140話 協力と信頼



 様子を見ながらではあるが、一通り話すことに決めた。


「ヒュドラーの一員が現れるとされる場所の目星をつけたところです」


 ジャンネさんは目を丸くした。


「ほう、どこです?」


「北区スラムです。仮設アジトと言われる場所が、数箇所。今までに傭兵達向けの説明会を行ったことがあるという情報に過ぎないので、本当に接触できるかは不確定ですが」


 頷きながら聞いているジャンネさんに尋ねる。


「……ここの情報をお渡ししたら、防衛戦士団の方で突入、逮捕することはできますか?」



 ジャンネさんは腕を組んで考える様子を見せた。


「スラムの治安回復は我々の課題でもあるが……だからこそ、確実な情報がないと動けない可能性が高いな……」


「だからこそ……? 詳しく聞いてもいいですか?」


「危険度が段違いな重い課題として認識されているから、という意味だよ。スラムに巣食う犯罪組織や犯罪者が多すぎるんだ。一つ一つの悪事を取り締まってもキリがない上、出動者の殉職率も高い。僅かな収穫の為に不確定な情報に従って乗り込むのは、効率が悪いと言われてしまうだろう……」


「うーん、そうかぁ……」


「入念な調査や準備を行った上で、人身取引組織を大々的に取り締まる作戦を組むことはできるかも知れない。ただ人数も金額も大掛かりになるし、長期計画になる。そうなると、短期解決と局所的対応を望む貴方達の目的から離れていく可能性は否めないね」



 納得はいく話だ。……じゃあどうしろと? 少人数の俺達が自分でやるの? と言いたくなるが、それを彼女にぶつけても仕方のない話。防衛戦士団を動かしたければ確実な成果を見込める情報を用意しろということだろう。


「……分かりました。今のご回答を踏まえて、弊社も、もう少し情報を集めるなり作戦を考えるなり、考えてみます」


「すまないね……力になりたいのは山々なのだが……」


「あはは、いえいえ。無理なことは無理と言って頂いて構わないんです。こうして説明しに来て頂いているだけでも、ジャンネさんには充分助けられていると感じてます」



 一息ついて、話題を変える。


「もう一つ。人身取引オークションというものがあると聞いたんです。……ご存知で?」


 彼女が明確な悪の単語に目付きを鋭くする。

「噂程度だ」


「そうですか。じゃあ、少しはジャンネさんにもメリットがある情報かも――」



 俺はスクラーロさんから聞いた情報を話した。彼女はメモを取りながら真剣に聞いていた。



 少し温くなったハーブティーを一口飲んで言う。


「これの場所と時間さえ掴めれば、俺達の目的も、ジャンネさんの目的も、もしかしたらエバッソさんの狙いだって達成されるかも知れない」


「そうだね。ヒュドラーだけではない、悪を一網打尽にできる。その情報が得られれば、防衛戦士団を動かすことも容易いと思うよ」


 頷く。だが、お互いあまり期待しないようにしておきたい。


「ですが、この情報を掴むのは相当難しいと思うんですよね」


「そうだな……私も、そこまで貴方達に背負わせるつもりはないよ。存在と実態を知れただけでもありがたい話だ」


「ご理解頂き感謝です。もし情報が入手できても、その過程で危険なことや、法的にグレーなことが必要になるかも知れない。だからその時は、俺達が罪に問われないように、ジャンネさんに上手く庇って欲しいんです」


 彼女は頼もしく頷いた。


「任せてくれ。現に、会社周辺の警備人員は、私の協力者だけで固めている。安心して行動して欲しい」


「助かりま――」



 ……うん?



「協力者……とは」


「ウッズ・タオ氏に迎合せず、ルークさん達は白だと信じ、真犯人を探ろうとする正義の派閥だ! エバッソ副長こそ中立、というか実質は対立派閥だが、人数はかなり――」


 怪訝そうな顔で見つめられる。


「どうした? 顔色が悪くなってないか」



 性格の悪いエリートが集まり、時に権力や武力で横暴を働き、一般人から恐れられている防衛戦士団だぞ。その内部に、ジャンネさんのような性善説信者の協力者が沢山いるなんて、信じられるかよ……! 絶対やばい奴が混ざっている。今までの俺の言動、大丈夫だったかな? 余計なこと喋ったんじゃないか? 胃がキリキリする。



 余裕を無くしたまま口を開く。


「……その協力者の全員を信用することは出来ないな、と思ったんです」


「疑心暗鬼になるのも分かる。だけど、そこは信頼してくれ! 私が認めた人達だ、正義感が強くて実力もある」


 はあ? 何言ってんだこいつ。ああイライラする。根拠のない自信と信頼が鼻につく。こんな甘い奴を信用すべきじゃなかった。俺の馬鹿野郎。


 つい、嫌味な失笑が出る。


「はん、信頼できる根拠がないですよ。ジャンネさんが認めれば皆正義なんですか? 冗談でしょ」



 ジャンネさんがキョトンとして首を傾げた後、合点がいったと言わんばかりに拳で掌を叩いた。


 彼女は明るく笑い出す。


「あっはっは……申し訳ない。最初にするべき、一番大事な自己紹介が抜けていた」



 そして、自慢げなきりっとした表情を見せた。


「私は剣技ダイヤモンド級、そして、光精霊スペシャリストの資格の保有者なのだ!」


「おっ、おおー……?」


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