第7話 小さな花

 空から降ってくるカステラ、といっても絹さんがぽろぽろと落としてしまってるだけなんだけど。それを食べてぼくは上機嫌になったんだ。魔法もうまく使えなくて落ち込んでいたし、絹さんも元気がなくってどうしたらいいかわからなくて落ち込んでいたんだけど。


 カステラってやつには凄い力があったようだ。少しずつだけどカステラを食べながらお茶を飲んでいた絹さんの頬がほんのりと色づいてきたような気がする。隣の奥さんと話す声も少し大きくなったかなぁ。


「絹ちゃん、木綿ちゃんはきっとお空の上から見てくれてるよ!心配ないよ、お空の上に行けば膝や肩のいたみもなくなるって聞いたことあるし。もしかしたら、旦那さんに会えてるかもしれないよ!」


 その言葉を聞いた絹さんが少し顔をあげて目を丸くした。

「あぁ、そうかぁ! 再会してるねぇ」

「うんうん、木綿ちゃんも絹ちゃんも一人じゃないよ、私だっているし!」

「あぁ、そうだわね、ありがとう!」


 その時、ぼくの魔法のスティックがぴかーんって光ったような気がしたんだ。今だ! 魔法をかけよう! でも、なんだかいつもとは違う方がいいような気がしている。

 その時庭先のクローバーが風に揺れてざわざわと音が鳴り始めた。いつもとは少し違う、重なる葉っぱの音に視線を移すと小さな金平糖のようなものが降ってきた。


 ぼくは急いで絹さんの膝の上からずるずると降りて行く。膝の上とはいえ、ぼくから見れば少し高くてちょっぴり怖いんだ。


『トゥインクル、アイシクル』


 ぼくは呪文を唱えながら、ぴかーんと光るスティックを庭先に降ってきた小さな金平糖の方に向けて大きくゆーっくりと円を描いた。何度も何度も円を描くと、小さな小さな黄色い花が咲いたんだ。なんて名前の花にんだろうか、ぼくにはわからないけれど、小さくて可愛い花が咲いたんだ。


 そしてまた優しい風が吹いてきて、ぼくの後ろから声が聞こえて来たんだ。


「絹ちゃん、庭に可愛いい花が咲いてるね」

「どれ?」

「ほら、あそこ! 小さな黄色い花!」

「あぁ、カタバミ! 木綿が好きだった花!」


 絹さんの表情が柔らかくなり、瞳に涙が浮かんでいる。ぼくが初めて見る涙、淡いピンク色でキラキラとしている。

 ぼくは慌ててポケットから小瓶を出して、絹さんの瞳から溢れてくるピンク色の涙を集めたんだ。初めて見る美しい涙だった。

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タキシードを着た妖精 綴。 @HOO-MII

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