第14話
海でのあご美の台詞が気になっていた俺は、アンパンを喫茶店に呼び出した。「もちろん奢りでしょうね」と、いいつつ現れたアンパンは、ベージュの上下制服がはち切れそうで、まさしくアンパンそのもの。
とりあえず、ランチを頼んで席に落ち着くと、アンパンは水を一口のんで、
「美咲のこと?まあ、色々あったのよね」
ふうっと、大きな息を吐き、斜め下から俺を見上げた。
「気になるの?」
勿論だ。
あご美が一歩も二歩も引いているのは、その所為ではないか。そして、パン屋を振った理由も、その辺ではないかと、俺は当たりをつけていたのだ。そしてそれは大当たりだったようだ。
アンパンは食後のコーヒーを一口飲んで話し始めた。
「中学の頃、なご美と美咲は仲が良くてね。姫とばあやと呼ばれていたけど」
まあ、それはわかる。引き立て役以上の関係だ。
「美咲はその頃からモテていて、なびかない男子はいなかったのよ」
だけど、パン屋は違った。彼女を振ったのだ。
「美咲を振るなんて、おかしいと思った訳」
そして女子ではよくある事だが、皆でパン屋を問い詰めた。
「なご美が好きだと言ったのか?」
アンパンはぐいっと顔をテーブル中央に寄せて、小声で言った。
「しかも『お前は気持ち悪い』って」
「その、美咲にか?」
うなづくアンパン。
お前は気持ち悪いって、それは、相当だ。
「女子に言う台詞じゃないって、女子から総スカンを食ったわね」
まあ、そうだろう。しかし、なご美は関係ないじゃないか。
「なご美が裏で色々したんじゃないかって、噂が流れてね」
何言ってやがる。あいつがそんなこと、する訳無いだろう。俺の憤りにアンパンも同意した。
「美咲が泣いて、『なご美ちゃんの所為じゃないの。あたしがいけないの』なんて言えば、なご美の所為になっちゃうでしょ」
「それは、計算ずくなのか?」
「さあ、わかんないけど…」
と、口を濁した。アンパンでもわからないらしい。
「で、なご美とパン屋はどうなった?」
「彼はなご美に振られてお終い。でも」
一呼吸おいて、
「なご美も修一が好きだと、思ってたんだけどね」
そう言った後、時間だと、アンパンは会社へと戻っていった。俺はそのムチムチした背中を見送りつつ、腕を組んで椅子に深く座り直した。
これはひとつ、パン屋にも聞く必要がありそうだ。
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