第80話 メスガキ
「雑魚じゃねえ! トウヤ・イセだ!」
カチンと来てしまった俺は立ち上がりながら、メスガキに言い放ってしまっていた。するとメスガキの傍に控えていた長身で黒い長髪のイケメンが身を乗り出してくる、手刀で水平に空を切りながら……。
「控えろ、下郎っ! リエール陛下の御前であるぞ」
俺はイケメンの剣幕に気圧されることはなかったが、ゼル姉さんは跪いた姿勢から尻もちをついて、あわあわと口を半開きにしている。
どうやら俺はヤバい無礼を働いてしまったらしい。言い訳すると先に俺に失礼なことを言ってきたのはメスガキだが……。
メスガキは一丁前に脚を組み、玉座の肘掛けに肘を置いて頬杖をついている。態度はおろか、身体まで斜に構えているという徹底ぷりだ。
そのメスガキが玉座から徐に立ち上がる。玉座の周りにはひな壇が設けられていたが、そこに立ち上がってもメスガキは俺より低いくらいだった。
「構わぬ、アッセン。この雑魚が余に無礼を働くということはそれほどの自信の表れであろう。ならばその自信……打ち砕いてやれば良い!」
メスガキは俺のマウントを取りたいのか精いっぱい顎を上げ頑張っているが、つま先が上がりどんどん背中が反ってゆく。
「今更、余に刃向かったことを後悔しても遅いことを一生掛けて悔いるがいい! あはっ、あはっ!」
だがついに限界を迎え、ゴンッ! と音がした。
「いっ、痛いんじゃぁぁぁーーーっ!」
「リ、リエール陛下っ!!!」
背を反らしながらバカみたいに高笑いをしていたメスガキだったが、玉座の背もたれに頭をぶつけてしまったのだ。
「雑魚のクセに、余に恥をかかせおって! 絶対に許さぬっ!」
顔を真っ赤にさせ、後頭部を押さえるメスガキ。
「お労しや! リエール陛下がお怪我を……」
彼女を心配してかイケメンがおろおろしている。イケメンが金色の髪の後頭部にふーふーと息を吹きかけて、なんとか癒やそうとしていた。しかしメスガキはまだ頭を両手で被ってるところを見るに効果はなさそうだ。
笑うのをこらえながら、言葉を絞り出す。
「お言葉ですが、俺は何もしてませんが……」
「うるさいっ、うるさいっ! 余は不愉快だ。雑魚には相応しい相手を用意してやるから、覚悟しておけっ!」
怒ったメスガキは頬を膨らませながら、ぷりぷりして玉座の間から立ち去ろうとしていた。
「ああっ、リエール陛下っ! いずこへ?」
「回復術師に診てもらう! ついてくるなっ!」
それを追いかけようとするイケメンだったが、メスガキにぴしゃりと制止されてしまった。
「下郎! 貴様の処遇は追って言い渡す、それまで覚悟しておけっ!」
「覚悟がなければ、ここに来てないんだけど」
「く、口応えするなっ!」
覚悟、覚悟と二人して言われるものでつい口応えしてしまった……。人を見下すような外見だけが良いイケメンが狼狽する姿は実に滑稽だ。こいつにはフレッド殿下の爪の垢でも飲ませてやりたいくらい。
「アッセンさまっ! リエール陛下が……」
「今すぐ行く! 待ってろ!」
控えていた侍従が慌ててイケメンに呼びかけており、慌ててイケメンも玉座の間を去ってしまった。居並ぶ多くの臣下たちもメスガキが去ったことでこの場を離れてゆく。
ポツンと残されたのは俺とゼル姉さん。
「トウヤ……さっきは本当に肝を冷やしたぞ。まさかリエール陛下に盾つくなど……」
「盾ついたわけじゃないよ。ただムカついただけだ」
「……」
ゼル姉さんは額を押さえて、無言になってしまった。
大人気ないとは思うがあのメスガキに煽られると我慢ができなくなってしまったのだ。なにか人を苛つかせる特殊なスキルでも持っているのかもしれない。
「ゼル、一つ訊きたいんだが……」
「なんだ?」
「俺は今日、どこに泊まればいいんだ?」
「確かに……」
ゼル姉さんは顎に手を置き、考え込んでしまった。
「マジか!?」
まさかゼル姉さんが何も考えてなかったなんて……。
「冗談だ。私の宿舎がある」
「ホントに?」
「よし! 今日は私が貴様に帝国を案内してやろう。陛下が気難しいことを伝え忘れていたお詫びも兼ねてな」
ゼル姉さんが気心知れた女友だちみたいな表情をこちらに向けてきたので、俺は思わずドキッとしてしまった。
―――――――――あとがき――――――――――
お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。また読みに来てくださり、感謝の極みです。
さて、世間ではついにGW休みが始まりました! 読者の皆さまは連休を楽しめそうですか? ちなみに作者はいつもより仕事時間倍増です……(・_・、)
頑張れという方はフォローとご評価お願いいたします。
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