第5話 魔法が使えない妖精

 絹さんは一人になってしまってから元気がなくなってしまった。しょんぼりと背中を丸めて仏壇の前に座って小さくなって動かない日々が続いている。

 二人の旦那さんは帰って来ないまま季節は過ぎて、絹さんだけになってしまった。豆皿に入れられた四つ葉のクローバーも水を吸ってしまって、しょんぼりとしてしまっている。この頃の絹さんには、ぼくの魔法は効果があまりなくて四つ葉のクローバーが両手を広げることが減ってしまっていた。



「絹ちゃん! ほら、灯りもつけないでどうしたの?」

 お隣の奥さんが心配して時々様子を見に来てくれていた。おにぎりやお漬け物を持ってきてくれたり、お饅頭や果物を持って来てくれたんだ。その奥さんとおしゃべりをして、少しだけ絹さんは微笑むんだけど、一人になるとすぐにまた元気がなくなっちゃうんだ。


 

 その頃のぼくは魔法の使い方で悩んでいたんだ。絹さん達が二人でいる頃は上手になったなぁーって思えるくらい四つ葉のクローバーが増えていたんだけど、最近はうまくできない。


『トゥインクル、アイシクル』


 スティックの先の星がピカピカとしていても、絹さんの肩の上で大きな円を描いてみても……何も変わりやしない。絹さんだって丸めた背中を伸ばすこともないし、その瞳から溢れる涙も氷柱のように凍ってぱちんと弾けることもなく、そのまま頬を濡らしている。


 スティックの使い方が悪いのかなぁーって思って角度を変えてみたり、早く回してみたりしても全然変わらなかった。さすがにぼくも魔法が使えない妖精なんだ……って落ち込んでしまって、座っている絹さんのエプロンの裾に体育座りをしてうつ向いていたんだ。



「絹ちゃん! 商店街に新しいお菓子屋さんが出来ててねぇ、並んで買ってきたのよ! 一緒に食べよう」


 またお隣の奥さんが、茶色くて綺麗な紙袋を持ってやって来たんだ。

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