第94話 ヤンデレ化の兆候

「世話になった」

「何を仰います! ゼルさまのおかげでまた我々は救われたのです。感謝の言葉もございません」

「またのお越しをお待ちしております、ゼルさま、トウヤさま」


 ドグマさん夫妻と固い握手を交わした俺たち。これからゼーコック領でレーヴァテインを構成する同じ素材を集めることになる。


 ただそれも一筋縄ではいかなさそうだ。


 ゼル姉さんやドグマさんたちの話を聞く限り、領主の娘があんなクソだと、領主も相当クソっぽい。


 俺はゼル姉さんがいるからそこまで心配するほどのことはなさそうではあるが、問題はドグマさんをはじめとした領民の人たちなんだよなぁ……。


 なんてことを思っていると、ドグマさんが俺に手招きをしていた。


「トウヤさま。ゼルさまのことでお話が……」


 ゼル姉さんに了解を取ろうと彼女を見るとドグマさんの奥さんが声をかけ、お茶に誘っていた。二人は笑いながら談笑しており、俺が割って入るのは気が引ける。



 砦内にある応接室を案内され、入った途端、ドグマさんは俺に深々と頭を下げていた。


「どうかゼルさまをお願いいたします」

「お願いとは?」

「はい、是非ゼルさまをお幸せにしてあげていただきたいのです」


 ドグマさんは頭を上げるように伝えて、ようやく頭を上げる。するとドグマさんは真剣な目で俺を見つめていた。


 読心術のようなスキル持ちではないと思うのだが、じっと澄んだ瞳で見つめられると俺とゼル姉さんのとの関係を見透かされたような気分に陥ってしまう。


「ゼルさまはお強く帝国最強の魔導騎士と言って差し支えございません。ですが……そのお心は白馬の王子を求める清らかな乙女なのです」


 あちゃ~!


 俺は思わず目頭を押さえて、天を仰ぎたくなる。だがドグマさんの手前そんな仕草はできない。平静を装い、そのままドグマさんと対峙していた。だがどこか身体を痛め我慢しているような脂汗が吹き出てくる。


 なんとな~くだけど、そんな印象あった。


「ゼルさまがトウヤさまを見つめる瞳はまさに乙女が白馬の王子を見ていかの如く、輝いていらっしゃいます」


 い、言えない……。とても言えない……。


 俺が不可抗力とはいえ、三股をかけてるグズ男だなんて……。


 まるでゼル姉さんの後見人のようなドグマさん夫妻にとてもそんなこと打ち明けられない!


 それこそバレたら彼らから吊し上げられて、足下から火を点けられても文句は言えないような所業をしてしまっているのだ、俺は。


 どうかバレませんように、と背筋と脇を滴る脂汗の気持ちの悪さに堪えているとドグマさんは立ち上がって話を終わろうとしていた。


 ほっと胸をなで下ろそうとすると……。


「ああ、一つ言い忘れておりました。トウヤさまには英雄の相が見えると家内が申しておりました」

「俺が英雄!? ただの鍛冶師なんですが……」


「元来このゼーコックはブラックスミスと呼ばれておりまして、とある鍛冶師が成り上がり、王国を築いていた土地にございます。私はそちらの旧臣でしたので。残念なことにその血を受け継いだ方々はことごとく亡くなられてしまい、今のゼーコック伯爵がやってきたのです」


 知らなかった……。


 って、異世界の、しかも隣国の土地の話なんだから知るはずもない。


 新しい領主がクソ政治で領地を治めたら、そりゃ荒れるよなぁ……。


「どうか、この先はお気をつけください。ミランダ嬢の告げ口を聞いたゼーコック伯爵はあなた方をただでは帰さないと思います」


「お気遣いありがとうございます。なにがあっても俺はゼルを守り抜こうと思います。これでも婚約者ですから!」


 俺は柄にもなく、ドグマさんの前で胸を叩いて自信を見せた。これが一番彼らを安心させる言葉だと信じて……。


 だがドグマさんから返ってきた言葉は俺の予想を裏切る。


「トウヤさまは淑女、令嬢からおモテになるはず……。たとえゼルさまの魅力を持ってしても一人でお相手するのは難しいでしょう。ですがゼルさまの後見人として、お二人の愛の結晶であるお子を見れる日を楽しみにしております」


 ぶほぉっ!!!


 俺はメイドさんが持ってきてくれた紅茶を思い切り吹き出してしまっていた。



――――ゼーコック領主の館へ向かう道中。


「ドグマさんも人が悪いよ……。ぜんぶ俺たちの事情を分かっていた上で知らない振りをするなんてさ」

「まあそう言うな。ドグマはドグマなりにトウヤを応援したかったんだろうし」


「そんなもんかなぁ?」

「そんなもんだ」


 ゼル姉さんは手綱を操り、彼女の乗っている馬を俺に近づけさせた。ピタリと沿わすとゼル姉さんは俺に身体を預ける。まるで電車で居眠りしてきてもたれてくる隣の客みたいに。


「トウヤがメルフィナを愛していることは分かる。それでも私はトウヤのことが好きなんだ。私を一番に愛せ、なんて無茶は言わない……ただそばに置いておいて欲しい」


 こいういのでいいんだよ、こういうので。


 ゼル姉さんが本音を吐露したことで、そんなセリフが浮かんでくる。そばにいてくれることには何も言うことはないんだが、俺の意思に反して一服盛ったり、勝手に逆レイプされるのは困るのだ。


 俺に甘えるゼル姉さんを好ましく思っていると側面から邪魔がはいる。


 危ない!


 魔力を込めた矢がゼル姉さんに向かって放たれていた。


 やれやれ、本当にドグマさんの言う通りになったな。どうせ、こんなつまらないことを仕組んだ相手は決まってる。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、ナイチンゲールを舐めてました……激しく猛省しております。1/144で価格も7700円ですよ、ブキヤの美プラなんて、その価格ならA4より僅かに大きいくらいの縦横幅ですから。と、まあそんな感じで舐めプしてたんですね。ですが! 家に送られてきた箱を見て絶句しました、A3でも余裕で収まらん幅の特大の箱に……。初ロットから数年経つのに値上げしない姿勢のバンダイに感謝です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る