第16話
俺たちはアゴ美の職場である図書館にいる。
高い天井、大きく取られた窓、広々とした空間に、座り心地の良さそうな椅子や、大きめの机があり、数人が静かに本を読んでいる。
平日の、図書館は人も少ない。
次はキャンプですと言ってなかったから?
俺はげんなりとした視線をジャンプに送った。
こんなところで、本なんて読んでいる場合なのか?
だがジャンプはのんびりと妖怪の本を見続けているのだ。
「ほら、俺のご先祖さまっスよ」
と、嬉しそうに,から傘おばけの絵を見せ、
「俺は経験値が上がると進化するタイプだと思うんスよ」
って、ポケモンか?お前は!
「じゃあ、兄貴はなんなんですか?この本の中には、兄貴っぽい妖怪はいないっすよ。知ってる仲間はほとんど出てきてるのに」
「俺はいいんだよ。別に」
「兄貴も自分のルーツを知りたいと思うでしょう?」
「こちらにあるかもしれませんよ」
アゴ美が民俗学という書架から、百鬼夜行図を持ってきた。
「ほら、ここにも俺の親戚がいるッス」
確かに、傘だの鍋だの、なんだかんだいる。おお、犬頭がいるじゃ無いか。身体は人間とは言えないが、二足歩行をちゃんとしている。
「まあ、おれの親族はこれかな」
「狼じゃないっスよ?」
「狼のことを昔は山犬とも呼んでいたそうですよ」
兄貴はじゃあ、元狼っスか?
と、聞かれて、俺は一瞬詰まった。
狼の記憶なんかない。何であったかの記憶なんて全く無い。狼に似た石が拝まれているうちに俺になったのだろうと、なんとなく思っていた。しかし、狼型になっても、人間形の狼頭になる理由がない。
俺って一体なんだったのだろうか。
だが、そんなこと、とりあえずどうでもいい。
過去よりも未来が大事だ。
だから、キャンプの下調べに来たのじゃないのか?婚活キャンプの!
ジャンプはしぶしぶ旅行の書架に向かった。
アゴ美はまた仕事に戻り、カウンターであれこれしている。昼下がりの図書館は人もあまりおらず、のんびりと静かだ。
カウンターで小さな子供がアゴ美に何か頼んでいる。アゴ美が後ろの棚から本を取り出して渡すと、嬉しそうに受け取った。子供の笑顔に、アゴ美も笑顔で答える。
いつも、そんな風に笑っていれば良いのに。オドオドもせず、のびのびとしているアゴ美の方がいい。不細工度も何割かマシになる。いや、マシというより、冷たい美人より良いかも知れない。
「兄貴、良い所みつけたっスよ!」
ジャンプが旅行雑誌をもって、飛び跳ねてきた。そうそう、次の婚活ポイントだ。
「ほら、ここ、行ってみたかったんスよね」
オシャレなキャンプ場として有名だとか力説するが、俺には良さはわからない。
「兄貴がそれじゃ困るっスよ。ここならそんなに遠くないし…そうだ!」
ジャンプがカウンターに飛んでいって、あご美とウキウキ喋っている。俺は全く蚊帳の外だが、現代に疎い分しょうがない。
あご美が明日休みだから、下見に行こうといういう話が、聞こえてくるだけ。2人が行くというなら仕方がない。
また、つくも神レンタカーを予約することになった。
狼頭妖怪の誤算 3代祟る為にはまずは婚活から @povu
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