第91話 世直し監察官
「これは一体……?」
少なくとも兵士たちが俺に平服しているわけではないことは分かる。その様子は俺の隣にいるゼル姉さんに心酔してるって感じだった。
兵士たちの上官と思しき人物がしゃがみ歩きでゼル姉さんの下へ寄ってきて、首を垂れる。
「ゼル将軍、ご昇進おめでとうございます」
「あ、いや、これは……偶々上が抜けたから昇進できただけであってな。運だ、運」
「またまたご謙遜を」
兵士たちが手放しでゼル姉さんを誉め、ゼル姉さんが否定しつつも照れるという微笑ましい光景が繰り広げられていた。
意外と誉められるのに弱いんだろうか?
「ご尊顔のお疵を治されたということは、ついに仇敵を討ち取られたのですね」
「あ、ああ、これか……」
ゼル姉さんは彼らに指摘されると目元と鼻根をさすり、感慨深そうにしている。
「言いにくいのだが、和解したのだ」
「なんと! さすがゼル将軍です。戦わずして、敵を屈服させたのですね。素晴らしい」
「あ、ああ、そ、そうだな!」
どちらかと言うとゼル姉さんはメルフィナに屈服させられたというのが正しいが、ここは彼女の名誉のために何も言わないでおいた方が良さそうだ。
「疵を治されて正解ですな。以前のご尊顔もお美しかったのですが、今は絶世の美女と言っても過言ではありませんな」
「そ、そ、そんなことはない。私より綺麗な女は山ほどいる」
「またまたご謙遜を」
おだてられ両手を前に突きだして全力で否定するゼル姉さんだったが、顔を赤くしているところを見ると満更でもないらしい。
ただ兵士たちが言っていることは間違いない!
兵士たちとゼル姉さんがかなり仲が良いことは分かった。
「あの~、ゼル。彼らとの関係は?」
直轄領ってわけでもなさそうだし、ゼルと主従関係を結んでいるということもなさそう。
不思議に思った俺は思わずゼルに訊ねていた。
「もしかして、トウヤは嫉妬してくれたのか!?」
「なぜ、そうなる……」
ゼル姉さんは、ぱあっと明るい表情を見せ、妙に俺に食いついてくる。俺とゼル姉さんがラブコメのようなやり取りをしていると今度は兵士たちが訊ねてきた。
「ゼル将軍、そちらの御仁は?」
「えっと……その……」
ゼル姉さんはしおらしく俺を上目づかいで見てきて、何か了解を取りたそうにしている。
はあ……。
やなんだよな、ヤリチンとか二股、三股かけているようで……。だけど、すんなりことを運ぶにはゼル姉さんに任せるのが一番なので、俺は仕方なく頷いた。
俺から返事をもらったゼル姉さんはそれまでの憂いを帯びた表情から、春になり桜が一斉に咲いたかのような明るい表情となり兵士たちに堂々と胸を張り、答えた。
「私の婚約者なんだ。丁重にもてなしてもらえるとありがたい」
「なんと!?」
「ゼル将軍からお聞きになられてませんでしたか……功績を誇ることのない実に控えめなゼルさまらしい。ゼルさまは元々帝国の各地を巡る監察官をされており、【世直しゼル】として名を馳せておられたのです」
兵士たちの上官がゼル姉さんの過去を明かすとゼル姉さんは……。
「ハノイ! そ、それは言わない約束だろーっ! 私は世直しなんて大それたことはしていないって」
「いえいえ、ゼルさまのおかげで我々の暮らしがどれほど良くなったか……ただまたゼーコックの奴が……」
「またあいつ……領民を苦しめるようなことをやり出したんだな……よし、せっかくトウヤと来たんだ。ついでに一言言っておいてやるよ」
「ありがとうございます。詳細は後ほど……とりあえず、エールの用意をさせますので」
「おう!」とゼル姉さんが答えると兵士たちの一部は俺たちにぺこりと頭を下げると歓迎の宴のためなのだろうか、砦へと引き上げていった。
「なあ、ゼル」
「なんだ、トウヤ」
「なんだか徐々に外堀を埋められていっているような気がするんだけど、気のせいかな?」
「気のせいだ。トウヤは気にしすぎるきらいがある。みんなはただ騒ぎ過ぎなんだ」
「ならいいんだけど……」
あまり深く突っ込んで自意識過剰と思われたくなかったので俺はゼル姉さんを追及するのを止めた。ただあの兵士たちのよろこび様を見ると彼女は時代劇に出てくる人物のように慕われているようだった。
まあゼル姉さんが世直ししてきたということは悪代官みたいな領主がいるってことなんだよな……。
―――――――――あとがき――――――――――
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