第3話 呪いと法術

ジェイムズ神官はレイナが取り憑かれた呪いについてと、それを解呪した法術について教えてくれた。

まず呪いとは、発生原理は分かっていないがこの世の中のランダムな場所にランダムな時間で発生するものらしく、植物や動物に取り憑いて悪さをするのだそうだ。どんな影響が出るかは様々で、今回レイナに憑いた呪いは破壊型と呼ばれていて、体内の色んな働きを狂わせて体の内側から破壊されていくタイプらしい。そして呪いは強さも様々で、あまりに強すぎる呪いはなんと自我を持ってその植物や動物を操ってしまうらしい。だがそんな事例は滅多に起こらないから心配はいらないとのことだった。

そして法術とは神に選ばれた人間だけが使える御業と呼ばれる魔法のことで、選ばれた時点で全部で10種類ある御業の内の基本的な3つの術が使えるようになる。基本的な3つの術とは、一の御業<治癒>、二の御業<浄化の音色>、三の御業<中和>のことで、それぞれ傷の回復、状態異常・呪いの回復と瘴気軽減、毒の中和ができる。<浄化の音色>は人によって状態異常・呪い・瘴気のどれに強いかが異なっていて、トマス神官は最も多い状態異常に強いタイプで、ジェイムズ神官は二番目に多い呪いに強いタイプだ。瘴気に強い法術使いはあまりいない。


「ジェイムズ神官は六の御業まで使えるんですよね?」

「はい、そうですよ。これはちょっとした自慢ですが、六の御業以上を使える人はかなり少ないんです。ほとんどの方は五の御業までしか使えません。、、、あ、トマスさん、今のは嫌味ではなくてですね」

「いいんじゃ。自分の才能の無さは自分が一番ようわかっとる」


トマスさんは神殿で教育を受けていたけれど四の御業までしか覚えられなかった人だ。トマスさんの若い頃は法術の才能が中途半端な人を集めて作られた前線医療班という、戦場の前線を駆けずり回って兵士たちを回復する部隊に所属していたらしい。前線医療班を引退していまはエイシャ村の神官をやっているという訳だ。


「そんなにすごい人なのに、ロベリアの町を放っておいてもいいんですか?患者さんが待ってるんじゃ、、、」

「数日くらいなら大丈夫ですよ。ロベリアには私以外にも神官がいますから」

「こんな狭い村とは違うんじゃよ」


エイシャ村の神官はトマス神官一人だけで、ジャイラ村に至っては神官はいない。ほかにも神官のいない村は複数あり、ジェイムズ神官はそんな村々を定期的に巡って治療をしているらしい。


「レイナさんの呪いはもう大丈夫そうですし、あとはトマスさんに引き継いで私はそろそろ次の村に行くことにします」

「子供たちを救ってくださり、本当にありがとうございました。、、、あんたたちもお礼を言いな」


母さんに促され、俺とレイナも頭を下げた。俺たちのお礼を受け取ったジェイムズ神官は馬車に乗ってエイシャ村を出て行った。


「そういえば、父さんは?」

「お父さんは、、、奥で寝てるわ」

「寝てる?なんで?」

「あんたがエイシャ村を飛び出してからしばらくしてお父さんが疲労困憊で帰ってきたのだけど、ルカスがジャイラ村に1人で行ったって聞いた瞬間また飛び出していこうとしたから私とトマスさんで必死に引き留めたのよ。馬はもう潰れかけていたし、今から走って追いかけても間に合うはずがないってね。それでも行こうとしたから、薬で眠らせたの。」


父さんにも後で謝らないといけないな、これは。


「ところで俺、冒険者になりたいんだけど」

「はー、言うと思ってたわ。まだ子供だからだめ、って言ってもどうせ聞かないんでしょ?でも、せめてあと一年だけこの家にいてほしいの。それは聞いてもらえる?」


本当なら今すぐロベリアの冒険者ギルドに行きたいところだけど、母さんからのお願いだし素直に聞こう。だからあと一年間は、、、そうだな、たくさん走って、体力をつけておこうかな。


「レイナ、俺と一緒に冒険者になるか?」

「え、私?私は、、、やめておこうかな。お兄ちゃんが家を出てくなら、私がお父さんの後を継がなきゃいけないし」

「あらレイナ、無理して薬屋を継がなくてもいいのよ?」


きっとレイナは、家を継ぎたいと思っているんだろう。俺と一緒に薬の調合を教わっている時も、レイナはなんだか楽しそうにしていたし。薬草の採取だって、レイナがお父さんを手伝いたいって言ったことから始まったのだ。レイナは薬師に向いている気がする。

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