第6話 火鼠の巣窟
木材加工場の親方からもらった依頼達成のコインを渡しに冒険者ギルドに移動した。夕方だから、依頼を終えて帰ってきた冒険者で溢れかえっている。昨日と違い、今日は俺も依頼を終えてきた側の人間だ。総合受付の列に並び、順番を待つ。
「次の方どうぞ~って、君は昨日の、、、」
「Fランクの依頼を達成してきました。これがコインと依頼書です」
そう言ってコインを提示すると、ギルド職員は驚いたような顔をした。やはり親方の言う通り、達成できないと踏んでこの依頼を斡旋したのだろう。
「、、、確かに達成を確認しました。報酬の報酬の大銅貨6枚です。では次の依頼ですが、こちらもギルドの方で決めさせていただくことになっています。次はこの依頼ですね。詳細は書いてありますので、よく読んでから行くようにお願いします」
「はーい」
手続きを終え、報酬と新しい依頼書を持ってギルドを出る。宿に帰る途中でいい匂いのする串焼きが売られていたので銅貨五枚で四本の串焼きを買った。俺は宿の部屋で串焼きと、宿から出される夜ご飯を食べながら依頼書を読んだ。
「んーと、依頼内容は火鼠の討伐か。場所はモンテさんの家ね。ギルドのすぐ近くじゃん。家の地下に火鼠が出入りしているから退治してほしい、、、なるほどね。ところでこの串焼き美味しいなぁ。また買おうっと」
そして依頼書の一番下には但し書きで、火鼠の火が家に燃え移らないよう注意しろと書いてあった。
火鼠は最下級の魔物であり、背中が燃えている鼠で普段は小さい炎が威嚇するときなんかは激しく燃える。一回エイシャ村の村長の家でボヤ騒ぎがあったけど、あれも火鼠の仕業って噂だ。
翌朝、朝ご飯を少なめに食べた俺は依頼書に書かれた住所に向かった。お腹いっぱいまで食べなかったのは、最下級とはいえ魔物との戦闘を行うからだ。満腹で動きが鈍くなっちゃ困る。戦闘は一年前にジャイラ村の近くでグレイウルフと戦って以来だし少し緊張する。
家の扉をノックすると白いひげのおじいさんが出てきた。
「おはようございます。依頼を受けてきたFランク冒険者のルカスです。モンテさんですよね?」
「火鼠の退治依頼の件かな?わしがモンテじゃが、まさかこんな小さい子が来るなんて聞いてないぞ、、、。見たところ武器も持っとらんしのぉ」
「大丈夫です。任せてください」
少し不安そうな顔をしていたが、俺を家に入れてくれた。廊下の奥のドアを開けると薄暗い地下に続く階段が現れる。モンテさんの持つランタンに照らされて短い階段を下りると、乱雑に様々なものが置かれた埃っぽい部屋があった。
「ほら、壁や天井を動く赤い光があるじゃろ?あれは全部火鼠じゃ」
確かによく見ると、壁や天井に加え適当に積み重なった家具のようなものの隙間にもチロチロと赤い光が見える。これを全部退治するのは大変そうだな。どうにか安全に一網打尽にする方法はないものか、、、。
そう思っていると、目の前に40cmくらいのネズミがいることに気が付いた。火鼠だ。
「キキィ!!」
「うわああ!わ、わしは逃げるぞ!」
ボッ、と火鼠の背中に明るい炎が着いた。こちらを威嚇しているのだろう。それを見たモンテさんは驚いて地下室から出て行ってしまった。
俺は<魔血武具>で一年前に吸収したグレイウルフの血を使って武器を作る。右の掌からドクドクと血が溢れ、生き物のように動いて刃渡り30cmほどの幅広のダガーを形成した。大きい剣ではこの狭い室内では取り回しが悪すぎるし、物を壊すわけにもいかない。
「ギッ!」
こちらが武器を構えたのを見て、火鼠が飛び掛かってくる。順手に持ったダガーで火鼠の体当たりをガードし、バランスを崩した火鼠を地面にたたきつけて踏みつぶす。それだけでは死ななかったからダガーでとどめを刺した。火鼠の背中の炎が消えた。
緊張したけど、こんなものか。だけど、、、
「これはちょっと、まずいかも?」
ボボボボッと部屋中のあちこちで炎が燃える。この部屋に入った時から大勢の火鼠がいることは分かっていたが、予想をはるかに超える数だ。
「「「ギィィィィ!!!」」」
仲間が殺された怒りからか、部屋中の火鼠が一斉に俺に飛びかかってくる。とっさに俺は、今倒した火鼠の血と自分の血で左手に盾を作った。
「ぐぅ、う、、、」
上半身を守るように掲げた左手の盾に何度も強い衝撃が加わる。火鼠どもはヒット&アウェイで突撃を繰り返し、そのたびに体当たりや爪で攻撃してくる。左手の盾と背を預けている壁のおかげで上半身は何とか無事だが、無防備に攻撃に晒されている下半身は火鼠の爪と牙でボロボロだ。時折右手のダガーを振るって火鼠の数を減らしているが、これじゃキリがない。何か考えなければ、そう長くはもたないぞ、、、
「血だ。もっと血があれば、、、そうだ」
おもむろに足元の火鼠の死体にダガーを突き立てる。5秒ほどで小さな火鼠の血液を全て吸収することができた。思ったより吸収が早いな。死体相手だと早く吸えるのかな?
「よし、これなら!」
10体分の血液を吸収し、今俺の魔石の中に豊富に血が存在している。これを全て使って鎧を作るんだ!
全身からどろどろと血が噴き出し、鎧の形になって固まる。盾に使用していた血液を再利用しても全身鎧を作るには些か血液量が足りなかったために薄い鎧だが、火鼠程度の攻撃を防ぐには十分だ。一匹一匹は大したことがない。ただ数が多すぎただけなのだから、攻撃力を無効化した今なら負ける要素は0だ。
「さっきまではよくも、いいようにしてくれたな!」
防御の心配がなくなり、火鼠退治からただタイミングを見てダガーを振るうだけのゲームになり下がった。俺に攻撃が通じなくなったのが分からないのか火鼠どもはヒット&アウェイの突撃をずっと繰り返している。振るうたびに少しずつ大きく、重くなっていくダガーで火鼠を斬り殺しまくった。ダガーが血を吸うから部屋に血が飛び散らない親切設計だ。全部で50匹ほど殺すと、ついに部屋から火鼠がいなくなった。
よし、今後の戦闘のために全部の死体から血を回収しておくか。
「ふーーーっ、、、て、やば!燃えてる!」
全ての血を抜き取り終えた達成感から深く息を吐いて振り返ると、いつの間に火鼠の背中から燃え移ったのか木製の家具が燃えていた。大変だ大変だ。魔物を退治したのはいいけど依頼主の家が全焼したんじゃ元も子もない!
「くっそ、もったいないけどこれしかないか!」
炎に手をかざし、さっきまでの戦闘で吸収した火鼠の血液を炎にかける。血が焦げる嫌な臭いがして火が消し止められた。
もおーー、せっかく吸収した血を全部使っちゃったよ。
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