第4話 エイシャ村出立
あの日から俺は1年間、父さんの手伝いをしながら体力錬成に努めた。20kmほど離れたジャイラ村まで毎日往復し、最初は半日かかってしまったこの日課も最近では3時間くらいで行って帰って来れるようになった。
剣の素振りも欠かさなかった。最初は<魔血武具>で創り出した斧を振っていたけれど、エイシャ村に立ち寄った冒険者に軽く剣を教えて貰ってからは斧ではなく剣を練習するようにした。素振りをしているうちに気付いたことがある。どうやら俺は割と力が強い方らしくて、あまり軽い剣だとしっくり来ない。だから俺の体内にある魔石に貯蔵されているグレイウルフの血と、貧血にならないギリギリの量の自分の血をフルに使って硬く重く作ったロングソードを素振りしている。
「だいぶ身体付きが変わったんじゃないか?ルカス」
「そうだね父さん、毎日鍛えていたから」
自分でもなかなか筋肉が着いたと思う。身長はあまり伸びなかったが。
今日は俺の12歳の誕生日。そして、冒険者になるためにエイシャ村を旅立つ日だ。
「これは父さんからの餞別だ。これで10日くらいは食えるだろうから、その間に稼げるようになるんだぞ」
「お母さんからはこれをあげるわ」
玄関で父さんと母さんから贈り物を貰った。父さんからは銀貨が数枚入った袋、母さんからは丈夫な革のジャケットだった。本当にありがたい。ところで、レイナは見送ってくれないんだな。家の奥から出てこない。
「じゃあ、行ってきます。」
「おう、死なないように堅実にやるんだぞ」
「たまには帰ってきてもいいからね」
両親の言葉を背に、家を出る。12年過ごしたエイシャ村を眺めながら、村の外に向かって歩く。思い返してみれば結構思い出がたくさんあるな、この村は。
村の中央にあるボロボロの大木を見上げる。この木がボロボロなのは、俺とレイナが中心になって村の子供たちみんなで殴ったり蹴ったりして、いつか倒してやろうと1ヶ月くらい頑張っていたせいだ。大人たちは微笑ましく見ていたが、いざ本当に倒れそうになってくると突然俺たちを叱りつけてこの遊びは中止になったのだ。
村の出入口に近付くと、周りと色の違う地面が見えてくる。これは、俺とレイナと村の子供たちで地下帝国を作るとか言って大穴を掘っていた痕跡だ。穴がかなり深くなってきたところで大人たちからクレームが入り、穴を埋めさせられた。掘っている時は楽しかったが、埋めるのは苦痛だった。
「破壊活動しかして無いな、俺たち」
あまりよろしくない思い出ばかりで笑ってしまう。だが、そんな思い出の詰まったこの村とも一旦さようならだ。少なくとも一端の冒険者、そうだな、、、C級くらいになるまでは帰ってこないつもりだ。最低でも数年くらいはかかるだろうな。
「ま、二度と帰ってこれないってわけじゃないし!気楽に行くか~」
エイシャ村の門番さんにあいさつして、村を出る。いざ、ロベリアへ!
と意気込んでいたら、後ろから声が聞こえてきた。
「お兄ちゃああああああん!待ってえええええええ!」
振り返ると、どどどどどどどど、と効果音が聞こえてきそうなほどの猛ダッシュでレイナが走ってきていた。
「お兄ちゃんにこれ、渡そうと思って、、、!さっきまで作ってて、今できたの!」
そう言って手渡してきたのは、小さいポーチだった。中を見ると、青と緑の丸薬がいくつも入っていた。青の丸薬は魔力持続回復、緑の丸薬は体力持続回復の効果がある。
「一か月前から貯めてたの、冒険者には必要だと思って!」
「そうなのか、ありがとうレイナ!嬉しいよ」
最近妙に薬作りに励んでいるなと思ったら、俺のための薬を作ってくれていたのか。妹の優しさにお兄ちゃん、感動で涙しちゃうよ、、、
「頑張って、、、ね。そのうち帰ってくるんでしょ?」
「うん。そのうちね。たくさんお土産持って帰ってくるから、待っててくれ」
「うん!楽しみにしてる」
そう言ってレイナははにかんだ。レイナにも別れを告げ、今度こそ俺は歩き出した。
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