第76話 シャドウストーカー
――――自宅。
「うわぁぁぁ……」
帰宅すると庭いっぱいに並べられた大量の段ボール箱に驚愕した。まるで炎上系You Tuberがやらかして、嫌がらせで大量に物が送りつけられたみたいになっている。
「へ~! ここがトウヤの世界なんだ~。見たことない物ばっかりだわ」
「あんまり遠くに行くなよ。誰かに見つかったら、面倒なことになるんだから」
きょろきょろと自宅の周囲を見回し、落ち着きのないセルフィーヌ。多分、俺も異世界へ初めて行ったときはこんな反応をしていたんだろう……。
「ねえねえ、トウヤ!」
「なんだよ?」
「私を案内してよ。こっちの世界を見てみたい! それにどうやってパリピーターンができるのか、見てみたいし」
気持ちはよく分かる。この世界に住む俺ですら鶴畑製菓で工場見学させてもらったときは心が躍ったくらいだし。だけど……ここは心を鬼にしないとならない。
それに今回も手伝ってくれた職人の卵たちに観光案内がまだできていないくらいなんだから。彼らは「トウヤのアニキから手当てがもらえるだけで光栄っす!」と言ってくれてはいるのだが……。
「それよりもさ、これ……セルフィーヌの魔法でなんとかできない? 今回はとんぼ帰りの約束だろ」
「仕方ないわねぇ……その代わり、パリピーターン一箱もらうから!」
「それくらいなら全然大丈夫だ」
鶴畑製菓から送られてきたパリピーターンの量は俺の想像を遥かに越えていた。添付されていた明細を見ると大量注文割引と書かれており、六掛け程度だと思っていたものが、五掛けになっていた……。
確認するため、小刀で段ボールに貼られたガムテープを切る。中には十二袋入りの小箱が四つ入っていた。小売り価格なら一箱につき、二五〇〇円くらい。ひと箱で一万円ほどになる。
その半額なので……。
一万箱はある計算になる。
決して重くはない。だがかさばって仕方ないのだ……。
自宅周辺が足の踏み場もないくらい支援物資の集積所みたいになってしまい、途方に暮れそうになっていたが、
「【ミニチュアライズ】」
セルフィーヌが闇精霊魔法を唱えた。すると俺の自宅に並べられた大量の段ボール箱が見る見るうちに手のひらサイズへ変化してゆく。
「潰れてはいないんだよな?」
「当たり前じゃない。ま、私くらいになると中身を潰すことなんて雑作もないんだけどね」
サイズの制限はあるものの物の大きさを自在に変化させられると聞いていたので連れて来たんだけど、もし彼女がいなければ俺たちはかさばる荷物を抱えてダンジョン内を何十回も往復しなければならないところだった。
「そもそもそこにいる脳筋ポンコツエルフとは格が違うのよ、格がね!」
「ぐぬぬ……」
ドヤ顔でメルフィナに対してマウントを取るセルフィーヌだった。メルフィナはそんなセルフィーヌに一言も言い返していない。
下手にセルフィーヌの機嫌を損ねて、異世界に戻った際に段ボール箱を戻さないとか言われたら、終わりだということを自覚しているんだろう。
あとでいっぱい誉めてあげないとな。
ちょっとだけ俺はセルフィーヌを誉める体で釘を刺しておく。
「セルフィーヌは凄いな。でもアイテムボックスのように無限に入る精霊魔法を使えるわけじゃないんだな……」
「なっ!? そ、そうよ……あんなの大賢者しか使えないんだから……」
ドヤーっとイキリムーブをかましていたセルフィーヌだったが、上には上がいることを思い出しシュンとしてしまった。
「セルフィーヌはその大賢者の次に凄いと思うぞ」
「どうせ、私は~」と頬を膨らましふて腐れ気味にぶつぶつ呟いていたセルフィーヌの頭の上に手を置いて、ひと声かけておく。
「トウヤに誉められたって、うれしくないんだから……」
天の邪鬼なセルフィーヌが一瞬照れたように見えたんだが、気のせいかもしれない。
「よし、みんな持ったね!」
「私も持ちます!」
「いや、メルフィナが持ったら、みんなを守れないじゃないか。ここは俺たちに任せて」
「は、はい……」
「私は持たないからね!」
「セルフィーヌは荷物を戻してくれるだけで大丈夫」
「そ、そう? じゃ、じゃあ、頼んないメルフィナに代わって、私があんたのこと守ってあげよっかな?」
「頼もしいな、セルフィーヌは」
「は? あ、あ、当たり前に決まってんじゃん!」
またセルフィーヌの言葉が辿々しくなる。
そんなことより荷物の受け取りをお願いしていた日影さんの姿が見えないんだけど……。
ちゃんと荷物は受領できたし、探している時間も惜しい。
俺たちはまたダンジョンへと潜っていった。
―――――――――あとがき――――――――――
むむむっ!? もう二週間ほどすれば、GWではないですか! 読者の皆さまはどこかお出かけのご予定ですか? 社畜のような作者はGWの方が忙しいです(・_・、) お出かけされる皆さまはどうぞお気をつけて!
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