経験の差
「──────ッ!?」
素人の割には強い───その発言にマルコは思わず感情を逆撫でされた気分だった。
「?───どうしたんだい。怒った?」
目の前の男が感情的になっていることは蒼子から見て明らかだ、そんな事はスピラナイトで感情を読まずとも明白だと思っていた、しかし───
「……ふふふ……。違うわよ……ワタシ───
───ひさびさに!!!燃えてるの!!!!」
マルコは高揚していた。この力を得てから初めて出会った圧倒的な力量差、己の100の力に対し10の力で圧倒されているような絶望感、それが彼の血潮を滾らせている。
(うわ……こいつもしかして関わっちゃいけないタイプなんじゃ……。)
少し離れた位置から2人の様子を観察していた将真はそう思った。この男は戦いに悦びを感じるタイプなのだろう。昔やっていたゲームにそんなキャラがいたが、まさか実在するとは…。
「悪いけど私達は君に付き合う為にここに来たんじゃないんだ。これからいくつか質問させてもらうけど、答えてくれないというのなら…」
そこまで言葉を紡いでから蒼子は自分が科そうとしたペナルティはむしろ目の前の男にとってご褒美になり得るとすら思えてしまい、思わず言葉を詰まらせた。
「じゃあこうしない?」
痛みがようやく引いたマルコが立ち上がり、挑発的な目で将真を見た。
「ワタシと将真ちゃんの一騎打ちで決めるってのはどう?将真ちゃんが勝ったら聞かれた事にはなんでも答えてあげる。その代わり、ワタシが勝ったら…アナタがワタシの相手をする!それで──────」
マルコが饒舌に取引を持ち掛ける最中、将真は終始肝が冷えていた。それは決して、自分とマルコの戦いの結果で取引をするというどう考えてもこちらが不利な条件だからとかそういう話では無い───
(やめとけ……それは……蒼子には───)
それは、蒼子には逆効果だ。
「───あぁ、そういうのいいから。」
蒼子は言葉尻とほぼ同時に心力の衝撃波を放った。心做しかいつもより気合いが入っていた様な気さえするその出力は──────
「──────!!!?」
周囲の椅子、テーブル、なんなら床の一部さえも引き剥がしながらマルコを吹き飛ばし、聞くに耐えない衝撃音と共にマルコを壁にめり込ませていた…。
─2─
(あぁ……可哀想に………。)
これが青峰蒼子という女のやり方である。基本的に取引には応じない。だったら力ずくで沈めてこちらの要求を通すまで。本人曰く駆け引きとか面倒臭いとの事。そう言う彼女の表情はどこか対話というものを諦めている様な気さえしたのだが。
「無駄だよ。君じゃ私には勝てない。残念だけど、ハッキリ言って君───弱すぎる。」
白目を向いたまま反応の無いマルコへ蒼子がそう呟いた。
「これは少年の鍛え方を見直さなきゃならないね…どう思う?少年。もう少し厳しい方が良いかな?」
(───圧を感じる………!───)
蒼子が片腕だけでも尚会話の余裕を持てる程度の相手に惨敗した、その事を詰められている様な気がして将真は身震いした。
「いや…それよりどうすんだよこれ……オネエ気絶してんぞ……。」
というか、店内をぐちゃぐちゃにしてしまっている。
「あぁ……やりすぎたか……。まぁ仕方ない、日を改めよう。私もちょっとイライラしてたみたいだ、あんまりにもぐだぐた言ってるからさ、待たされたし。」
一応客として来たつもりだったのだろうか、もしかしたら酒の一杯でも注文する気分だったのかもしれない。将真からしたら信じられないメンタルだが…。見た目には出ていないが、それなりに待たされた挙句急に襲われたのは癇に触ったのかもしれない。
(やっぱ、こいつだけは絶対怒らせちゃいけない。)
───後日、青峰探偵事務所に一通の請求書が届いたらしく、その額に流石の蒼子も目を開いたまましばらく唖然としていた。自業自得だと思うが。
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