漁業の街サニーウェスト
───将真が精神世界に侵入しておよそ3分後、倭文家邸内にて。
「うむ、無事に潜れているようだな。」
宵は一安心したように息をついた。
「成功してよかったね…。」
「そうだな、私の用意しておいた心装が機能してくれたようだ。あれはあくまでも精神世界への入出を促すもので、正確に落とし込めるものでは無いからな…。当初はこれを三度は繰り返す想定だったが、思ったよりこの少年にはセンスがあるのやもしれぬ。」
「爆弾の方は大丈夫かな…?」
「何、最悪あれがダメでも同じ心装で外部から叩き起す事は出来る。まぁ…フィードバックを考えれば本当に最悪の手ではあるが…。」
─1─
「こんな街…俺は知らない……。」
ダインの案内でショウマが訪れたのは、海沿いに立地する漁業の町、サニーウェストだった。しかしショウマはこの地に心当たりは無く…。
周囲に行き交う人の数はそれなりに多く、活気溢れる雰囲気に反して見知らぬ土地で見知らぬ人々に囲われる疎外感がショウマを襲っていた。
「そんな泣きそうな顔すんなってー!お前腹減ってねぇか?オレの行きつけがあってよ、メシでもどうだ?」
ダインがショウマの背中をポンポンと叩き、そう言った。
「あ、うん…そうだな…とりあえず落ち着けるとこ行きてぇかも…。」
こうして2人はダインの行きつけの酒場へ向かう事にした。
─2─
「マスター!ラム酒をくれ!お前、何飲む?」
道中でちゃんとした服を買い身なりを整えたダインが、酒も飲んでいないうちから陽気に注文をした。
「あ、俺は……コーヒーとかでいいや。」
「なんだ酒飲めねぇのか?」
「まぁ、未成年だしな…。」
「真面目坊主だな……。」
当たり前だろ!と言いかけたところでどういう訳か反論する元気を失ったショウマは、ダイン越しにアイスコーヒーとミルクを頼んでもらい、しばらくしてお互いに注文した品が届いてから諸々の話を始めた。
「かはー!!!色々あったから酒がウメェな!!!───で、お前さんこれからどうするんだ?」
ダインが景気の良い歓声をあげてからショウマに尋ねる。
「んー…とりあえずレーベを探したいかな。」
「そうか、レーベってとこでやりたい事でもあんのか?」
ショウマはアイスコーヒーをひとすすりしてからそれに答える。
「…会いたい人がいるんだ。」
ショウマにはかつて共に旅をした仲間であり、心の世界を旅する中で想いを通じ合わせた人物がいた。本来の目的は心装の会得ではあるが、せっかく潜った精神世界だ。少しくらいやりたい事をやったって宵も誘も文句は言わないだろう。
「…そっか。なら、この後は情報収集ってとこだな。」
ダインはそう言うと一息にラム酒を飲み干して雑にグラスをテーブルに叩きつけ…
───妙な沈黙が流れた。
「…?」
黙ったままのダインに妙な違和感を覚え、ショウマの心が少しだけざわついた。
「…ダイン?」
恐る恐る声をかけたショウマの一言で、ダインはようやく口を開いたが。
「まぁ、頼りはあるってことだよな。ならオレも心置きなく───」
ダインの次の一言と共に、ショウマは周りを囲まれていることに気がつくことになる。
「───テメェから身ぐるみ剥せるってもんだ。」
カウンターに座ったままのショウマの前で、銃を構えたダインが立ち上がっている。それだけでは無い。周囲に意識を拡張して気がついた───
───この店内で、自分は既に彼の仲間に包囲されている事に。
「意味わかんねぇ。どういう事だよダイン。」
「どうにもこうにも…ワリィな、でもお前さんが悪ぃんだぜ?最初に手ェ出したのはお前さんの方だ。」
容量を得ないダインの言葉にショウマは混乱して頭の中を掻き混ぜられる様な心地がした。
「は?俺がお前らに何したってんだ…。」
それを聞いたダインが、この短い期間で見たこともないような形相を見せた。
「───オメェ…本気で言ってんのか?───
───なら改めて名乗ろうか。」
銃口をこちらに構えたまま、ダインが口を開く。
「俺の名はダイン。ダイン=クライン。クライン盗賊団のカシラで…オメェを殺して、奪われた海獣の瞳を奪い返しに来た男だ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます