第7話 D級冒険者ヴァンガード

血が抜かれてパサパサになった大量の火鼠の皮と魔石をモンテさんから借りた袋に詰めてギルドに向かった。大量の皮を見たモンテさんは、自分の家の地下にこんな量の魔物がいたのかと驚いていた。総合受付に行くと、昨日までとは別の男性の職員が対応してくれた。依頼書とコイン、そして火鼠の皮を提出した。


「これは、、、Fランク依頼の火鼠の討伐ね、受理しました。これが証拠の皮と魔石かい?って、ずいぶんと多いな。ギルドには数匹程度と報告されているんだけど。これは君一人で倒したのかい?」


そうだというと、職員はうなりながら何かを考え始めた。どうやって倒したのかと聞かれたので、一匹倒したら群れごと向かってきたからスキルを駆使してなんとか倒したと告げた。


「うん、証言とデータが食い違っていることもないね。火鼠は数匹程度なら気の弱いただの燃える鼠なんだけど、大群になると急に仲間意識が強くなるんだ。そうなるとかなり厄介で、火事にも繋がりやすいから町が税金を使って格安で殺鼠剤が売られているはずなんだけど、、、依頼主のモンテって人は殺鼠剤を使っていなかったのかな?まあとりあえず、これは明らかにFランクの依頼じゃない。大銅貨5枚が既定の報酬だけど、依頼主から君に慰謝料のような形で追加の報酬があるはずだからしばらくこの町にいて下さい。それから、火鼠の皮と魔石の買取価格が全部で大銅貨5枚。本当ならこれだけの数があればその倍額は見込めるんだけど、なぜかパサパサなのでこの額になります。いいですね?」

「パサパサな理由は聞かないんですね?」

「ギルドは余計な情報は詮索しませんから。また、これでEランクに昇格となりますが、E級冒険者証の引き渡しは明日以降となります」


依頼の報酬と火鼠の素材の代金で合計銀貨1枚を貰った俺は気分上々でギルドを後にした。下半身をズタボロにされてしまったけどモンテさんからお詫びに替えのズボンを貰ったし、傷もレイナがくれた緑の丸薬を飲んでおけば一日あれば治ると思う。

これはギルド職員から追加で聞いた話なのだが、Fランクの依頼の報酬はギルドが大半を負担しているんだそうだ。その理由は、例えば新人冒険者を木材加工場などの力仕事の現場に派遣してもその場のルールやシドとのやり方などを1から教えないといけないし、次の日からは来ない。だからFランク依頼の依頼主は実質Fランク冒険者に無料で仕事を体験させてあげてるような状態らしい。そしてギルドも格安で新人をふるいにかけることができる。簡単な依頼もできなかったり、指示を聞けないような人間を除外するためだ。


「あ、昨日の串焼き屋だ」


匂いに釣られて屋台に並ぶ。今日も四本の串焼きを買ってしまった。宿で食べるのが楽しみだ。

そして俺は、宿の方向へと伸びる暗く人気のない裏路地を発見した。早く帰って串焼きを食べたかった俺は、その路地裏を通ることにした。本当に近道になるかはわからないが、近道になる可能性に惹かれたのだ。


「なぁ、ちょっと待てや」


後ろから声がかかり、振り返ると剣を持った大柄の男がいた。ごろつきだ。妙にこの近くの裏路地だけ人がいないと思ったが、こういう奴がいるからだったか、、、。ロベリアに来て日が浅いせいだな。

逃げるために全速力で駆け出す。だがしかし、


「タダで通れると思ってんのか?」


前にもナイフを持った中肉中背の男だ立っていた。しまった、挟まれていた。

逃走をあきらめ、自分の血を使用して<魔血武具>で赤黒いナイフを創る。グレイウルフの血も火鼠の血も全部モンテさんの家の消火に使ってしまっていたから、ナイフは刃渡り15cm程度とかなり小振りだ。


「あ?いつの間に武器なんて出しやがった?まぁいい。そんな小せぇナイフで何ができる」


先手必勝。串焼きの袋を地面に捨て、血のナイフを腰だめに構えて中肉中背の男に向かって走る。


「おおっと!怖いねぇ~。ヒヒッ」


ギン、と音を立てて俺の突き出したナイフが防がれる。次いで、背後から風切り音がした。俺は慌てて身を屈めた。その直後、後ろの男の剣が俺の頭上を通る。

俺は剣を振るった直後の隙を狙って、体を反転させて後ろの男に斬りかかる、、、が。


「へっ、弱い弱い」


顎に膝蹴りを食らい、俺は地面に倒れ伏した。身長差がありすぎだ。俺は身長140cm程度。対して剣を持ったごろつきは190cmはありそうだ。男が少し膝を上げれば、簡単に俺の顔面を打ち据えられる。


「さ、有り金全部貰おうか」

「こいつ、ガキのくせに銀貨5枚も持ってるぜ!」

「なりたての冒険者なんだろ。ほら、木の冒険者証を持ってる」


二人のごろつきが痛みと衝撃で動けない俺の持ち物を漁る。くそ、、、父さんから貰った銀貨なのに。俺が稼いだ銀貨なのに!

悔しい気持ちとは裏腹に、体は動かない。弱い。木材加工場でちゃんと仕事が出来たからって、火鼠を高々数十匹倒せたからって、こんなに弱かったんじゃどうしようもない。


「おい、んのガキ泣いてるぜ!はっはぁ!」

「情けねぇ」


いまだ体は動かないが、涙だけは止まらない。

ところが金を抜き終えたごろつきが立ち去ろうとすると、一人の男が現れた。


「あ?誰だ?てめぇもこのガキみたくなりてぇか?」


ごろつきが脅すが、その男は物怖じせずに言い返した。


「自分との才能の差もわからないのか。これだから雑魚は嫌いなんだ。<風刃>」


男が魔法を唱えると、大柄な方のごろつきの胸が切り裂かれ、血が噴き出した


「ぐ、くそ、風魔法か!」

「この、、、!」


もう一人のごろつきが飛び上がり、壁を蹴ってトリッキーな動きで魔法使いの男に近づこうとする。


「いや、今の見てなんで逃げないかな?<突風>」

「っご、、、ぉ」


あと少しでごろつきのナイフが男に刺さる、というところでごろつきが吹き飛ばされ、地面に転がった。右腕が変な方向に曲がっている。


「すげぇ、、、」


腰に吊り下げた長剣を抜くことなく魔法のみで勝利したその一方的な戦闘に見とれていると、男が俺の方に歩いてきた。


「イーラ、このガキにポーションを飲ませて回復させろ」

「っは、はい」


イーラと呼ばれた女の子が俺の口にガラスの瓶をあてがい、中の液体を注ぎ込んだ。口に入ってきた液体を飲み込むと、たちまち体が動くようになった。


「俺はD級冒険者のヴァンガードだ。とりあえず持ち金の半分貰うのと、俺の部下としてパーティに入ってもらうから。当たり前だが拒否権は無い」

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双大剣の竜騎士 @MSQTwzPDGREE

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