第88話 はい、看破!

 俺たちが会話のやり取りをしているとメスガキが立ち上がり介入してくる。


「おまえたちには最高の剣を作ってもらう。サーベルではなく剣でな!」


 メスガキは俺が得意とする刀でなく、まだまだ経験の浅い剣を造ることを求めてきた。言い放った俺を見下し、したり顔でにやついている。俺はどんな女の子でも手を上げたくはない。


 だが俺の目の前にいるメスガキだけは別だ! 見てるだけで何故か殺意にも似た苛立ちがこみ上げてしまう。思わず、顔を叩いておしりをぺんぺんしてやりたくなるくらいだった。


「ああ、そうか」

「なんじゃ? 驚かんのか!」


 生返事気味に頷いた俺だったが、メスガキは目を剥いて驚いている。どうせ、メスガキたちが俺に有利な条件で勝負させようなんて気がないのが見え見えだったからだ。


「ずいぶんと余裕のようだが、このキッテル、一切手を抜くつもりはない! オレの弟子になればビシバシ鍛え直しててやるから覚悟しておけ!」


 覚悟もなにも一から剣の打ち方を教えてくれるなら、正直ありがたい。ゼル姉さんのレーヴァテインもジュリたち鍛冶ギルドの支援があってこそ打てたもの。


 たまたま上手くいっただけで俺はそんなに器用じゃない……。


 ここで弟子にしてください、なんて言うと出来レースを疑われてしまう。ここは教わりたい気持ちをぐっと抑えて正々堂々勝負する姿勢を見せないと。


 そう思っていても身体は正直なようで、


「な、なんだ!? なぜ笑っている!?」

「いや、なんでもないですよ」


 笑みが自然とこぼれてしまった。気をつけねば。


 わくわくする気持ちを無理くり抑えていると摂政のアッセンが書類を手にして、俺たちに見せるように掲げると宣言した。


「期限は一ヶ月! 双方共に最高の剣を陛下に献上するのだ!!!」


 最高の剣ねぇ……。


 何を以って最高とするのか、基準が明確でない。はっきり言えば、俺の剣の仕上がり具合によってどうとでもゴールを変えることができる。


 それこそ不殺の剣とかで刃引きしてあるとか。


 その最高の剣の正解はキッテルにしか伝えないつもりなんだろう。


「ちょっと待った!」

「なんだ、下郎! 貴様に意見する機会を与えた覚えはないぞ!!!」


 アッセンは手で水平に空を切り、俺に鋭い視線を投げかけながら言い放った。どうやら奴は俺に発言させないつもりらしい。


「そうか。じゃあ帰ろう、ゼル」

「陛下、申し訳ありませんがトウヤがそう申しておりますので失礼いたします」


 俺とゼル姉さんはメスガキ、アッセン、キッテルに別れの挨拶をして、玉座の間を去ろうとする。それに慌てた三人は口々に驚いている。


「はぁっ!?」

「なんだと!?」

「臆したかっ!」


 まさか俺たちが勝負をせずに帰るなんて想定していなかったのだろう。


「俺がキッテルとぜったいに勝負しないといけないなんてことはないよな。するか、しないかは俺が判断することだ。こちらはキッテルの得意な条件で勝負することを飲んだ。今度はそちらが飲む番だろ?」


「言わせておけば、鍛冶師風情がつけ上がりおって!!! ここで剣の露にしてやるっ!」


 アッセンは腰に帯びた剣の束に手をかける。いつでも手打ちにできるぞ、といった姿勢だ。


 それでも俺は屈せずにアッセンから踵を返して立ち去ろうとしていた。なによりゼル姉さんが俺に協力的なのがうれしい。


「はっはっはっ! 陛下だけでなく、この儂にも一歩も退かぬ媚びぬ省みぬ姿勢……気に入った! こちらも本気で打ってやる! 今から吠え面をかいても知らぬぞ」


 俺が不毛な勝負を避けようとしていたら、キッテルは笑い出した。


「陛下、アッセンさま! このキッテル、本気でこの者を弟子にしてみたいのです。そのためには完璧に心酔させねばなりません。セコい勝ち方ではダメなのです」

「なっ!? 私の策がセコいだと!?」


 キッテルは口が滑って、アッセンが卑怯な手段を取ろうとしていたことを暴露してしまった……。


 だ、大丈夫か?


 アッセンの剣の矛先ならぬ、剣先はキッテルに向かおうとしていた。


「待て、アッセン! それには及ばぬ」

「陛下! それでは下に示しが……」


 メスガキは狼狽えるアッセンを無視して、キッテルに語りかけている。


「よかろう……キッテルよ、そなたは必ず勝てると言うなら、アッセンの詰まらぬ策は捨てて真っ向勝負を挑め!!! ただし敗北は許さぬ」

「はは、御意に……」


「話が決まったなら、ちゃんと最高の剣の条件を教えてもらいたいな」

「うるさい雑魚め! 言われんでも分かっておるのじゃ。う~ん、う~ん……」


 メスガキは眉間に皺を寄せ、いかにも思案中といった顔になっていた。


 五分、十分と待たされたがメスガキは唸ったまま。アッセンが「陛下……」と助け船を出そうにも「うるさい」と一喝するだけだった。


 いやこれ、ぜったいに答えが出せない奴だろ。


「勝負はそこにあるヘルムを切って、どちらが深いダメージが与えられるかどうか、ってのはどうだ?」

「う、うるさいっ! それは余が考えていたところだったのじゃ!!!」


 さもメスガキが考え出したかのように俺の意見は取られてしまうが……。


 まさに計算通りだった。


 キッテルの力量を測るのに俺はちょうどいい機会を得たのだから。


―――――――――あとがき――――――――――

ゼル姉さんとの激しい仲好しの模様を加筆している途中です。とてもこちらに投稿できそうな内容ではないので、仕上がり次第近況ノートにてお知らせいたします。もうしばらくお待ちください。

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