食べてもよかったかもしれないけれど、侑生の近くから離れると夢から覚めてしまいそうで怖かった。


「《若先生のところの雲雀くんね。分かったよ》」


 侑生のお父さんがお祖母ちゃんの主治医で、お祖母ちゃんはいつも侑生をそう呼んでいた。


「……祖母ちゃんと話すの、久しぶりなの」


 電話が切れた後、侑生が遠慮がちにそう言った。


「高三になった四月に死んじゃったから」

「…………」

「……もう十三年も前だからね。お祖母ちゃんが死んだのは事故じゃなくて、言ってしまえば寿命みたいなものだったし……あのとき死ななくても、今はもういなかったよ」

「……そっか」

「……本当に、あのときほど色んなことがあったときってなかったな」


 高校卒業後も、大なり小なり人生の起伏はあるけれど、高校生のときほど波乱万丈の日々はなかった。


「……そのとき、俺は、英凜の力になれてた?」


 夢の中の侑生は少し自信なさげだったけれど、思い出してみれば、侑生はなんでもできるくせに全然自信たっぷりなんかじゃなかった。


「……ずっと支えてくれてたよ」


 苦笑いを見て、ああ、この顔が好きだったと思い出す。恋はしていなくても、侑生のことも大好きだった。


 夢は、いつまでも覚めなかった。侑生と一緒に夕食を作って「あまりもので適当に作れるあたり、料理に手慣れた大人って感じするな」と笑われて、夏の夜を家まで送ってもらった。十四年前の夏の夜は涼しくて「本当に温暖化って進むんだね」と話した。


「……侑生、抱きしめてもいい?」


 家の前まできてもらった後、おもむろにそう口にすると、夢の中の侑生はぱちくりと瞬きした。


「……別にいいけど、英凜が俺を抱きしめんの」

「物理的に難しいかもしれないけど、精神的にはそうしたい」

「……別にいいけど」


 ぎゅう、と背中に腕を回して抱き着く。この頃の私達は、二十センチ近く身長が違ったと思う。やっぱり物理的には難しいし、別れて十三年も経っている私は少しだけ恥ずかしかった。


「……元気でね、侑生」


 抱きしめたまま、ずっと言いたかったことを口にする。


「高校生のとき、ずっと一緒にいてくれてありがとう。たくさん我儘を言って、傷つけてごめんなさい。もう会えなくても、元気でいて、幸せになってね」


 侑生は、返事をしなかった。


 家に入ると、お祖母ちゃんがいた。十三年ぶりに会ったお祖母ちゃんに私は泣いてしまって、お祖母ちゃんに心配されてしまって、でも侑生相手に話してしまったように夢の中なんだとは言わずにいた。今度こそ夢から覚めてしまいそうだったから。


 寝るときだってそうだった。長い夢だけれど、さすがに寝たら覚めてしまう。メールも当時のものが残っているのだろうかと期待するがままにガラケーを見て、懐かしいメールの数々を読んで。


「8月26日(日)00:02

 差出人:雲雀侑生

 件名:(無題)

 本文:また明日、てか今日」


 侑生からの新着メールの意味が分からず、とりあえず「ありがとう」とだけ返信して眠りについた。


 目が覚めるとき、私は電車の中にいるのだろう。おばあちゃんの十三回忌のために一色市に戻ってお墓参りをして、夕飯までに昴夜の家に行こうとする道中に。でも、こんなに長い夢を見てしまったから、もしかしたら東西線の終点まで行ってしまっているかもしれない――……。




 でも、私は夢なんて見ておらず、十四年前の中央駅に着いてからずっと現実を過ごしていた。


「……昨日の英凜、なんかおかしかったから」


 そう知ったのは、次の日、うちまで来た侑生に会ったときだった。

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