第15話

 フランスパンを両手に仁王立ちするパン屋。俺たちに対して、あからさまに敵意がある。

 店の中はパンの良い香りでいっぱいなのに、いらっしゃいませもないままに、ただ睨みつける店主。

「あれぇ?なんか?怒ってる?」

ジャンプがおどけて言うが、反応はない。なんの用だともいわないで、ただ黙っている。

「ええ〜?いらっしゃいませ〜もないのかな〜?」

それでも黙っている。

「ここはパン屋じゃねえのか」

 俺がイラつくと、「パンを買う気なのか?」と、片眉を上げ初めて喋った。

「俺達が何をしにきたと思っているんだ」

と言うと、また黙り込む。

「なご美」

と、一声水を向けると、今度は反応し、鋭い視線をこちらに向けた。

「お前達は何者だ」

かなり胡散臭い奴らと思われているようだ。

「まあ、遠い親戚だ」

と言うと、即座に「嘘だ」と、切り返された。さすが幼馴染。何でも知っているのか、二の句がつげない。

 そこへニコニコとジャンプが割り込んできた。いつの間にか、トレーに山ほどパンを載せている。それをトンとレジに置き、

「実は俺達、結婚斡旋業をやってるんスよ」

と、得意げに名刺を差し出した。

 いつのまに作ったのやら、

 結婚コンサルタント アンブレラ(株)

 アドバイザー主任 ジャンプ

 なんてかいてある。

「此方は、上司のアニキ」

と、俺まで紹介って、アニキって、名前のつもりか?

 ジャンプはトングをカチカチいわせながら、パン屋に詰め寄った。

「なご姉に見合いを斡旋してるんスけど、上手くいかないんですよね〜。どうも、お兄さんに原因がありそう〜っスよね?」

「関係ない」と、にべもないパン屋。

「無いわけ無いっしょ?ほら。今もむっとしてる?」

パン屋はジャンプを睨みつけた。人間であれば、びびってしまうような目力だが、ジャンプは飄々と

「俺達は、なご姉が結婚できるなら、誰とでも構わないんスけどね〜」

と言いつつ、一呼吸おいて言った。

「お兄さんは構うでしょ」

 どうやら痛いところをついていたらしい。パン屋が苦い顔をすると、ジャンプは畳み掛けるように続けた。

「今度婚活キャンプをやるんスよ。ぜひ、ご出席下さい」

 いきなりの誘いに困惑するパン屋。ジャンプは何かいう暇も与えず、

「婚活キャンプなんて、お泊まりっスよ」

「どんな男が来るか?」

「心配でしょ」

「なご姉が」

と、次々に被せていき、

「さあ、パンのお会計を」

と、いう頃には、パン屋はなぜかキャンプに参加する羽目になっていた。

 恐るべしジャンプの営業力。ほんとに仕事を始めても良いんじゃないか?

 パンを抱えホクホク顔のジャンプに続いて店を出ようとしたが、俺はふと、振り返って聞いた。

「『お前は気持ち悪い』と、女子に言ったことがあるそうだな」

「ええっ?それは酷い」

既にパンを頬張っていたジャンプがモガモガ口を挟む。

 だがパン屋は、俺達を睨みつけたまま、返事をしなかった。


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