第79話 帝国潜入

 俺たちはベッドの上で膝を突き合わせ、話し合っていた。メルフィナは日影さんに意志疎通が可能なように魔法を唱えて……。


 日影さんがメルフィナに彼女の家の掟を打ち明けた。するとメルフィナはマットを叩く。マットの揺れが収まるまえにメルフィナは一瞬感情が高ぶったが、それを抑えて冷静に日影さんへ突っ込みを入れた。


「そんな! 目を見たら婚約しないといけないなんて掟はおかしいです」


 えっ!?


 俺はメルフィナが日影さんに返した言葉に耳を疑った。だが日影さんも負けていない。


「メルフィナさんの方こそ……耳に触れられたら婚約するというのは……如何なものかと……」

「うっ!?」


 指摘されて初めて気づいたかのようなメルフィナは後退りしていた。万能っぽい彼女がちょっと抜けているところはかわいく感じてしまう。


 息を深く吸い、気を取り直したメルフィナは日影さんに言い放った。


「単なる家の掟なら私はあなたを許しません! ですが……旦那さまのことが本当に好きになってしまったというなら……百歩譲って、私と旦那さまが百回の仲好しをしたら、一回だけあなたと仲好しすることを許可しましょう!」


「百回では……刀哉さまが飽きられて……しまうと思います! せめて十回にして……ください……。そうすれば刀哉さまとメルフィナさんは……新鮮さを保った……仲好しに……勤しめるかと……」


 なんと言えばいいんだろう……?


 倦怠期を迎えた夫婦にまるでスワッピングでも提案してくるような妙な説得力……。


「仕方ありません……。旦那さまに飽きられ捨てられるのは困ります。でも勘違いしないでください! 本当は誰にも旦那さまを渡したくなんてないんですから」


「それはメルフィナさんと……刀哉さまの仲好しを見れば……分かります。刀哉さまを足で挟んで逃がさないなんて……生で見る大しゅきホールドに……思わず……自家発が……捗ってしまいました……」


 俺とメルフィナは顔を見合わせ、二人で恥ずかしくなる。メルフィナは顔を真っ赤にしてうなだれ、俺は自分の性癖を市中に拡散されてるような気分だった。


 日影さんは地味な見た目をしているものの、実はドスケベなんじゃないかと疑ってしまう。


「無事私とメルフィナさんとの契約が……成立しましたので……では早速……男女の営みを再開しましょう!」

「「えっ!?」」


 確かに朝の俺の下半身は元気であるが、叡智なことに関係なく無意識にそうなってしまうので仕方ない。


 メルフィナは顔を背けて、恥ずかしそうにする。


 さっきは日影さんに見られているなんて思っていないから、羽目を外してメルフィナとハメハメしていたが、人に見られて男女の営みを行うのはハードルが高い。


 やはりムードというものがあるのだ。


「そんな朝から急に……」

「そうですか……では私と刀哉さまが……シても構わないですよね?」


「ダメです!!! 私が先にシます! 旦那さまが嫌じゃなければ……」

「いやなんてことないよ、メルフィナさえ良ければ……」


―――――――――自主規制―――――――――


 九回、キャッチャーメルフィナ、伊勢ピッチャーの熱い熱い白球をお腹で受け止めました!


―――――――――自主規制―――――――――


「きゅ……九戦目で止めれば、ずっと私のターン……」


 俺の上に跨がったメルフィナは、よだれを垂らしながら瞳孔をハートマークに変え、ぶつぶつとつぶやいている。


「リセット……されることはないです……。明日、メルフィナさんが刀哉さまと一度スれば……私のターンです……」

「っ!?」


 俺たちの営みに手を出さずに、ずっと見守りながら自家発していた日影さんはメルフィナに告げる。


 メルフィナは無理をしてたんだろう。


 日影さんから約款を持ち出され、俺の胸元へ倒れてしまった……。


 ただひとつ気になることがあったので、二人に訊ねてみた。


「まさか今晩も、スるとか?」

「……当然です!」

「刀哉さまさえ……飽きてなければ……」


 恐ろしいことにメルフィナの回復力のおかげで、一時的に賢者化するものの、俺の精力はまったく衰えることがなかった……。



――――ブリビン帝国皇宮。


 日影さんと合流し、一週間が過ぎた頃だった。俺はやんごとない人物との謁見を迎えていた。


 ただし、俺の意志に関係なくだ。


 パリピーターンがどの程度帝国に浸透しているのか知りたくなって、こっそり潜入するつもりが、ゼル姉さんが行く先々で俺を誉めちぎるものだから、あっさりと俺の身分が露見してしまった。


 賓客として招かれていることだけは幸いだったけど……。


 真っ赤な表皮に金色の手すりと背もたれ、これぞ玉座といえる椅子に不釣り合いなくらい小さな子どもが座っていた。


 その傍には摂政と思しき男性の姿。


 玉座に座る子どもが、跪く俺とゼル姉さんに声をかけた。


「ほほう! クローディス王国にて優秀な鍛冶師を招聘してきたとな?」

「はい、陛下」


 子どもの問いかけに恭しくゼル姉さんは答えた。


 ちなみにメルフィナにビキニアーマーを取られたゼル姉さんは何故か貝殻ビキニを装備している。


「ふ~ん、こんな奴が優秀ねえ……冴えないを通り越して、雑魚っぽいんだがのう。まあ名前くらいは聞いてやるか。名をなんと申すのじゃ?」


 こんのメスガキがっ! 


 反射的に、そんな言葉が頭に浮かんでしまう。思わず教育的指導と称して、おしりペンペンしたくなるような生意気な幼女がブリビン帝国の君主だった。


「雑魚じゃねえ! トウヤ・イセだ!」


 カチンと来てしまった俺は立ち上がりながら、メスガキに言い放ってしまっていた。


―――――――――あとがき――――――――――

今日、ブキヤのソフィエラが予約開始となりました。前日までにSNSでの反響を見て、熾烈な争奪戦が繰り広げられるかと思ってたんですが、数分の遅延があったものの無事購入予約できました。

ですが! その後の様子を見ると、どこも予約終了となっていて、改めてアルカナディアシリーズの人気の高さを思い知らされた作者でした。

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