第2話

「……リオ、キリオ。起きろ。朝だぞ?」

「……え?もう朝?」僕は目をしょぼしょぼさせながら窓の外を見る。太陽が高い位置まで上がっている。

「よし、準備して。服はそこに準備したよ。あとあざの位置にシップ貼ろっか」

「シップ?」

「あぁ知らないよね。日本発祥の張り薬だよ。あざにと思って探してきたんだ」マサキは慣れた手つきで箱からテープのようなものを取り出し僕のあざのところに貼っていく。それはひんやりしていて気持ちよかった。そして僕は服を着る。白のフリルシャツに黒のズボン紺の靴下。

「キリオこっちおいで」マサキが洗面所のほうから呼んでいる。

「何?」洗面所に行ってみるとマサキがドライヤーとコームを取り出していた。

「髪、ぼさぼさだよ」

「ほんとだ」俺は鏡を見ながら自分で整えようとする。

「ダメダメ‼俺がやってあげるから」

「あ、ありがとう」マサキは慣れない手つきで僕の髪にくしを通していく。

 次に取り出したのはワックスだった。これは慣れているのか器用に僕の髪をセットしてくれた。

「よし、じゃあ行こうか」二人で外へ出る。


 僕が後部座席のドアを開けようとした。

「今日は助手席に乗ってね」

「え?なんで?」

「そのほうが町を紹介しやすいじゃん」

「そうだね」僕は助手席に乗った。車は90年代式のクラウン。

「古い車だね」

「そうだね。でも乗り心地最高だよ」確かに。昨日は緊張で気づかなかったけど乗り心地はよかった。あんまり車に乗ったことないけど。


 初めに向かったのはスーパーだった。

「ここが町一番のスーパーだよ。おなかすいてるでしょ」

「ぐ~~」おなかが鳴る。反射的におなかを抑えてしまった。

「しまった」僕の顔は真っ赤だと思う。

「いや普通に考えて丸一日何も食べてないんだよ?(笑)」そりゃそうか。


「ミライマーケット」と大きく書かれた看板の下には開店前なのか長い行列ができていた。マサキはその列には並ばず店の裏へと回っていく。

「みんなには内緒なんだけど、裏にも入り口があるんだ」

 裏口には誰も並んでいなかった。

「食べたいもの考えておいて」

 入るとカートが置いてある横の壁のポスターに目が留まった。

『魔法王の子供を探しています。20XX年春、我がルイス魔法王の邸宅に忍び込みルイス大臣のお子様がさらわれました。情報を提供してください。』


「魔法王って何?」

「あぁそれね。魔法王っていうのはこの国の多さまでルイス大臣って呼ばれてる。興味があるの?」

「いや、あのポスターが気になって」

「確かに顔立ちは似てるね」『ルイス大臣の息子コリアン』と書かれた写真を見ながらマサキが言う。

「まさか?」

「そんなわけないじゃん。僕魔法使えないんだよ?」

「そうだったね」


 スーパーの中にはたくさんの棚と広々と並べられた野菜や果物があった。見たことも食べたこともないような野菜もあった。

「ここには世界中から食品が届くんだ。食べたいもの決まった?」

「え~と」やっべ考えてなかった。

「え~とカップ麺とか?」

「そんなんでいいのか?」

「看守さんが食べてたのが憧れで……」

「あぁ~」マサキが先導になりカップ麺のコーナーまで向かう。


「うわ~」思わず声が出た。そこにはたくさんのカップ麺が並んでいる。日本語で書いてあるのもあれば中国語のものもある。……っていうかどれが日本語でどれが中国語かはわからないけどね。

「どれにする?って言ってもわかんないか。俺のおすすめはね、マサキは棚の奥のほうに行って1つのカップ麺を持ってきた。

「これは?」

「濃厚とんこつって言ってどろどろのスープなんだ。でも味はおいしいよ」

「へ~ほかには?」

「う~ん、あとはこの味噌ラーメンとかかな。でもそれが一番おすすめ」

「じゃあこれにする」

「あと、お寿司とかもあるけどどうする?」

「オスシ?」

「ご飯の上に生魚の切り身が乗ったものをいうんだけど……見てもらったほうが早いかな?ついてきて」生魚か~あんまり食べたことないな。


「あれ?コリアンじゃない?」通りかかった親子の男の子が声をかけてくる。……誰だ?

「ごめんなさい。どなたですか?」

「えーと、覚えてないの?」

「すいません、この子魔法が使えなくて」マサキが仲裁に入ってくれる。

「じゃぁ奴隷さん?」

「そうなんですよ」

「じゃあ違いますね。すいません。お時間取らせて」

「いえいえ」

 親子は手を振って去っていった。

「ねぇほんとにコリアンじゃないよね」

「まぁ、でも彼がさらわれたとき何歳だったの?」

「あ~1歳にもなってないんじゃないか?よく覚えてないけど」

「もし僕でも1歳だったら何も覚えてないんじゃない?」

 そう談笑しながら僕はお寿司とカップ麺を買ってもらって車に戻る。


 車の中でカップ麺をすすりながらマサキの持っているスマホを見ている。

『速報です。魔法王ルイス大臣のコリアンご子息が何者かに誘拐されました。警察隊公安部は被疑者を捜索するともにコリアンご子息の捜索を行っています……』

「これが9年前に放送されたニュースだよ」

「ずずっ。警察隊公安部って?」

「あぁ国が管理する警察だよ。ほかにもあるんでしょって思ったでしょ。でもこの国には国が管理する警察隊しかないんだ。公安部っていうのはテロとか王室専門の警察部隊だよ」

「へ~今も見つかってないの?」

「そうなんじゃない?だからあのポスターが貼ってあるんじゃない?」

 俺は食べた殻をゴミ袋にいれマサキに渡す。

「とりあえず、次どこ行く?遊園地?動物園?」

「え~と、博物館は?」

「いいねぇ~じゃぁシートベルトしめてね」

 車はスーパーを出て山が見える方向に進んでいった。


 一時間ほどすると山のふもとにドームがある建物が見えてきた。

「マサキ、ここが博物館?」

「そうだよ。ミメータル博物館だ。プラネタリウムもあるんだよ」


 そこからはあまり覚えていない。いろいろなことがあって記憶が混乱しているんだと思う。


 ここで僕の一日を紹介しよう。

 僕はいつも6時くらいに起きる。これはあこにいた時からの癖だ。そしてマサキと一緒に朝ご飯を作って一緒に食べる。マサキは仕事があるので食べるとすぐに車で出かけてしまう。僕といえばすることがないのでTVを見たり、渡されたお小遣いで本を買って読んだりしている。マサキが仕事から帰ってくれば魔法使いになる訓練をしている。訓練が大変なのだ。まずは体力をつけるためにランニングから始まるが「あこ」で働いていたおかげで体力だけは有り余っている。俺よりもマサキのほうがつらくなっているくらいだ。あとは座学だ。魔法ができる仕組みを学んだり実際に魔法を使ってみたりいろいろ多岐にわたる。やってみると俺は少しだけ魔法が使えることが分かった。

「訓練すれば俺みたいになるから。俺よりもできるじゃん」

「そんなことないですよ」が毎日のように繰り返された。


「今日は炎を出す呪文をやろうか」

 ここからはマサキによる魔法使い講座です。良ければ読んでってください。

 呪文を唱えて燃やしたい対象物を指さすだけで炎が指さした場所から出る。炎は熱エネルギーで呪文によって出る特殊なエネルギーが蓄積して発火するんだ。え?特殊なエネルギーって何?あぁそれは俺もわかんない。コツは「すごく、やばく火が欲しいので神様お願いします」みたいな感じで強力に念じることかな。じゃあやってみよっか。


「あの新聞紙に向かって。呪文は「インミリオン」だからね」マサキは庭に積まれた新聞紙を指さす。

(燃えますように、燃えてください、燃えろ‼)「インミリオン‼」

 ボッと音がしたかと思うと新聞紙の山は高い炎に包まれていた。

「すごいじゃないか。一発だよ?」

「え?あはは……マサキが火をつけたんじゃない?」

「そんなことするわけないじゃん」

「そうだよね」驚きすぎて声が出ない。え?俺に魔法が使えるの?魔法が使えない奴隷だよ?

「ねぇマサキ、俺疲れた」

「そっか。こんなに大きな炎出したもんね」

 僕はいろんな気持ちの中眠りについた。


 僕はそのあとも一日に1個ずつ魔法を習得していった。


「たまには水泳でもしようか」夏のある日マサキが言い出した。

「え⁉️」僕は水泳が大の苦手だ。

「いや水泳じゃなくて、隣町のプールだよ。流れるプールもあるんだって」

「僕泳げなくて」

「浮き輪もあるから」

 僕とマサキは車に乗って隣町のプールに向かう。プールの入り口には「奴隷お断りの文字」

「僕……入れないんじゃ」

「よくみろ。下の方に小さく『ご主人様がいる奴隷はこの限りではありません』って書いてあるじゃん」

「そ、そうだね」

「しかも君は魔法使いの能力があるんだから」

「じゃあ行くよ」

 マサキは切符売り場のほうに行ってしまった。周りを見渡す。同じぐらいの子で沢山だ。俺の顔を見て話しかけようとする子供と「関わっちゃダメ」っていう親。まぁスーパーで会った親子みたいに俺のことをコリアンご子息と思われてるんじゃない?

 一人の少女が僕に駆け寄ってくる。

「ねぇ、君一人?」

「いや、もうちょっとで戻ってくる……あ戻ってきた」

「どうしたのかな?」

「あ、ううん迷子だと思って……」

「そうなの?気を使ってくれてありがと。親御さんはどこかな?」

「ううん。私、奴隷なんだ。ご主人様が私を置いてって……」

「そっか。でもこの子も奴隷なんだけど、一緒に来る?置いてくってことは必要だと思われてないんじゃない?」

「そんな」

「でも俺は置いてったりしないよ」

「そう……なの?」

「そうだよ。そして君を魔法使いにしてやる」

「ほんと?」

「ほんとだよ。この子が証拠だよ」おい。俺をものみたいに言うなよ。

「じゃぁついていくわ。よろしくね。名前は?」

「マサキだ」

「日本人?」

「そうだよ。で、彼がキリオだよ」

「思い出した!あこの第一工場で一緒に作業した!」

「あ~マリアだっけ?」

「そうそう。あんときは大変だったね」(奴隷の人たちって何してるの?Byマサキ)

「じゃ、二人とも行くよ」

「は~い」「わかったわ」……相変わらずマリアはクールだな(笑)


 受付でチケットを渡して中に入る。入場口はちょっとした丘になっていて、そこからいろいろなプールに行くことができる。

「流れるプールに、波の出るプール、ウォータースライダーとかもあるよ。俺はここで待ってるから、二人で存分遊んできて」

「じゃあ行こっか」

「そうね」マリアがすました顔で答える。

「なぁなれないからもっと笑顔になってくれないか?」

「いやよ」……即答かよ。

「どのプールにする?浮き輪もあるよ」

「流れたいわ」

「……お前、いつもそんな感じなの?」

「そうよ。何回看守さんに怒られたことか……」……怒られてるんだったら早く治したほうがよかったんじゃないでしょうか。

『こら!そこ‼まだ休憩時間だぞ』そばの塔の上のプール監視員に叱られる。

「「す、すいません」」準備運動なんかいらないんだけど。


『休憩時間は終了しました。プールの使用を再開してください』

「いくわよ。浮き輪、これ?」

「そうだけど……」

「貸しなさい。私、泳げないの」

「僕も金づちだから」


 ……えーとなんでこうなったんだろう。僕が浮き輪の穴のところにお尻を入れて寝っ転がった状態になってマリアをお姫様抱っこ?をしている状態になっている。……ハズイ。ラブラブのカップルじゃないんだから。

「あの~マリア様」

「やめなさい、その言い方」

「どうしてもこの体制がいいの?水に一ミリも触れてないけど」

「流れてるだけでいいの。あと別に恥ずかしくないし、まだ思春期になってないでしょ」思春期にはなってると思うけど。

「それはそうだけど……」

 こうして次の休憩時間が来るまで流れるプールをただ流れただけだった。まぁ二人とも泳げないからこんな感じになるのは予想できたけどね。けど、あの体制は恥ずかしいって。別にあの浮き輪大きかったから二人であの穴のところに入ればよかったのでは?


「さて次はどこに行きますか?僕は波の出るプールがいいな」

「いいわね」

「あ、でも足がつくところまでね」

「浮き輪があるからいいじゃない」……まさか。僕は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。


 ……やっぱり。僕たちはさっきと同じ体勢で魔法の波にもまれている。

「この姿勢以外何か思いつかないの?もう一個浮き輪をもらってくるとか」

「そんな恥ずかしいことできるわけないじゃない」

「いや、僕としてはこっちのほうが恥ずかしいんだけど」

「……しょうがないわね。次の休憩時間の時にもらいに行くわよ」

「次の休憩ってあと30分もあるじゃんかよ~」むなしくプール全体にむなしく響いた。


「マサキ~」

「ん?どうした?」

「ってどうしたの?」マサキはホットドッグを持っていた。

「え?あぁおなかがすいちゃって」マサキはてっへっと舌を出して見せる。


「で?どうしたの?」

「え~と」

「浮き輪がもう一個ほしいの」マリアがズバッと言ってくれる。

「あ~そうだね。でも持ってないな。悪いけど、あの売店で買ってきてくれる?」とマサキはお札を渡す。


 売店に向かう。売店には5人ぐらい並んでいる。僕たちもその列に並ぶ。いろいろなウォーターグッズが並んでいる。普通の浮き輪、イルカやシャチの浮き輪。

「その浮き輪、あなたが使っていいから私は好きなもの選ぶわ」マリアが僕の持っている浮き輪を指しながら言う。

「ところでさ~マリア」

「何よ?」

「ちょっと優しくお願いしていい?あと魔法ってやったことある?」

「あるわよ、ちょっとはできたわ。これで魔法が使えないなんて……ちょっと訓練すればできるようになると思うんだけど」

「だよね~俺もそうなんだ。ほかの奴隷の子たちも同じなような気がする」

「私が魔法王だったら忌々しい奴隷制なんて廃止して、魔法が十分に使えない子には訓練する機会を作るわ」

「同感」

「お嬢ちゃんたち何にするかい?」気づけば僕たちは先頭になっていた。

「あの花柄のものがいいわ102イリアだよ」※1イリア≒10円

 店のおじさんに代金をわたしおつりと品物を受け取ってプールに向かう。

「ねぇ?」

「ん?」

「マサキさんのこと。私たちをちゃんと魔法使いにしてくれるのかしら」

「う~ん多分してくれるんじゃない?僕もある程度できるようになったし」僕は水鉄砲みたいに水を出して見せる。

「すごいわね。あ、おつりマサキさんに返さないと」

「そうだね。忘れてた」


「マサキ!おつり持ってきた」

「おぉありがとう。二人ともおなかすかないの?」

「うん、僕は朝食がまだおなかに残ってって」

「私も」

「疲れたりしないかい?」

「大丈夫だよ。ずっと浮かんでただけだから」

「そうね。私もキリオの上に載ってただけだし」

「あはは。楽しそうで何より。じゃあ行ってらっしゃい」


 ~半日後 太陽が沈み始めたころ~

「ま~さ~き~疲れた~」

「私も疲れた」

「二人ともお疲れだね。変えろっか。アイス、食べる?」

「私のご主人様探しに来た?」

「申し訳ないけど、来てないね」

「そっか」一瞬マリアの顔が寂しいものになった。でもすぐにいつものクールな顔になる。どれだけ大切に思われていなくてもご主人様だからね。


「早く帰るわよ」マリアがクールな顔で言う。

「行こっか。キリオも行くよ」

「は~い」

 僕たちは途中でアイスを買って家に帰った。僕とマリアはアイスを食べ終わった後車の中で眠ってしまった。


 (二人とも明日から頑張ってね。キリオ、マリアのこと大切にするんだよ)

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