第3話
僕に妹?ができ……間違えた新しい家族ができた。マリアだ。僕と同じ奴隷だった子でプールでご主人様においてかれてしまったんだ。それをマサキが自分の家の子供として迎えてくれたのだ。僕もマリアも10歳。身長も大体同じだ。僕たちがマサキの正式な親になるためには試練がある。魔法テストがあるのだ。年に1回だけ奴隷が受けることができる、魔法使いになるための試験だ。これに受かれば魔法使いになることができるのだが合格率は0に近い。当然だろう。奴隷の子たちは普段の労働が大変すぎて魔法の勉強はおろそかになっているんだ(字の読み書きや計算はできるよ)これだから合格できる人は全くいない。合格しているのはご主人様に迎えてもらって、魔法を練習した子達か金持ちのご主人様を持った子たちかな。でも僕たちはもちろん、マサキの力もあるけど、自分の力で取りに行くのだ。がんばれ俺、がんばれマリア。
「ねぇ、キリオ」マリアが腕を組んで僕のことをにらんでいる。
「私のプリン、食べたでしょ」
「食べてないってば」
「正直に‼」
「食べました!すいません‼」
「なぁ兄弟だから食べていいとか思ってんじゃないでしょうね」マリアが僕の胸倉をつかむ。
「やめ、やめ、どうしたのマリア」
「キリオが私のプリン、食べっちゃったの」
「それはキリオ謝らないとね」
「マリア本当にごめんなさい‼」僕は深く頭を下げる。
「絶対に許さない」
「誤ってるんだから許してあげれば」
「まぁマサキさんがそういうなら」マリアはぎろりと僕を一瞥し自分の部屋へ引っ込んでいった。
「とんだ災難だったね。でも人のもの勝手に食べちゃダメ。わかった?」
「わかりました……」
「わかればよろしい。それでね、あとでマリアに言っておいてほしいんだけど、親睦を深めるために二人だけでキャンプに行ってきてほしいんだ」
「え?キャンプ道具なんてあった?」
「それも二人で買ってきてね。お金渡すから」
「え~⁉マサキは来なくていいの?」
「仕事があってね」
「それは仕方がないねってならないからね⁉」
「ごめん。でもよろしく」マサキは「よろしく~」とお金を置いて会社に行ってしまった。……ズリい。逃げたな。
「ねぇ、マリア!出てきてよ」
「何よ?」
「マサキが二人でキャンプ行ってきてって」
「いやよ」
「そういわずに。僕が怒られちゃう」
「……しょうがないわね。君も私も着替えないといけないから10分待ってくれる?」
「わ、分かった」僕もジャージに着替えてくるか。
10分後、僕たちはキャンプ場行きのバスに乗っている。
「マサキは何を思っているのかしら」
「親睦を深めたいんだって」
「はぁ……仲はいいんだから」
「それはわかる。一応同じ工場で働いていたんだから」
「それで、食材とキャンプ道具はどうするの?」
「食材はさっき買ったし、キャンプ道具はキャンプ場で借りるよ」
「お金はあるの?」
「うん。1,000イリアぐらいおいてったから」
バスは山道に入った。舗装されていないのか、運転手の気が荒いのかわからないがバスはとても揺れた。
「この国さ~物価が安いのか高いのかわかんないよね」
「そうね。……ねぇ私を笑わせようとか思わないわけ?」
「急にどうした?」
「いつも私こんな感じじゃない?」
「そうだね。でも一発芸とかないんだけどね」……笑いたいんだ……
「もうちょっとでつくよ」
「ねぇ何か落ちたよ」
「え?」ポケットから何か紙が落ちていた。僕はそれを拾う。何か書いてあるな。なになに?
『山は野生の動物が多いから注意してね。狼とか』
「え⁉俺狼苦手なんだよな。特に狼男は魔法が通じないから苦手なんだよね」
「そうね私も苦手だわ」
「マサキめ~動物が嫌だから逃げたんじゃないよな」
バスはキャンプ場の入り口に入り、事務所の前で止まった。酔っちゃったよ。
僕は出口で運賃を払ってバスから降りる。運転が雑なんだよ‼
「早く、行くよ」
「ちょっと待って。……お金もらってないわ」
「あ、ごめん、ごめん。……はい」マリアに渡しそびれていた運賃を渡し、ぼくたちは事務所に入る。
「こんにちは~」
「おう、坊やたちだけかい?」
「そうなんだ」
「そうか、そうか。で、何か用かい?」
「テントと、え~とキャンプ道具一式借りたいんだ」
「わかった。一泊でいいのかな?」
「うん。あとこれ僕たちの保護者の人から」
「え~と何々?『この子は奴隷ですが、魔法が一部使えます』君たち奴隷さんなのかい?」
「そうなんですけど、マサキは僕たちのこと魔法塚見習いって呼んでくれてます」
「私はそういう差別はしないから安心してね。で一泊だから……500イリアです!」僕は財布から500イリア出しておじさんの大きな手にのせる。
「ありがとう。ちょっと待っててね。……あ手伝ってくれる?」おじさんはいったん奥に行ったかと思ったらまた出てきて僕に手伝うように頼んできた。
「いいですよ」
「ありがと~最近腰が痛くてね」
僕は事務所の奥からテントが入ったバッグと焚火セットを台車に乗せて帰ってくる。
「キリオ、早くいきましょ」
「わかった。ちょっと待ってね」
「おじさんありがとうございます」
「こちらこそありがとね。あ!ここらへんで狼男が目撃されてるから気を付けてね。今日は満月だし」狼男は満月の時、人食い狼になってしまうらしい。実際に見たことはない。
僕たちは空いてるところを探してキャンプ場を歩き回る。
キャンプ場にはいろいろないろいろな肌の人がいろいろな形のテントを立てていた。煙突があるもの、二階建てのもの、紫のものなどたくさんある。
「マリアどこにする?」
「木陰がいいわ。最近まだ暑いから」今は9月の半ば。まだ蒸し暑い。ほかの国はどんな感じなんだろう。
僕たちは木陰にテントを立てて(一人で建てた。ほめてほしい)夕食を作っている。作っているって言っても、焼肉とカップ麺なんだけどね。
鉄板で肉を焼く。
「ちゃんと野菜も食べなさいよ」もちろん焼いているのはマリアだ。
「う~ん焼いてくれるのはありがたいんだけど、マリアも食べないと」
「大丈夫よ。私も勝手にとって勝手に食べてるから」
「そ、そうか」道理でたくさん鉄板に入れてるのに量が変わってないわけだ。
僕はカップ麺をすすりながら周りを見渡す。もう日が沈んであたりが暗くなっている。しかし、テントやその周りから焚火やライトの光が至る所から見える。僕はカップ麺の残りのスープを飲まずに、地面において、散歩に行くことにした。
「ちょっと!どこ行くのよ⁉」
「散歩だよ。ちょっとだけね」
僕はマリアの静止を無視して、キャンプ場を囲むようについている道路に出る。誰かが魔法を使っているのか、あたりには紫色の煙がまっていた。
「こんばんわ~」
「え?僕ですか?」
「そうよ、何してるの早くこっち来て!」でっぷり太ったおばさんに声をかけられた。
僕がおばさんの横に座ると、おばさんはお茶を勧めてきた。
「これはとっても体にいいの。ちょっと苦いけどね」
「あ、ありがとうございます」僕は恐る恐るお茶をすする。
「苦っ」僕は吐き出しそうなのをやっとのことで抑える。
「私も最初、飲めなかったから大丈夫よ」
僕はおばさんにお礼を言ってほかのテントのほうに向かう。二階建てのテントのほうに向かう。どんな仕組みなんだ?
「すいませ~ん」
「え?」
中年のおじさんがテントから出て僕に声をかける。
「私のテントジーっと見てませんでした?」
「そうなんですよ。中、どうなってます?」
「そんなこと気になってたのかい。いいよ見てって」
中は外から見たよりもずっと広かった。何か魔法がかかっているのか?
「このテントは空間拡張呪文がかかってて、10倍ぐらいの大きさがあるんだよ」
テントの中には2段ベッドが置いてあって、それぞれ窓がついている。なんと暖炉まで設置してある。
「このテントを作るのに1年もかかったんだ」
「……なんでこんなもの作ったんですか?普通のものでいいんじゃないですか?」
「あ~男のロマンだよ。ロマン」……こんな大人にはならないようにしよう。
僕はマリアのところに戻る。時間は~今20時頃。マリアはまだ肉を焼いて食べていた。
「え?まだ食べていたのか?」
「そうよ。遅いわよ」
「ごめん、ごめん。そろそろ食べるのはやめて明日の朝食べようよ」
「朝から重たいものを食べたくないわ」……じゃあ早く食べ終わればいいじゃないか。それはぐっとこらえて出ていた肉とかお茶とかをしまって、火はどうしようか。
「ねぇマリア、火は消す?」
「消していいわよ。あんまりわからないけど、火事になったら嫌だし」
「そうだね」
僕はかたづけを終わらせて、テントで毛布にくるまって寝ている。今日はいろいろなことがあって疲れた。腕時計を見ると今の時間は大体夜の11時。腕時計は初めて炎を出したときに記念にマサキが買ってくれたものだ。ごつごつしているけどシンプル。そして濃い青色の時計は僕のお気に入りだ。多分大人になってもはめてると思う。どこから「ワオ~ン」と犬の鳴き声がする。今日はマリアに詰め寄られたり、マサキに怒られたり、こうしてキャンプに来たり、人生で初めてのことばかりだ。
そもそもなんでマサキは僕のことを買ってくれたんだろう。僕は物心ついた時から、「あこ」で働いていた。小さかった頃は看守さんは優しかった。いつも僕のことを見てイケメンだねと褒めてくれた。でもいつからから看守さんは女の人から男の人に代わり、口調も変わった。いつも僕たち奴隷を見下すような口調で高圧的だった。僕はそんな大人が怖かった。だからオークションの会場から連れ出されるときのマサキの顔も看守さんに見えてきてしまったくらいだ。でもなんで出来損ないのイケメンである僕を買ってくれたんだろう。これはどんなに聞いても教えてくれなかった。僕は最初からマサキのことは信用していないけど、でも魔法が使えるようになってきているっていうことは事実だ。どこまで彼のことを信用すればいいのか。僕にはわからない。
マリアが来てから魔法の練習は僕が彼女に教えるという方針に変わった。僕も教えれることには限りがあるからかなりスローペースだったと思う。
そしてコリアンのこともある。彼と僕はどういった関係なのか。そもそも自分は本当にキリオなのか。もしかしてコリアンなんじゃないか?と思わされることが多々あった。もし僕がコリアンだったらどうしよう。奴隷制の廃止はするけど……マサキとマリアとはどう接すればいいのだろうか。でも僕がコリアンなわけないよね。だって僕はもともと魔法が使えなかった奴隷だよ?
そろそろ眠くなってきた。また明日。
う~ん、イテテ、今何時だ?まだ4時?毛布だけで寝るのだめだったかな~。体中が痛い。トイレに行ってこよ。僕はテントから抜け出して、丘のふもとにあるトイレへ向かう。
トイレを済ませてテントに戻ろうとすると陰から何かが飛び出してきた。毛むくじゃらの体に大きな牙、血走らした目の狼男だった。
「え~っと」僕は後ろ歩きで、するするとゆっくり逃げようとした。しかし、狼男は容赦せずに襲ってきた!
僕は全速力で走っている。後ろからは猛スピードで狼男が追ってきていた。
「なんで俺なんだよ~」俺は叫びながら木々の間を潜り抜けるように逃げる。狼男は木をなぎ倒すようにして追いかけてくる。
僕はとうとう追い詰められてしまった。後ろには事務所の壁、横にはパイプやエアコンの室外機があり、もうどうしようもできない。僕は死を覚悟して目をつぶる。狼男は俺にかみついた。でもだんだんとかむ力は弱まってくる。目を恐る恐る開けると僕にかみついてたのは男の人だった。でも僕の腕から肩にかけて、出血していた。だんだん眠くなってきた。
「た!大変だ。救急車‼」
男の人が救急車を呼んでくれる。遠のく意識の中救急車のサイレンが近づいてくる……
「……リオ!キリオ‼」遠くのほうからマリアの声が聞こえる。僕は噛まれてないほうの右手を挙げて見せる。でも目は開けられない。どうやら俺は担架に乗せられたようだ。ふわっと浮く感覚があった。そしてエンジン音とガタガタという揺れ。
チック
右腕に針が刺される。そらく点滴だろう。
「今、点滴で抗生剤入れましたからね」「もうちょっとで病院つきますからね」
僕の意識はまた遠のいていった。
次目が覚めたのは病室のベッドの上だった。横にはマリアとマサキが座っている。嚙まれたところは包帯が巻いてある。僕は腕を動かしてみる。……やっぱり動かない。
「キリオ、起きたか」
「う、うん」
「どうしたんだ?」
「狼男に襲われたんだ」
「それは知ってる。人間に戻った狼男の方から話は聞いた。なんであんな時間に外を出歩いてたんだ?」
「トイレに行きたくて、それで起きちゃったんだと思う」
「そっか、それは仕方がないね。ゆっくり休んで早く治してね」マサキは頭をなぜてくれる。
二人は帰っていった。何か用事があるそうだ。まぁテントやら警察への説明もあるからしょうがないね。
二人がかえってしばらくしたら、僕の主治医だという先生がやってきた。ちなみに僕は今個室にいる。
「調子はどうだい?」
「う~んちょっと眠いかな。あとちょっとだるいです」
「それは薬の副作用かもね。ほかに、無いかい?」
「腕はあんまり痛くないです」
「わかった。後で、看護師さんからこの病院の説明があるからよく聞いてね」
先生がどこかに行ってしまった後、看護師さんが入れ違いでやってきた。
「こんにちは。ここ、キメラ総合病院の説明をするわね」看護師さんは説明を始める。
「君の手首のリストバンドのバーコードがあるよね」
「うん」
「そのリストバンドは患者を識別するものだから、絶対に外さないでね、でこれがTVカードでこれをテレビにさしたら見れるようになるよ」
「ありがとうございます」
「ほかに質問はあるかな?」
「えーとトイレとかはどこのを使えばいいですか?」
「あ!ごめんね。トイレは個室だからあのトイレを使ってね」
「わかりました。ありがとうございます」
看護師さんも行ってしまった。マサキが本とオーディオプレイヤーを置いてってくれたのでオーディオプレイヤーで音楽を聴きながら本を読む。最近、はまっているのは日本の児童文庫だ。もちろんこの国の言語に訳してあるけど、面白いし、わかりやすい。泣けるしね。
奴隷ですが何か? ~奴隷からの逆襲、魔法の力で運命を変える物語~ 鮫島楓 @KinYou3124
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