第6話 ぼくの大好物

「絹ちゃん、これ美味しそうよー!」

「あぁ、ほんとだねぇ」


 白くて丸いお皿に可愛いらしい黄色い花が書いてある。お隣の奥さんは、茶色い紙袋から取り出したカステラを一切れずつ、そのお皿にのせた。

 美味しそうな焼き色がついた黄色いカステラは、優しくて甘い香りがする。ぼくはもっと近くで見たくて、絹さんのお膝の上によじ登っていった。こういう時はスティックが少し邪魔なんだけど、いざって時に使えなかったら困るから仕方がない。


 木綿さんの分のカステラもお仏壇に御供えして、お隣の奥さんはお茶を少し飲んだ。


「いい香り! 絹ちゃん、カステラ食べよう!」

「頂こうかねぇ」


 絹さんはフォークでカステラを端のほうから押さえて小さくカットした。カステラはふわふわとしていて、押されてへこんでも、すぐに元の高さに戻ってくるんだ。そして甘い香りがもっと広がってきて、ぼくの鼻はピクピクと動いてしまう。


「あら、美味しいねぇ」

「ほんとだねぇ」


 絹さんが少しずつカステラをフォークで切っては口に運んでいくのを、ぼくは絹さんのお膝の上で口をぽかーんと開けて眺めていたんだ。いーなぁー、美味しそう! ってぼくは羨ましくて、絹さんの顔とカステラの間を往復するフォークを目で追っていると、小さな黄色い欠片がころんと降ってきてぼくのおでこに当たって転がっていったんだ。

 

「あっ!」

 ぼくは思わずそれを拾って香りを嗅いでみたら、とーっても美味しそうだったんだ。前歯のない隙間から口の中にそっと入れると、ふんわりしていて、甘くて美味しくてぼくの髪の毛がぴーん! ってなったんだ。


「こ、これは美味しい!」

 その後もいくつか小さな欠片がころんと降ってくるから、ぼくはそれを口に入れたんだ。ちょっと大きな欠片は前歯の隙間からは入らなくて、あーんって大きな口を開けて頬張ったんだけど、良く考えると少しずつ噛れば良かったんだけどね。


 その時からカステラはぼくの大好物になったんだ!

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