138話 会議は中断
久々の七人での食事は温かくて、楽しくて、美味しかった。この平和な時間を取り戻すんだと、摩耗した心に火が灯る感覚があった。
昼食後、シャワーの時間を貰った。昨夜の身を切られるような諍いの数々。その重みが、ようやく心身から離れて流れていってくれた気がした。
さっぱりして、結局湿布も自分で貼り直して、会議室に向かった。俺とカルミアさんの得た情報を共有し、作戦を立てる会議である。
最初にレイジさんが司会台に立ち、苦い顔で言った。
「昨日の話をする。カルミアは情報収集活動において戦闘した。そして相手を酷く負傷させた。だがこの件について、うちからは防衛統括へ通報しない。これが会社としての決定だ。皆、従うように。――いいな」
一同、複雑な表情で、しっかりと頷いた。倫理的にどうとか、相手の容態がとか、頭には各々の思いが渦巻いているだろう。だが、カルミアさんの罪を追求したがる人はいなかった。
会社決定という形と命令口調を使って、個々人の迷う余地をなくしたのは、今後において重要だったと思う。うちの代表取締役、レイジさんの判断に、強さと優しさを感じた。
――隣に座るカルミアさんは、目を伏せていた。ただそれだけ。何を思っているかは、分からなかった。
カルミアさんは二人の傭兵から、仮設アジトとなっていた場所をいくつも聞き出していた。そこに俺の、仮設アジトにはヒュドラーのメンバーが必ず一人いるという情報を乗せ、そこを狙って攻め入ろうという話になった。
では、いつ、誰が、どう攻め入るか――。と言ったところで、固定連絡機が鳴った。
近くにいた俺が応答する。相手はジャンネさんだった。
『ルークさんか。お待たせしたが、御社周辺の警備体制が整ったから、その報告だ』
いいタイミングだ。
「ありがとうございます!」
『危険が薄れるまでしばらくは、昼夜問わず最低一人を配備させてもらうよ。威圧も兼ねて防衛団員と分かるような格好をするから、ちょっと雰囲気が厳ついかも知れないがご了承願う』
「承知しました。これで安心できます」
うむ! と満足気な返事の後、彼女は続けた。
『それとは別で、貴方にちょっとした情報共有をしたいんだが、会える時間は作れるかな?』
「そうですね……確認します、少々お待ち下さい」
送話用マイクから顔を逸らして振り向く。
「レイジさん。例の防衛団員の方から情報交換のお誘いが来たんですが、いつなら行ってきて良いですか?」
彼の黒い瞳がギラッと輝いた。
「いつでもいい。何なら今からでも」
「え……でも会議」
「そっちが優先だ、情報は多い方がいい」
「そ、それもそうか」
再びマイクに向き合う。
「いつでも大丈夫です。今からでも行けます」
『本当か! 実は今、外の仕事のついでに携帯連絡機で話してるんだ。支部での連絡だと話しづらくてね。十分後には行ける距離にいるよ』
「あ、本当に今からいらっしゃいますか」
『御社の応接間にでも通してくれ。話自体は二人でさせて貰えると嬉しいけれど』
「分かりました、お待ちしてますね」
固定連絡機の受話口を耳から外して置いて、終話ボタンを押す。振り向いたら注目が集まっていたので説明すると、皆のテンションが上がった。
ログマがわざとらしく意地の悪い笑い声を上げたので目を向けると、彼はポケットからいつぞやの翡翠のついたピン――霊術力式盗聴器を取り出した。なんで今も持ち歩いてたんだよ。
彼は、ピンとセットになっているらしい翡翠の半球を机の上に出し、指差した。
「相手はお人好しのルークだけだと油断して来るんだろ? 俺達もこっちで聞いててやるから、存分に喋らせろよ」
顔を顰める。
「趣味悪いな。相手は味方だし、うちを信頼してここに来てくれるのに」
「そういう所だよ、お前がお人好しだってのは。防衛団の情勢が今どうなってるかなんて分からないぞ? 警戒した方がいい」
お人好し仲間だと思っていたダンカムさんが、まさかの賛成を示す。
「僕も、何があってもいいように最善は尽くすべきだと思うなあ。わざわざ二人でって指定しているのも気にかかるし」
「そ、そういうものなのか……?」
ウィルルが話をぶった斬る。
「私、畑で育てたハーブのお茶があるの! ジャンネさんにはお世話になったし、ご馳走したい!」
「飲んでくれるかな……さすがに飲食物は警戒してるんじゃ……」
「へ、なんで?」
「なっ、なんでって……あれ……?」
味方? 敵? 混乱してきた。
ログマに襟元を捕まれ、羽織ったシャツの裏に盗聴器のピンを付けられる。
「余計なことは考えるな。ルークが馬鹿正直に喋ってれば勝手に油断してくれる楽な相手なんだろう? 茶でも菓子でも出して仲良くやって来い」
「いちいち嫌な言い方……」
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