Acte 2-7
「それよりさあシノッチ、高校でも吹奏楽するんでしょ」
「吹奏楽はもうしてないです。部活にも入ってない。勉強が大変すぎて」
「うそ、オーボエ辞めちゃったの? あんなに頑張って練習してたのに。高校ってどこなの」
「K高校」
「え、マジで。K高ってめっちゃ頭いいとこじゃん」
K高校とは都内にある中高一貫の私立男子校である。偏差値七十七と全国で断トツトップ、東大進学者を現役浪人含め毎年二百名ほど排出する、化け物級の超優良進学校として世評の高い高校だ。
「頭いいっていっても、他の人はね。俺は成績たいして良くないし」と、その名声を鼻に掛けるどころか亮の背中がより丸く縮こまる。
「またまた、謙遜しちゃって。あんなとこへ入れるだけでもすごいのに」
「謙遜じゃなくて本当のことです」皿に零れたシュー皮の残骸が気になって仕方がない。フォークで掬って寄せていく。「周りのレベルが高すぎて全然ついていけないし、成績だって真ん中よりずっと下の方」中学では成績上位だったのに、という自信喪失を暗に含む。「それに先輩のM高校だって公立だけど立派な進学校でしょ。先輩たちこそ、楽器はまだしてるんですか」
「うん、もちろん。楽しくやってる。ねえ聞いてよ、遥香のフルートなんてさあ、三年の先輩たちとソロのオーディションで肩並べて競ってんの。はーさすがだよねえ」
苛つきながらシュー皮をフォークで突き刺していた亮は、その手を止めて遥香に目をやった。
「ソロのオーディション? 大会かなんかですか」
遅咲きの桜が咲きだしたように遥香の頬が淡く色づく。
「大会じゃなくてただの定演だよ。そんな大げさなもんじゃないし……オーディションに参加するくらいなら、いいかなって思っただけ」
フフッと笑って桜の色が遥香の頬にほころんでいる。亮の心臓が又しても強めの一拍を胸に叩いた。クソッ、こんなところで動くな心臓。なるだけ平静さを装って抑揚のない声で問いかけた。
「オーディションって、何の曲ですか」
「『君の瞳に恋してる』。ボブ・クルーとボブ・ゴーディオが作曲したやつだよ。そのままだと長いから短く編曲するけど」
「もしかして指揮者の横でソロ演奏とか」
「うん、顧問がフルート経験者で、次の演奏会でどうしてもそれをしたいんだって」
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