第92話 クソ領主の娘もクソ
――――砦の食堂。
案内された砦の内部はちょっとした古城のような雰囲気で、趣がある。食堂の上座と言っていいろだろうか、中心には見たくもないメスガキの肖像画が高い場所に掲げられていた。
まるで俺たちを見下ろしているみたいじゃないか!
喋らなくても肖像画の表情ですら偉ぶり、ムカついてくる。
「
「鍛冶師の刀哉です。よろしく」
その一方、兵士たちの上官であるドグマさんは腰が低く、彼は俺に頭を下げたあと、握手を求めてきていた。
ドグマさんはアラフォーぐらいで、苦労したんだろうと思われる表情筋の周りに皺が目立つ。
俺たちに着席を促したあと、ドグマさんは椅子に座るとメイドがやってきて、テーブルへ料理の入った皿を並べていった。
運ばれきたお料理はフランス料理のように華美な盛り付けではないが、旅番組に出てくるヨーロッパの家庭料理みたいな素朴さがある。
パンにシチューのような煮込み料理、お肉とスープといった皿が俺の目の前に並んでいた。お料理から漂う良い匂いに腹の虫が鳴きそうになっているときだった。
「うれしいです! ゼルさまに婚約者ができるなんて。しかも優しく聡明そうなお方で」
「あ、いやそれほどでも……」
ドグマさんから誉められ、俺は思わず照れてしまう。正直現代じゃ誉められるどころか、あきらから散々馬鹿にされる日々を送ってきたから、なにせ誉められ慣れていないのだ。
「どういった経緯でお二人は知り合われたのですかな?」
「トウヤが……直してくれたんだ、私の折れたレーヴァテインを……あのとき運命を感じたんだ」
えっ!?
俺の隣に座るゼル姉さんはドグマさんにそう答えたのだが、俺は驚いた。彼女は十代の純真無垢な乙女のように頬を赤く染めて、恥じらっていたのだから。
「えっ!? あの帝国が誇る最強魔剣の一つレーヴァテインが折れた?」
ドグマさんのスープを掬っていた匙がぽろりと落ちて、スープ皿へ落ちる。ゼル姉さんがぽろっと漏らした馴れ初めみたいな発言にドグマさんは真っ青な顔をしていた。まるで明日、この世が終わるみたいに……。
「レーヴァテインは対魔族への切り札……。それが折れるなど、あっては……」
不安そうにするドグマさんと真逆に明るい笑顔を見せるゼル姉さん。まだ絶望に打ちひしがれたような表情を見せるドグマさんに一言告げる。
「そこの飾りの甲冑をもらうぞ」
「あ、はい……そんなものを何に?」
食事中にも関わらずゼル姉さんは立ち上がり、食堂の脇に飾られた甲冑の置物に向かっていった。
「こうする!」
柄に手をやった瞬間には硬い鋼でできているであろう甲冑は真っ二つになり、断面が赤く輝いていた。
「ドグマ、安心してくれ。いまはトウヤのおかげで、この通り完璧だ!!!」
「ゼルさまの剣技が我々の理解を越えている……」
真っ二つになった甲冑に駆け寄り、検分したドグマさんはゼル姉さんを畏敬の念を抱いて、見ている。
「これもすべてトウヤのおかげだ。いままで抜き放ちながら、魔力を込めるなんて真似はできなかった。だが今は生まれ代わったレーヴァテイン
こういうときに脈絡もなく愛の告白みたいなことをしてくるのは止めてほしい。心の準備というのがまったくできないじゃないか!
「なあ、ゼル」
「なんだ、トウヤ」
「なんだか徐々に外堀を埋められていっているような気がするんだけど、気のせいかな?」
「気のせいだ。トウヤは気にしすぎるきらいがある。みんなはただ騒ぎ過ぎなんだ」
「ならいいんだけど……」
あまり突っ込みすぎて、自意識過剰と思われたくなかったので俺はゼルを追及するのを止めた。ただの食事会が俺とゼルの婚約発表みたいになって、砦に務める兵士とその家族が集まり、祝賀パーティーみたいになってしまってる……。
――――お二人のご婚約、バンザーーーイ!!!
――――おめでとうございます!
――――なんて理想的なカップルなんでしょう!
本心から俺たちを疑うことなく祝ってくれる彼らを見ると、俺は本当のことを話すに話せないでいた。
――――客間の寝室。
祝賀パーティーのような食事会を終え、今日はもう遅いということで砦の客間に泊まることになった。
しかし!
パーティーのあとだと俺たちは結婚式を終えた新婚初夜みたいになっている。緊張して俺がゼル姉さんに話しかけられないでいると彼女はいきなり突拍子もないことを始めた。
「食後はやはり鍛錬せねばな!」
彼女なりに場を和まそうとしてくれてはいるんだろうが、和むどころかカチカチだ! 俺の下半身がだが……。
貝殻ビキニアーマーではなく大事なところだけ辛うじて隠れた黒の下着を身につけて、ゼル姉さんはスクワットを始める。ぱかっと両膝を開いているので鼠径部が丸見えだ。
「なにしてるんだよ……前を隠してやれって」
「おまえを誘ってるんだ」
「なっ!?」
「トウヤは私だけでなく、様々な女と肌を重ねているというのに、意外と初心だな」
そりゃそうだろう、三十路童貞で本当に魔法が使えるようになってしまった男がメルフィナを始めとする美少女たちと仲好ししてしまっているんだから。
未だに信じらんねえ……。
「そういや最近、人前ではマントで肌を隠すようになったけど、なんかあったのか?」
「お、おまえ……それを私に言わせるのか?」
ゼル姉さんはやや逆ギレ気味に俺に返すが……しばしの沈黙のあと罰が悪そうに答えた。
「他の男に見せたくない……」
彼女は言ったことを後悔するかのように真っ赤になった顔を両手で隠す、しかし叡智な下着はしっかり隠さずに……。
ぐらっとゼル姉さんのかわいさに心が揺れてしまいそうになっていたときだった。
「門を開けなさい!!! 開けなきゃ、おまえたちは全員クビなんだから!!!」
部屋の窓から外を覗くと砦の門の内側に馬車が止まっており、その馬車の窓から身を乗り出した人物が叫んでいる。なんだかクレーマーが深夜に押しかけ、無理難題をふっかけてきそうな悪寒が走った。
―――――――――あとがき――――――――――
もう5月です! 5月と言えば、バスタードール タンクの発売月!!!(←知らんがな)
なんと言ってもこのシリーズはブキヤの性癖が詰まった素晴らしい美プラなのです。なんと、みんな制服姿なのにおへそが見えているえちえち仕様……ああ、すばらしい……。
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