Acte 3-1

 七月の第一週の日曜日、亮は市民ホールへ向かった。いつものショルダーバックには「M高校吹奏楽部・七夕コンサート」のチケットが入っている。今日は七夕の二日前だ。七夕の日ではないのになぜに七夕と不思議な気もするが、昔は本当に七夕の日にコンサートをしていたらしい。コンサートの名称はその名残とのことだった。


 コンサートを聴くこと自体は嫌いではない。幼いころ父と一緒にクラシックのコンサートを聴きに行ったこともある。クラシック好きな父の影響もあって、元々音楽には造詣が深いのだ。


 遥香のピアノの発表会を聴きに行くこともあった。発表会の後、遥香のピアノの先生を紹介してもらって、小五から中二までの四年間、ピアノのレッスンに通うことになった。この経験と技術はオーボエの演奏にも大いに役立った。


 中学で吹奏楽部に入ったのも遥香がいたからだった。遥香がプロのフルート奏者に師事しているのを知って、知り合いのオーボエの先生を紹介してもらったりもした。プロは講師代が高くつくので、音大卒で楽器店に勤めるセミプロの人ではあったが。こうやって亮は何かにつけては遥香の行動に影響され続けてきた。


 ロビーをウロウロと歩き回り、人が混みあう中で目的の人物を探す。壁際で目立たないように背を丸めてソファに座っていた友人をようやく見つけることができた。

「吉野、悪いな、休みの日に誘って」


 亮の声に相手が顔を上げる。吉野陽介というクラスメイトで、愛想のない一重の小さな目が機嫌悪そうに亮を睨んでいたが、本当に機嫌が悪いわけではない。この表情は人を見るときのいつもの癖だ。手元のスマホの画面には何かのゲームのキャラが稲妻のような光を放っていた。


「予定がないからいいけど、俺なんか誘ってどうすんのっては思ったよ。吹奏楽の曲なんて全然知らんし」

「興味なかったら寝ててくれていいよ。せっかくもらったチケットだし、無駄にしたくないから来てくれただけでも助かった。他に誘える人なんていないから」

「それはそれで寂しいな」

「まあ仕方ないっしょ」


 亮も吉野も外部進学者で部活に入らず、これといった友人がいない。交友関係が狭いのもあるが、中学からの内部進学者の多い高校に通うから尚更である。そういう意味では二人は似た者同士の貴重な存在だった。

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