ロマンチック




 よくある話だろ。


 男は言った。


「警察が怪盗を追っかけている内に恋心を抱きました~なんて話は。だから。はい。処刑される前に、気持ちを伝えておこうと思ってな。あんたが何用でこの刑務所にいるかは知らんが、絶好の機会だ。受け取ってくれや。別に返事は求めねえし、もらってくれたら、その後は燃やそうが捨てようが好きにしてくれて構わない」

「………そうか。わかった」


 看守は葉書を受け取ろうとしたが、男がその前にと言葉を紡ぎながら、葉書を一度引っ込めた。

 男は終始、余裕のある態度だったが、今は心なしか焦っているようにも思えた。


「あんた。怪盗バレンだよな」

「おまえがそう思っているのならば、否定したところで何も変わりはしないだろう」

「………あ~~~」


 男は唸り声を上げてのち、引っ込めた葉書を差し出した。

 看守は葉書を受け取り、別人だったら災難だなと言いながら、中身を一瞥してのち、何の躊躇いもなく石畳の廊下に落としては、マッチに火を点けて燃やした。


「では。私はそろそろ見張りの交代の時間だ。失礼する」

「ああ。ありがとう。受け取ってくれて。さようなら」

「さようなら。名も知らぬ警察さん。いや、私のヴァレンティヌスさん」


 看守は、一度だけ看守帽を脱いで男に向かって会釈してのち、その場を立ち去って行った。






「ま。ロマンチックな人生だった。かな」


 男はから笑いをしてのち、処刑時間まで寝転んで過ごしたのであった。


「はは。燃え滓すら残ってねえわ」











(2024.2.7)



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青で始まり雨で終わる 藤泉都理 @fujitori

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