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第1話

天使がいれば悪魔がいる

神がいるなら邪神もいる


いずれも片方しか存在してないなんてことはありえないし、片方がいないならもう片方もいないってのが普通だ


平坂ひらさかはそんなことを考えながら、歩道を歩いていた

ここは田舎でも都会でもない普通の街

車通りも普通で、1分に一桁程度の量

建物と建物は透間無く建てられているし、公園や店もある

無い物といえば、遊ぶ場所だ

勿論公園程度ならあるが、17の高校生が遊ぶにはちょっと物足りない


平坂は学校に到着した

いつも通りの景色にいつも通りの校門

学校は層3階建てだが、横は広い


いつもと違うことと言えば、前から聞かされていた転校生が来ることだけだ

平坂は興味なさげなフリをしているが、興味がゼロなわけではない


平坂は教室に入った

教室は2階に位置する3年R組だ

季節は春だが、平坂は高校中ずっと友達がいないため、学年が変わろうと景色が変わるだけの些事な話だ


それからしばらく、チャイムが鳴り響く

それと同時に扉が開き、男の教師が入ってきた

平坂は教師の名前は覚えて無く、うるせえじじいだな程度にしか思っていない

それに『先生』と呼べば解決してしまうので、名前を覚えるメリットすらも無い


「今日はこのクラスに転校生がいるぞ」


そう言うが、転校生らしい人の姿は見当たらない

いつ頃に来るのだろうかと平坂は机に肘をつき、手の上に顔をやり欠伸をした


ここでクラス中が転校生はいつ来るのか? などと質問し始めた

教師は煩わしそうに溜息を吐く


「来る時刻は聞いていない」


そう答えると、クラスは静まり返った

平坂は窓際の席の最後尾であった為、窓から外の風景を見ていた

クラスは転校生の話でざわめいている


そんな時、椅子の下から変な感覚がした

平坂は椅子の左側から下を覗き込んだ

平坂は驚いた

そこには銀髪赤目の少女がいたからだ

よく見ると、右目に黒い眼帯を付けている

制服からしてこの学校の生徒だろう

灰色の髪に赤目という特徴から、日本人には見えなかった


「何してる?」


平坂は聞いた

少女は何も返さず、椅子の下にいた

そのポーズからは避難訓練時に机の下に隠れるときのポーズと似たものを感じる


「転校初日 遅刻 こっそり入る 席分からない 詰んだ 検索」


平坂は呆れた

転校初日に遅刻しようと普通は誰も気にしない

それほど意識が高いってことなのだろうと妄信し、姿勢を戻した

平坂は何も見なかったことにした


という冗談は置いておき、平坂は教室中を見渡す

たしかに空いてる席は無かった

平坂は気になった

この子はどこに座る予定だったのだろうと


平坂は赴くままに再び椅子の下を覗き込む

やはり少女はいた


「席聞け」


平坂は姿勢を戻し、欠伸をした

寝不足で夢でも見てるのかと机に顔を伏せ、眠りにつこうとした


「いてっ!!」


その時、足がつねられた

平坂にクラスの視線が集まる

この気まずい空気をどうしてくれるんだと言いたかったが、平坂は何も言わずにやり過ごした

次第にクラスの視線は正面へと変わる


「きゃっ!!」


そう声を上げたのは、平坂の横に座る女子である、江中由奈えなかゆうな

由奈は陽キャの中の陽キャ

平坂とはかけ離れた1軍女子だ

クラスの視線は由奈に集まった


「なんか足触られて」


それを聞くや否や視線は平坂の方へ来た


「待て、俺じゃないからな?」

「じゃあ誰がいるっていうんだ?」

「そうだそうだ!」


そう返ってきた

これは立派な冤罪だ

やったのは勿論、椅子の下にいる少女


「待て、俺の椅子の下を見ろ!」


何言ってるんだこいつはという顔をされた

由奈は平坂の椅子下を覗き込む


「どうも」


少女がそう挨拶をすると由奈は腰を抜かし椅子から崩れ落ちて気絶した

これは大問題だ

由奈は校長の娘でもあるため、かなり面倒なことになることを平坂は察した


少女は椅子の下から出、立ち上がった

立ち上がると分かったが、灰色の髪は思ってるより長かった

しかし紺色をベースにした制服と黒いスカートは、天使と呼んでいいほど彼女に似合っていた

恋にあまり興味のない平坂ですら頬を赤らめるほどに


「えっ、その子が転校生だ」


教師は紹介した


「私の名はみお 血液S型、星座は猫座」


クラス中が首を傾げた

平坂は目を逸らした

理由は簡単で、中学校初日に滑った挨拶をし、それからというものクラスの笑いものになった過去があったからだ

それの影響で岩手から高知まで引っ越したりもした


「とりあえず私の席はどこだ? 用意してればこっそり入れたものを」


クラス中が思ったであろう

転校生なら正面から入って自己紹介しろと

それにしても席が無いのは気になる

やはり用意し忘れていたのか?

平坂がそう考えていると、教師は言った


「席はまだ物置部屋にある。悪いが誰か案内を……」


教師の視線が平坂の方に来た

平坂は面倒くさいという感情と、この子と2人になれるという感情があった


「俺がやる」


平坂はそう言い立ち上がった


「着いてこい」


そして平坂と澪は廊下を歩いていた

他クラスは授業を始めており、静まった廊下だった


「なあ、澪」

「どうした?」

「いや、名字も聞いときたいなって」


澪は立ち止まった

平坂は立ち止まる澪の方へ振り向く


「んー、そうだな……星猫ほしねこ

「んな名字あるかよ」


2人は再び歩き出した

そんな会話をしていたら、物置部屋に到着した

物置部屋には机と椅子が沢山置いてあった


「じゃあ、俺は……」


平坂はまたもや2つの感情が戦っていた

天使の囁きがあれば悪魔の囁きもある

1つは重い机を持てば好感度が上がるというもの、もう一つは椅子を持って楽しようというもの


「よし、俺が机を持つから、お前は椅子を……」


澪は机を脇に、椅子を手に持っていた


「私は一般人に頼ったりしない」


平坂は疑問を抱いた

その言い方だと、まるで自分は一般人でないような


「そうだ、一応お前の名前も聞いておくか」


平坂は素直に名前を答える


「そうか、平坂八紀ひらさかやつきな」



「覚えたからな」

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