第85話 策謀の弟子

――――【優希目線】


「さあ、行こうか」

「行くって、どこへ?」


 やっぱり親子だ。


 刀磨さんは私の腰の側に手をやるが触れはしない。彼はどこか控え目ながらも私をエスコートしようとしていた。このどこか照れたような距離感の取り方は師匠とよく似ている。


「俺たちの雇い主だな。組織の者たちは盟主と呼んでいる男だ」

「盟主?」


 なにか大人に成り切れない人がずっと患っている病気厨二病に思えてならないような役職に私は首を傾げざるを得なかった……。



 刀磨さんの案内で、とある部屋の前に来たのだが、とても大人に成り切れてないような人がいるような所じゃない。


「ここって、まさか!?」


 部屋のネームプレートには総支配人室と掲げられていたのだから……。


「轟ぃ~、邪魔するぞ~」


 刀磨さんはシックな赴きのあるドアをコンコンと軽くノックするとまるで馴染みの居酒屋にでも入るように中へ入ってしまう。


 私が外で二の足を踏んでいると……。


「ほら遠慮なく入りなよ」

「あ、はい……」


 刀磨さんはドアを開いて手招きしていた。


 中に入るとこれぞ社長室といった雰囲気で大きなプレジデントデスクとその手前にはソファーとセンターテーブルが置いてある。


 デスクには黒髪をオールバックにして後ろで結んでいる筋肉質の男性が座っていた。彼の奥には……太刀が……ある。反りや長さからして、刀磨さんが打った物なのかもしれない。


「連れてきた。どうやら俺の助手を務めてくれるらしい」


 刀磨さんはまるで自分の部屋みたいにドカッとソファーに座ってしまう。そんな刀磨さんに私は対面のソファーに座るよう手で指示されていた。きょろきょろしていると総支配人と思しき人物が硬い表情を和らげ、頷いたので着席する。


「そうですか、それは素晴らしい。伊勢先生の欲しがっていた助手がいれば、また最高の太刀ができる」


 あれ? この人……誰かに似ている?


「おっと、紹介が遅れた。私はこのホテルの総支配人をしている轟だ」

「あ、はい、私は水野優希です」


 そう思ったとき、轟と名乗った男性は椅子から立ち上がり、手を差し出す。私もソファーから立ち、彼と握手しようとするが……。


「ああ、済まない。利き腕は義手でね、見るに堪えないと思うので握手はグローブをしたままでお願いしたい」

「いえ、構いません」


 差し出された黒いグローブを握ると硬い金属のような感触がした。動きを見る限り、鉄のような重さではなさそう。おそらくチタンのように感じた。


 警察官を襲い、殺してしまうような危険な連中なのに妙に紳士ではある。だけど腹の底では何を考えているのか分かんない。


 そんなことを思っていると私を見透かしたように盟主が声をかけてくる。


「我々はテロリストではない、レジスタンスだ」

「レジスタンス?」


 あくまで自分たちは虐げられた者であり、政府などの権力者に対して、抵抗していると……。


 私の顔は、ぽかんと不思議そうにしていたんだろう。盟主は後ろ腕を組んで窓から景色を見ていた。かと思ったら私の方を向く。


「キミはおかしいと思わないか?」

「おかしい? なにがですか」

「脱税した政治家は逮捕されない。一方、庶民が脱税すれば罰せられる。これを不公平と言わずして、なんとする」


「確かに不公平ですね」

「分かってくれるか!」


 盟主はかけて私の手を取る。まるでマニアックな趣味を持つ人間が同じ趣味を持つ者を見つけたかのような表情をしていた。


 そうだ!


 不公平だ!


 私の方が先に師匠のことを好きだったのに、ぽっと出の外人に師匠を奪われたのだ。


 いいこと思いついたぁ!


 この人たちを利用して、師匠に近づくメスどもを排除すればいいんだ!


 最悪……女の武器を使えばいい。


 優しい師匠なら私がこの人たちにレイプされたと吹聴すれば責任を感じて、あのクソ女より私を選んでくれる……。


 あはっ! あはっ! 完璧じゃない!


「ご盟主の高い志に感銘を受けました。この水野優希、組織のために尽力することを誓います」


 こんなテロリストたちが官憲に捕まって、処刑されようがどうでもいい。むしろ人殺しは法に裁かれるべきなんだから!


―――――――――あとがき――――――――――

コトブキヤで予約しようかと思ったら、何故か決済で弾かれてしまう。不思議に思っているとDMMで予約できそうだったのでそちらに乗り換えました。あとで確認すると、どうもカード決済した人にエラーが発生していたらしいです。ともかく、プニモフ☆トゥを確保~!

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