第5話 いよいよ
次の日の朝、ご飯を食べながら決意し、今日こそ話しかけると意気込んでいた。少し緊張していたが、サッカーのペナルティーキックよりかは緊張していない。これならいける。ここでシュート決めて男気見せるぞ。
父さんがなんか言っているけれど、耳には入っていない。学校に行く間もイメージトレーニング。たぶん彼女の方が先に座っているから、そ自分が席につくときに話しかけるのが一番自然かな。それでいこう。
学校について教室に入って自分の席に着こうと隣を見たら、彼女がいない。あれ?今日は遅いな。初っぱなから計画が崩れる。いやいや待て待て、試合だってそういつもイメージ通りにいかない。まずはトイレ行って席で待とう。トイレから帰ってきてもまだ来ていない。席に着こうとしたとき、後ろから走ってくる彼女が見えた。彼女が席について支度をしている。まだ遅刻になるには5分あったけれど、彼女にしては遅いんだろう。はぁはぁ言いながら授業の準備をしている。
ペンケースをを出した瞬間シュートのラインが見えた。ここでシュートを放つ。
「あっ、それ初音ミクだよね。僕も好きなんだよね。」
自分の中ではきれいなカーブを描きながらコーナーギリギリのシュートを放てたという自信はあった。しかし彼女は目を大きくして驚いた顔を一度こっちに向けた。そう思ったら下を向いてしまった。
これはやってしまった。あの驚きの意味がわからなかった。やはり迷惑だったろうか、嫌な気分にさせてしまったのだろうか。私と「推し」の間に入ってこないでとか思っただろうか。
色々と考えた座っているので頭しか見えない。少し動揺してしまった。すると顔を上げながら立ち上がった彼女が満面の笑みを浮かべながら、
「ミクちゃんのこと知っているの!」
「誕生日のラバストつけていたよね。」
「どんな曲聴くの?」
と矢継ぎ早に聞いてくるので、少したじろいだが、自分も負けじと色々質問した。こんなにも「推し」の話を話せる人がいるというのは幸せなんだろうということを実感した。
たぶん彼女も同じ気持ちなのではないかと思った。こんなにも楽しいのなら、もっと早く話しかければよかった。自分の好きなものを好きというのは少し恥ずかしいけれど、これだけ返してくれらうのなら言っていこう。まわりは色々言うかもしれないけれど、こんなにも楽しいのなら関係ない。これからもたくさん話したいと思った。
夕食のとき、昨日の残りのカレーをたべながら、今朝の話をした。
「父さん父さん、今日、あの子に話しかけてみたよ。」
「おお〜、でどうだった。」
「楽しかった〜。なんだか色々なこと知っているんだよね。僕の知らないことも知っていたよ。」
「それはよかったじゃん。」
「そうなんだよ、今まで自分だけかと思っていたから、もう嬉しくて嬉しくて。」
「はははは、それはよかった。」
「父さんもボカロ聴いてみたら?いいと思うけれどなぁ。」
「そうか、ちょっと聴いてみるかな。」
「ねえ今度イベント応募してもいい?抽選だから、当たったら父さん一緒に行こうよ。」
「当たったらな。うちはくじ運悪い家系だから当たらないよ。」
「でも応募してみないとわからないじゃん。」
「そうだな。」
「そういうのも明日あの子に話してみよう。」
昨日とは全然違う世界に変わったことに驚き、早く明日にならないかと早く寝てしまった。
もう一つの夜の話
「お姉ちゃん、お姉ちゃん。聞いて聞いて!」
「何、どうしたの?」
「今日、隣の男の子に話しかけられた!」
「うそ、でどうだった?」
「もうすごいの、けっこう知らないことも知っていて驚いちゃった。」
「ほらね、お姉ちゃんの言った通りでしょ。彼けっこうなおたくだよ。」
「いやぁ、お姉ちゃん以外で、こんなレベルの高い話ができる人いるとは思ってもみなかった。」
「よかったね〜。」
「彼も兄弟とかが好きとか?」
「いや、そうじゃないみたい。ずっと一人で好きだったみたいよ。」
「じゃあ、新しい推し仲間が増えた記念に、このラバスト彼にあげなよ。」
「いいの?」
「もともとダブったやつだからいいよ。」
「ええ、わるいよ〜。」
「社会人に気を使うな。これで話盛り上がりたくない?」
「盛り上がりたい!」
「彼が喜んだ顔見たくない?」
「見たい!」
「それならあげてね。もちろん推し仲間として歓迎するわ。」
「ありがとう〜、お姉ちゃん。」
「かわいい妹の喜んだ顔が見られるならお安い御用ですよ。」
そう言ってくれるお姉ちゃんに感謝しながら、彼にあげるようにラッピングしていた。彼にあげたときに喜ぶ顔を想像し、なんの話をしようかとワクワクしていたらいつの間にか寝てしまった。
夜空には満月が煌々と照っていたのに。
気づいて 風月(ふげつ) @hugetu2
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