第5話 Fランクの依頼
エイシャ村を出て西へ半日ほど走り続けるとロベリアが見えてきた。5mくらいの壁に囲まれていて、その入り口には10人くらいの列ができていた。町に入るには通行税を払う必要があるらしく、その手続きのための列だ。といっても、そんなに時間のかかるものじゃなく数分で街に入ることができた。通行税は大銅貨一枚。父さんからもらった路銀は銀貨五枚で、これは大銅貨50枚に相当する。大銅貨一枚は銅貨十枚だ。銀貨より上は大銀貨、金貨、、、と続き、それぞれ十枚でワンランク上の貨幣と同価値になる。
ロベリアは、ここガナ王国の南西に位置するサフィス山脈から流れるエキセー川が町の中心を貫くように流れている。エキセー川の上流には王都ガナシア、下流には水上都市イルゼがあり、その二都市との貿易で栄える貿易の町である。
「エイシャ村やジャイラ村とは全然違う、、、」
ロベリア周辺の村々とは違って、道に人が大勢いる。この活気でもガナ王国の中では中堅の都市だというのだから驚きだ。
道行く人に冒険者ギルドの場所を聞くと、快く教えてくれたのでその方向へと歩く。12歳で冒険者になるというと少し驚かれたが、時々俺くらいの年齢の冒険者もいるらしい。もしかしたら、若すぎるから登録はできないと言われてしまうんじゃないかと心配していたのだが杞憂だったようだ。
冒険者ギルドは町の東の出入り口から近い場所にあり、すぐに着くことができた。中は人で賑わっているようで、ガヤガヤと活気のある声が漏れている。扉を開けると、魔物の素材のようなものを担いで買取の列に並んでいる返り血まみれの集団やら、併設された酒場で飲んでいるパーティやらであふれていた。時刻は夕方。依頼を達成して帰ってきた人たちなのだろう。買取カウンターや酒場とは反対に、新規登録の受付所は空いていた。
「すみません、冒険者の登録を願いしたいんですけど」
「はい!こちらの紙に必要事項を記入してください。代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です」
新規登録と書かれているカウンターに行くと、すぐに対応してくれた。渡された紙には記入するべき情報と空欄があった。
名前:ルカス
出身:エイシャ村
年齢(任意):12歳
職業経験:なし
武器(任意):剣
魔法(任意):
スキル(任意):
その他:薬の知識が少しだけあります
魔法は使えない。スキルの<魔血武具>は書かないでおくことにした。自分の手の内を見せびらかすもんじゃないって前に村に来た冒険者の人が言っていた。
「ありがとうございます。では冒険者証を作りますので少々お待ちください」
渡された冒険者証は木でできていて、ランクを示すFの文字とさっきの紙に記入した内容が刻まれていた。
「Eランクに昇格するまでは木の冒険者証となります。Eランクに上がりましたら銅製のものと交換いたします。昇格するためにはこちらが斡旋する依頼を2つ達成していただく必要があります」
「わかりました。明日からその依頼を受けてもいいですか?」
「もちろんです。では、、、そうですね、ルカスさんにはまずこの依頼を受けていただきます」
そう言って提示されたのは木材加工場の補助という依頼内容だった。なんか、冒険者らしくない。そう思っていると表情で心の中を察したのか受付の職員に、F級の依頼は全て町の中で完結するようになっていることを説明された。
「では明日の朝、依頼書に書かれた場所に向かってください」
そして適当な宿で一泊した俺は朝ご飯を食べてから木材加工場に向かった。木材加工場は川に面していて、川の上流から流れてくる船に積まれた木材を受け取り、加工して一部はロベリアで、残りはまた船に乗せて下流の水上都市イルゼへと流す。ここはそういう場所だ。ちなみに流れてくる木材は王都とロベリアの間にある村の周辺で切り倒されたものだ。
「こんにちはー、、、依頼を受けてきた者です、、、」
入口からか顔を出し、恐る恐る声をかけてみるが木材を加工する音に負けて誰にも聞こえなかった。もう一度声を出そうとすると、後ろから声をかけられた。
「おい坊主、そんなとこで何やってる」
「うわあっ!?」
振り返ると、ガタイのいいひげを生やした男が立っていた。
「おいおい、そんなビビんなくてもいいだろ?」
「す、すみません、、、。あの、依頼を受けてきたFランク冒険者のルカスです」
そう言うと、鋭い目つきで俺を睨んだ。
「こんなガキが冒険者、、、?それでここに来させられた、、、あぁ、そういうことか。まあいい。仕事を教えるからついてこい。ったく、、、」
ひげの男は意味深なセリフを口にすると、俺についてくるよう促した。ひげの男に従って加工場の奥についていくと、ちょうど船から木材を降ろしているところだった。数mの丸太を二人で両端を掴んで移動させている。
「いいか、午前の間は木材を満載した船がひっきりなしにやってくる。とりあえず午前の間は船から木材を降ろして向こうに積め。ベゾス!ジェフ!Fランク依頼を受けてきた新人冒険者だ」
船に積まれた木材を降ろしていたベゾスとジェフと呼ばれた二人の男がこちらを向く。
「あいよ親方!って、ガキじゃねえすか!役に立つとは思えんすけどねぇ」
「ジェフ、そういうことは言うな。おいガキ、無理だと思ったら誰にも何も言わねえで良いからとっとと家に帰りな」
確かにあの木材は重そうだが、持ち上げられないほどの重さがあるようには見えない。これでもエイシャ村でだいぶ鍛えてきたからな。というか、この人はここの親方だったのか。
二人のところに行き、ベゾスと共に木材を運ぶために船に乗る。ジェフは船着き場の桟橋の上で荷車を使って木材をまとめて加工場に持っていく係だ。早速適当な丸太に手をかける。
「ルカスって言ったか?気合い入れて持ち上げろよ」
「はい!」
ぐっと力を入れて持ち上げる。意外にもすんなりと丸太が持ち上がったからか、ベゾスはバランスを崩しかけていた。
「おっとと、、、おい、あんまり無理して力込めすぎるとケガすっぞ」
「これくらいなら全然大丈夫です!」
ベゾスと船の上を移動し、桟橋で待機しているジェフに丸太を引き渡す。ジェフは普通の顔をして丸太を持ち上げている俺を見て怪訝な顔をしていた。
「何ぼさっとしてんだ?次の木材を運ぶぞ」
「今行きます!」
途中で何度かポジションを交代し、昼休憩を迎えるまでの間に合計六隻分の木材を積み下ろした。そして、ベゾスとジェフと俺の三人で桟橋に腰かけて支給された昼飯を食うことになった。
「ルカスぅ、さてはてめぇただのガキじゃねえな?」
「いやいや、田舎から出てきたばかりのただのガキだよ俺は」
「にしては力持ちすぎるぞ。よく見たら細いくせにかなり筋肉ついてるしな」
わしわしとジェフに肩や背中を触られる。
「やめてくれよ、俺は男に触られる趣味は無いんだ」
「だはは、俺も男を触る趣味はねぇなあ」
午後はノコギリで丸太を指定の長さに切る仕事だった。力はあっても体重の無い俺には少しやりづらい仕事だったが、なんとか時間いっぱいやり切った。
「あ、親方!お疲れ様っす!」
「おう、お疲れ、、、ってガキ、まだいたのか。邪魔だからもう帰れ」
「親方そりゃないぜ!こいつは十分すぎるほど役に立ってくれましたぜ!見かけによらず力持ちなんだなぁこれが」
「なんだと?おいガキ、ちょっとそこの丸太を持ち上げてみろ」
親方はノコギリで2mほどに切られた丸太を指さした。あれくらいの長さの丸太なら一人でも余裕で持ち上げられるだろう。俺は丸太の中心部に手をかけ、一気に持ち上げて頭の上でくるくると丸太を回転させて見せた。
「ウソだろ、本当なのかよ、、、疑って悪かった」
「でしょう?ルカスのおかげで荷下ろしが早く終わったんでさぁ」
「だったら、もう認めるしかないな。ルカス、これが依頼達成のコインだ。受け取れ」
「コイン?なんですかこれ」
「やっぱり、聞かされていないんだな。このコインは依頼を達成したことをギルドに証明するためのものだ。討伐系の依頼なんかと違って達成の証拠が残らないからな。坊主はまだ若すぎるから、ギルドの判断で危険な冒険者にさせないようあえて子供には達成できないような依頼を斡旋されたんだと思うぜ。普通のガキにはここの仕事はキツ過ぎるからな。達成できやしないと思われていたから、コインの説明もなかったんだろうさ」
そういうことか、、、。これで親方の意味深な発言にも納得がいく。親方は朝の時点でもうすべてを察していたんだろう。ここに子供の新人冒険者が派遣されてくるのも俺が初めてじゃなさそうだ。
ともあれ、コインを貰ったことだしギルドに報告に行くとしよう。
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