最終話 推し友は永遠に。
やっと想いが通じ合えた俺たちは、その嬉しさを噛み締めるようにしばらく抱き合っていた。
気付けば真凛の涙は止まり、とびっきりの笑顔になっていた。
「真凛? そろそろ配信が始まるよ?」
「……うん」
そう言って体を離す。名残惜しいけど、花梨ちゃんの配信を見逃すわけにもいかない。……正直ずっとこのままでいたいけど、それは俺のわがままだ。
ベッドに腰を下ろすと、真凛も隣に座る。すっかり定位置になったその距離感に安心感を覚える。
ずっとこうやって一緒に過ごしてきたけど、今更ながらめちゃくちゃ近いな……。
「ほら、一緒に見よう」
こくり、と軽く頷いた真凛。いつになくしおらしい。
ちらと顔を見ると、真っ赤な顔をした真凛が目を逸らす。どうやらいつもとは逆の立場になったらしい。
そんな真凛の可愛らしい様子を眺めながら、配信開始を待つ。
配信開始までのカウントダウンが表示されているスマホの画面を見つめていると、なぜだか俺まで緊張してきた。
というか、配信までまだ少し時間があるというのに、視聴者の数がとんでもないことになってるな。
コメント欄には早くもたくさんのコメントとスパチャが飛び交っている。それぞれが思いの丈を綴ったコメントを見ていると、花梨ちゃんのファンたちの温かさが伝わってきてこっちまで嬉しくなってしまう。
「すごい……。なんか私まで嬉しくなっちゃう」
どうやら真凛も俺と同じ気持ちだったみたいだ。
画面を見つめながらしみじみとつぶやく真凛。
そして、ふと俺の視線に気づいた真凛がこちらを見て、ふわりと微笑んでくれる。まるで天使のような笑顔。かわいい。
こうやってたくさんのファンたちがお祝いをしているのを見ると、これまで応援してきてよかったと心の底から思える。
「……私、花梨ちゃんを推してきて本当に良かった。冴えない私を変えてくれて、律と繋げてくれて」
花梨ちゃんには人を変える力がある。真凛と俺だけじゃなく、たくさんの人を変える力が。
『こんやっほーー! 電子の海から生まれたアイドル、来栖花梨だよ! みんな、私の記念日に集まってくれてありがとーー!』
「あ、始まったよ。……今日も可愛いね、花梨ちゃん」
いつもの挨拶と共に、画面の中に花梨ちゃんの姿が現れる。
記念日のために用意された衣装を着た花梨ちゃんはとても魅力的だ。思わずその衣装をじっくり観察してしまう。
「律〜? もしかして、見惚れてない? ……花梨ちゃんが可愛いのは分かるけどさ、私のことも忘れないでよね」
少しむすっとした顔で真凛が言う。どうやら花梨ちゃんにヤキモチを焼いているらしい。
というか、隣にも、そして画面の中にも花梨ちゃんがいるこの状況に今更ながら混乱する。もしかして、今俺ってすごく贅沢な体験をしているんじゃないか……?
「ご、ごめん! つい癖で衣装を観察しちゃってた……」
「……ぷっ! あはは、冗談じゃん。だって、律は花梨ちゃんより私のことが好きなんだもんね〜?」
「うぐ……!」
言い訳なのか自分でもよくわからない言葉を聞いた真凛は、少し吹き出した後、揶揄った様子でそんなことを言う。
どうやら真凛はいつもの揶揄いモードに戻ったみたいだ。照れくさくなった俺は、少しの抵抗とばかりに目を逸らし、画面に視線を戻す。
……やっぱり、この関係が俺たちには合ってるのかもしれないな。
そうして、たくさんのリスナーたちにお祝いをされながら、花梨ちゃんの記念配信が進んでいく。
軽快なトークと、たまに出てくる花梨ちゃんの天然エピソードに、気付けば俺たちは2人で声を出して笑っていた。
「ふふっ……。ねぇ、今の聞いた?」
「うん。花梨ちゃんらしいよね」
休みの日に登校したとか、コンタクトをつけてるのにまたつけようとしたとか、花梨ちゃんの天然エピソードは尽きることがない。
そんな無邪気で、いつも楽しそうなところに惹かれたんだっけ。
「……ねぇ、律」
初めて花梨ちゃんの配信を見た時の気持ちを思い出していると、真凛がこちらを見つめているのに気づく。
「私たちも、変わらずにいようね。私は律とずっと一緒に、こうやって笑っていたい。花梨ちゃんみたいに、変わることなくさ」
「……うん」
「約束、破ったら許さないからね」
「う、うん」
花梨ちゃんの力で変わることができた俺たちの関係は、これからもずっと変わることなく続いていくだろう。
隣に座る真凛の体温を感じながら、これからの未来に想いを馳せる。
きっと、楽しい未来が待っている。そんな確信がある。
――だって、俺たちは同じ
──
クラスで2番目に人気のダウナー系清楚ギャルの愛が重すぎる〜オタクなギャルに包囲網を敷かれている件〜 モツゴロウ @motugorou
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