第77話 現地妻
――――王都へと続く街道。
王都まで徒歩で一日という距離にいた俺たち。そこへ怒号が木霊した。
「またクローディス王国の奴らがカモにされにきたみたいだ! かかれーーーっ!!!」
「逃げることしか脳のない腰抜けどもだ! 叩き潰してやれ!」
フードをまとった帝国魔導兵が俺たちの乗る荷馬車を見つけ襲いかかってくる。彼らの目は血走り、頬がこけ、すっかり手足が細くなっていた。
「馬車を置いて逃げます!」
メルフィナが団員に声をかけると、彼らは指示に従い、止めた馬車から一斉に飛び出し一目散に刈り取られた麦畑へと逃げ出す。
だが肝心のメルフィナは荷馬車の座席座ったままだ。そろそろ敵が迫ろうとしているのに……。
「メルフィナ、どうしたんだよ?」
「逃避行するときはやはり……」
こんなときに一体なにを? と思いつつも乙女心と逃避行から連想されることを実行してみることにした。
俺が手のひらを上にして差し出すとメルフィナは正解とばかりに笑顔になり、手を繋いだ。二人で手を繋ぎ、団員たちに少し遅れながらも帝国魔導兵と充分距離を取って彼らの様子を探る。
舐めプとまではいかないが、メルフィナが余裕そうに振る舞うのには理由があった。
「なんだ!? これはぁぁぁぁーーーーっ!!!」
「ないっ! 食料はおろか、あの菓子までもがないぞっ!!!」
食料が入っていると思い、木箱を開けた帝国兵は中身のまったく入っていないことに声を上げる。
「撤たいっ!?」
指揮官が命令を下したが、時すでに遅し。
逃げると見せかけて、俺たちは帝国兵の退路を遮断するように陣取っていた。
「ははははっ! これは傑作だ、逃げ惑うことしかできぬクローディス王国の騎士さまが我々の行く手を阻もうなど片腹痛いわ! 死にたくなくば道を開けろ」
いかにもパワハラ、セクハラをしそうな禿頭の指揮官がメルフィナに向かって言い放っていた。
「今逃げてるのはおまえらじゃん」
「なっ!? 我らを愚弄しおって!!!」
指揮官がさっと手を水平に差し出すと魔導兵たちが魔法の詠唱を始める。
「撃てーーーーっ!!!」
それこそ要塞を一撃で破壊してしまいかねない巨大な火球が俺を襲ってきた。
いくら俺の水魔法でも多勢に無勢、防ぎきれる自信はなかった。
だが俺の後ろにはメルフィナや団員たちがいる。退くに弾けない状況に太刀の柄に手をやる……。
スカッ!
しまった!?
メルフィナに預けたまま……、と思った瞬間のことだった。
俺の脇をすり抜けるように抜刀して火球を十字に切り裂き、メルフィナは宣言した。
「あなた方の魔法はこの旦那さまの神器がある限り、通じません! 大人しく降伏するなら、あなた方にこのお菓子を差し上げましょう!」
この紋所がーっ! といった感じにメルフィナは帝国兵にパリピーターンの袋を見せつける。圧倒的な力の差を見せられた指揮官を含む帝国兵は膝をついてうなだれた。
「降伏する……」
帝国兵はロッドやスタッフを地に起き、帝国兵は恭順の意を示していた……。
捕虜たちを引き連れ、王都へ帰還する途中にメルフィナは訊ねてくる。
「どうして、帝国兵は兵站を無視して、王国内部にまで侵攻してきたんでしょうか?」
「うん、俺はフレッド殿下にお願いをしていたんだ。パリピーターンを補給物資に混ぜる割合を、ね」
俺は確率変動を用いた。
ギャンブルやガチャがその典型例だろう。
「少ないときは一袋、多いときは十箱と補給部隊に渡す量を調整することで彼らは多い補給部隊を見つけることに躍起になって冷静さをどんどん欠いていったんだ」
「なるほど! それにこの後引く美味しさとくれば、彼らがはまってしまうのも納得です」
俺の解説に耳を傾け、勝利のパリピーターンとばかりに、カリカリと美味しそうに食べるメルフィナだった。
――――寝室。
メルフィナと勝利を祝う仲好しを終えたあとのことだった。
「ううん……メルフィナぁぁ……」
寝返りを打つとふくよかなたわわに俺の顔が埋もれた。マシュマロのように柔らかく、いつまでもこうしていたいと思える。
だが寝落ちする前は右にいたはずのメルフィナだったのにいつの間に移動したんだろう?
おっぱいの温もりから離れたくなかった俺は後ろに肩が外れそうになりながらも、手で右側に広がる空間を探った。
ふにっ、ふにっ。
俺が顔をうずめているおっぱいに勝るとも劣らない、もちもちプルルンとした感触が手に伝わる。
その直後。
サーッと俺の全身から血の気が引いてゆくのが分かった。
ころりんとまた寝返りを打つとやわらかくて温かな素晴らしい感触に包まれた。
「マーベラス!」
俺がおっぱいソムリエなら、違いを事細かに述べるところであるが、ただの素人なので、どちらもありでみんな違ってみんな良いとしか言いようがない。
ゆっくりと現実逃避したい思いをかなぐり捨てて、瞼を開けるとスーパーモデルや女優が霞んでしまうくらい美しいメルフィナの尊顔がある。
腕を耳元に寄せ、すやすやと眠る彼女はあまりにも天使すぎた。
覚悟を決め、恐る恐る左に寝返りを打つ。
どうせジュリやセルフィーヌが寒いだか、なんだか理屈をこねて同衾してきたんだろう、とか振り向く前までは思っていた。
「なっ!? なんで日影さんが……」
「お、おはよう……ございまーす……」
叫びそうになったが口を手で押さえ、声を殺す。俺の左隣で横寝していたのは日影さんで、いつも目元を覆っていた簾のような前髪は重力に従い垂れており、美少女の片目だけが俺を見つめていた。
「わ……分かります……メルフィナさんは……現地妻ですよね。いいんです……刀哉さまほどの英雄には……一人の伴侶では……足りないから……」
現地妻って……。
「大丈夫です……我が家の家訓では生は浮気に入りますが……ゴムなどの膜があれば……浮気には……なりません!」
なるよっ!!!
マイルールならぬ、マイホームルールを持ち出されて、ただただ戸惑う。
「刀哉さまとメルフィナさんの男女の営みを生で……しかも間近で見るのは……とてもとても……興奮しました!」
はあ、はあ……と熱い吐息を吹きかけ、日影さんは俺の腕を掴んで、その胸元に導こうとしていた。
―――――――――あとがき――――――――――
地味子が本気出したら、マジヤバいwww
やはり仲好し不可避か!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます