そこにある図書館はいつもどこかで。

アキノナツ

そこにある図書館はいつもどこかで。

巡る。


扉を開けと広がる書棚。

幾つもある書棚の連なりはどこまでも奥に続いていて、上にも高く伸びて終わりが見えない。

見上げる首が痛い。


そんな本ばかりの空間で出迎えてくれたのは、ひとりの少年だった。


彼はココの管理人のような者だと言った。

そして、『のような』なので、お好きに呼んで下さいとも言った。


どう呼んでいいか分からず、取り敢えず『管理人さん』とした。後で変えてもいいと言ってくれたので。


まず、管理人さんは何をしてるのか尋ねてみた。


「本はご自分で探しますか? それとも、私が探しましょうか?」

質問に質問が返ってきた。

つまりはここの案内のような、司書をしてるということか。

「ここの本は読めるんですか?」

「本ですから読めますよ」

「探してる本はないのですが」

「…変ですね。求める物がない者はここには来れないのですが」

「本は好きですよ。活字中毒と言ってもいいかもしれませんね」

「そうですか……」

「書架見ていい?」

自分の胸の高さしかない身長の所為だろうか。

見知らぬところへ来た時の緊張が解けてきたからだろうか。

本に囲まれた環境が落ち着いてきたのか?

段々と言葉使いが砕けてきた。

「どうぞ」

言ってから、指を顎に添えて目を閉じた。

どうしたんだろう?

何か考えてるのだろうか。

目が開くと、ちょっと青みがかった瞳が優しげに細まった。

「迷いはしないと思いますが、私もついて行きますね」

「あ、はい」


本の森の中には一歩を踏み出した。



「もうすぐ繋がりますから、帰る準備をお願いします」

「えっ? 繋がる?」

振り返るとそこに扉があった。


扉の側には『管理人さん』が和かな表情で佇んでいた。


今まで読んでいた本を手に扉に向かうと、手を差し出して

「本の持ち出しは出来ないんです。ごめんなさい」

申し訳なさそうに言われた。


「あ、どうも」

手の本を渡す。

扉に手を掛けて、開くと、ここに入る前にいた空間があった。

「ほら。」

トンと背中を押された。

トトっとよろけて、図書館から出た。

振り返ると、何もない。

無くはない。

あるべきものがあって、あの図書館がなくなっているだけだ。




あれから随分経つが、再びあの図書館には行けていない。

夢だったのかもと思い始めていた。


夢にしたくなかった。

また会いたい。

あの『管理人さん』に。



◇◆◇



終電間近のホーム。

人気はない。

電車が来るまでもう少し時間がある。

待合室の扉を開けると、あった……。


一歩踏み込むと、埃っぽい匂いと紙の匂いが混ざった図書館の匂いがした。


「またいらしたんですね」

口調はそのままなのに、ちょっと低めの声と発せられる位置が高さに違和感を感じつつ振り返った。

「管理人さんのお兄さん?」

着てる服も同じなのに姿は青年だった。

「いえ、私は私です」

くふふっと笑った。


「この前読まれてた本でしたら、思い浮かべれば来てくれますよ」

この前の?

あの本を思い浮かべれば、いつの間にか手元にその本があった。

では、あの『管理人さん』は。


本は消えて、腕の中に青年がいた。

「だから、私は私です」

妖しく笑う青年。

青みがかった瞳が細まる。


「あなたが求めてるのは『私』ですか?」


そうなのだろうか……。



===============


ありがとうございました。


以前、長編のつもりで書き出してたものだったのですが、要約した短編ものにして放置してたものが発掘されたので、投稿。

当時、耽美な世界を書こうとしてたように思いますが、忘れました(⌒-⌒; )


プロットも無くなってるので、連載モノで書くかは未定です。


書き散らしたままの状態ですが、直すのも何か違う気がして、そのままです。お見苦しくて申し訳ない。

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そこにある図書館はいつもどこかで。 アキノナツ @akinonatu

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