奴隷ですが何か? ~奴隷からの逆襲、魔法の力で運命を変える物語~

鮫島楓

第1話

 俺は柱につながれて動くことができない。僕が着ているのはぼろぼろになったズボンとシャツだけ。これから僕のご主人様が決まろうとしている。正確には僕を購入してくれる人が現れるのを待っているところ。え?僕が何で奴隷かだって?当り前じゃないか。僕は魔法が使えない。この世界ではほとんどの人が魔法を使える。でもこうやって魔法を使えない子が生まれてくる。その子たちは奴隷になってしまうんだ。僕もその子たちと同じ。生まれた時から奴隷で死ぬまで奴隷なんだ。あぁ僕の名前はキリオ、10歳だ。よろしくね。

『さて1520番の購入者はいまだ現れません!』

 はぁこれでご主人様が決まらなかったのはこれで10回目か……まぁ購入者が出ないのはなんとなくわかる。自分でもわかる整った容姿、クシャっとした目元まで伸びる黒髪。魔法使いだったらモテたんだろう。それはおいておいて今回もまた、あこに帰らないといけないのか……

「はい!私が買います‼」一人の男の人が手を挙げた。

『1520番でいいんですか?』

「いいです。早く彼を引き渡してください!」

 僕は柱から離された。手は後ろ手で縛られてるけど。そしてオークションの司会者は僕の首輪にロープをつなぎ僕を買ってくれた男の人に渡した。

 

 ……!急に引っ張られた。

「く、首が!」

「うるせえ、早く来い」男の人は俺を引きづるように会場を後にし車に詰め込んだ。……あこにはいかなくていいけど、このご主人様はずれかな。


 車が発信する。俺が乗っている後部座席からはあまりご主人様の顔は見えない。僕は手が縛られた不自由な状態で姿勢を調整していた時ご主人様が口を開いた。さっきとは違う優し気な口調だ。

「さっきはごめんね。でもあの会場で俺が優しくしているところなんて見られたら……」

「あなたは……誰?」

「自己紹介が遅れていたね。僕はマサキよろしくね。俺は君をほかの人みたいに乱雑には扱わないから安心して。君はなんていうの?」

「……キリオです」

「そんなに硬くならなくても」


 車は郊外の普通の家に着いた。

「さ、降りて。……あっ、それだと不自由だよね。ちょっと待ってて」マサキ様はバッグからカッターを取り出して僕の手首を縛っていた縄と首輪を切ってくれた。

「どうしてそこまで……」

「別に。魔法が使えないだけで同じ人間でしょ」その言葉に俺は言葉を失った。

「キリオついてきて」

「僕はマサキ様のことなんとお呼びすればいいでしょう……」

「呼び捨てでいいよ。俺は気にしてないから」

「……マサキ今からどこに行くの?」

「よしキリオ今日から君を一人前の男と魔法使いにしてやる」

「ほ、ほんとに⁉」

「正直に俺のこと信用してるか?」

「シテマス」

「正直に‼」

「してません‼」

「あはは。正直でよろしい」マサキは満足そうに僕を連れて家へ入っていった。

 家の中は以外にも整理整頓されていた。初めに連れてこられたのは風呂場だった。ユニットバスではなく日本式の風呂場だった。

「俺は子供のころ日本にいてユニットバスにはなれなかったから。風呂沸かしたから入ってね。それで君身長は?」

「え~と150だったと思う」

「わかった。体をしっかりと洗ってから入ってね」マサキはどっかに行ってしまった。俺は来ていた服を脱いでシャワーを浴びる。……風呂なんていつぶりだろ。

「っ熱!」思わず声が出た。シャワーは想像しているよりとても熱かった。体の泥汚れを石鹸できれいに落として湯船につかる。湯船に浮かぶ自分の体を眺める。がりがりではないが健康的に痩せた体には何か所もあざがあった。それは背中や脛に多かった。とりあえず、もうあこに行かなくてもいいとなると気は軽いな。あこってケイジワークスっていうんだけど、僕たち奴隷の強制労働施設なんだ。僕たち奴隷はこうやってご主人様に買ってもらうか、強制労働施設で働くしか生きる方法がない。僕は「ケイジワークス」っていう名前を出すのさえ嫌だから、あこって言ってるんだ。ふぁ~眠くなってきちゃった。俺は浴槽にもたれかかるように眠った。


(お~いキリオ、開けるぞ。……あ~寝ちゃったか。とりあえず起こして、いや起こすのは悪いか。体拭いて、服を着せて。あ~あざが多いな。あ゙、あざが多いな。後でシップ……あ!この国にシップってなかったんだけ。あとは寝室のベッドに)


 次に起きたのはふかふかのベッドの上だった。新品のような紺のパジャマを着ている。え~と時間は?夜の12時。どれくらい寝たんだろう。あのオークションがだいたいお昼前だから……12時間ぐらい?僕は頭を掻きながらベッドからでる。寝室から出て階段を下りる。

 リビングに入るとソファにマサキが座って本を読んでいた。

「お、起きたか。キリオ」

「このパジャマ何?」

「あの服じゃ居心地悪いだろ?」

「何のたくらみがあるの?」

「別にないよ。でも君を魔法使いへは戻してやる」

「でも、それはできるの?」

「あぁ俺もそうだったし。ちょっと長くなるからこっちおいで」

 マサキの横に座るとマサキはしゃべりだした。

 

 ――――俺の生まれは日本だったんだ。でも魔法使いにあこがれてこの国を知ったんだ。当然俺に魔力なんてあるわけない。でも俺はたくさん訓練をした。あれは~大変だった。痛いこともあったし、つらいこともあった。でもある日を境に急にコツがわかるようになった。俺が訓練を始めたのは10歳のころ。君と同じくらいの時に訓練を始めたかな。え?内容?う~ん別に念仏を唱えたり怪しいことはしないんだけど、体力をつけたり、考え方を変えたりかな。またそのよきに話すよ。大体3年ぐらいかかったかな。でこれで魔法が使えるようになったってわけ。――――


「いろいろ気になったんだけど聞いていい?」

「何?」

「ほかの魔法使いと同じように魔法が使えるの?」

「そうだよ」マサキはココアの入ったマグカップを指さした。見ているとぐつぐつと水面が揺れるとどんどんとココアが増えていった。最初はカップの3分の1ほどだったココアがほぼ満タンに入っている。

「す、すごい」

「そうだろ?」

「というか、なんで僕なの?奴隷はたくさんいたじゃないか」

「君がね、あの会場で輝いて見えたんだ。顔はイケメンだし、賢そうだったから」

「それだけ⁉」

「うん。でも別にいいじゃん?あのままだったら「あこ」に行かないといけないんでしょ?」

「え?何で知ってるの?」

「主催者に聞いたんだ。君が10回も売れていないってこと」僕の顔はみるみる赤くなっていった。

「そんなに恥ずかしいことじゃないよ。明日、……あ、もう今日か。朝になったら一緒に街を見に行こう。見たことないだろ?」

「うん!」

「じゃあしっかりと寝な」僕は興奮しながらそのままソファで眠ってしまった。


 マサキがボソッとつぶやく「よろしくね。キリオ」

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