第73話 処女には負けません

 俺はメルフィナに秘策を伝えると言ったが、すでにその下地は完成済みである。


 現代にメルフィナが来たときに俺は彼女とゲームをしていた。


 ドンドン、ドドン、カッ♪


 システムの概要を理解しないとできないゲームが多い中、感覚でできるゲームと言えばこれしかない。買い出しの途中、息抜きがてら寄ったゲーセンで置いてあった筐体。


【太鼓の鉄人】


 筐体のモニターに目まぐるしく映るキャラクターや背景に目移りしていたメルフィナだったが、太鼓を模したアナログ過ぎる筐体に興味を持っていそうだったので声をかけた。


『メルフィナは太鼓……というかドラムは叩いたりしたことあるよね?』

『それがないんです……、鼓笛隊や宮廷楽士の人たちが楽しそうに叩いているところは見たことあるんですが……』


 一生懸命に練習に打ち込む彼らを見て、メルフィナは叩かせて、なんて軽々しい言葉をかけられなかったようだ。


 俺も彼女と似たような体験がある。高校の頃、吹奏楽部の子たちが顧問の先生に叱咤されながら、それぞれの受け持つ楽器の練習にまるで高校生活のすべてを捧げているかのような姿勢の前にたじろいだ。


 そんな彼らの姿勢を見て、俺は刺激を受け、より刀を打つことにのめり込んだ。


【コンプリートだドン!】


 そんなことを思っているとメルフィナはかんたんレベルを難なくクリアしていた。


『覚えてきたね。よし! それじゃ、俺と対戦してみる?』

『わわわわ! 旦那さまと対戦だなんて……』


 俺から顔を背け不安そうにするメルフィナだった。それも仕方ないことだろう、異世界で初めて触れるゲームなるものに不安を覚えるのも……。


 彼女の不安が解消するまで俺は見守っていた。


 ドン、カッ、ドン、カッ、ドンカッカッ♪


 十五分ほどプレイしていたメルフィナだったが、ようやく納得したようで俺と対戦を始めた。


【メルフィナドンの勝ちだドン!】 


『……』

『ご、こめんなさい……旦那さまに勝ってしまうなんて……』

『いや、いいんだよ。それにしてもメルフィナは太鼓を叩く才能がありすぎないか?』


 俺も修行の一環として師匠に叩き込まれたが、それなりに上手くなったつもりでいた。だが初見で激鬼レベルをクリアする化け物には勝てなかったよ……。


 師匠以外で俺に黒星をつけたのはメルフィナが初めてだった。



 というくらい二つのバチを操ることに長けたメルフィナなら二刀を操ることなど、朝飯前だろう。師匠が俺に太鼓の鉄人をしきりにやらせたのはリズムよく二刀を操れるようにとのことだったからだ。


 俺の無銘をメルフィナに差し出した。


「旦那さま……これは……?」


 メルフィナはきょとんとした顔で俺を見てくる。すでにメルフィナは帯刀しているのに、さらに俺の太刀を渡されたら戸惑うのも無理はない。


「二本の太刀を使って、ゼルと戦えばいい」

「そんなことができるのですか!?」

「メルフィナのリズム感と臂力ひりきがあれば、可能だと思う。むしろそれがないと扱えない」


 メルフィナはいくらなんでも無茶振りだろうたいった表情でこちらを見てくる。確かにそうかもしれないが、俺もそんな無茶振りを師匠からされていた。


 まさか誰が太鼓の鉄人が二刀流を扱うための修行だと思うんだろうか?


 エキセントリックすぎる師匠ではあったが、なぜか俺はそれで二刀流をマスターしてしまっていた。


「俺以上に才能を持っているメルフィナに扱えないはずがないよ。信じてる、メルフィナが勝つことを……」

「はい! 必ず勝利を旦那さまに捧げたいと思います!」


 力強い言葉を言ったメルフィナだったが、足取りを見ても動きがやや硬い。冗談で彼女を和ますために、俺は両手を広げてみたら……、


「旦那さま!」


 遠距離恋愛で久しぶりに会えたカップルのように、メルフィナは俺に抱きついてきた。


「本当はゼルに負けるのが怖かったんです。彼女に負けて、旦那さまの心が離れることが……」

「離れることなんてないよ。俺とメルフィナは離れてもいっしょでしょ?」

「はい!!!」


 俺とメルフィナが抱き合っていると、ゴゴゴゴッと不穏な空気が流れてくる。


「早くしろっ! いつまで待たせる気だっ!!! うらやま……男にうつつを抜かす貴様を完膚なきまでに叩き潰してやる!」

「見てたんですか? 恥ずかしい……」


 ゼル姉さんが歯ぎしりしながら震えていたが、メルフィナは俺たちのイチャつきが見られていたことに羞恥を覚えていた。


 なんかメルフィナ、メチャクチャ煽ってないか?



「団長負けるなーーー!」

「ブリビン帝国の将軍なんて目じゃねえ!」


 騎士団員が見守る中、決闘のときを迎える。


「うるさい雑魚どもね! 黙りなさい!」


 ゼル姉さんが騎士団員をひと睨みすると沈黙のデバフがかかってしまったのかと思うほど、訓練場は静まり返ってしまった。


 審判を務めるアンドレアが対峙するメルフィナとゼル姉さんに声をかけた。


「始めっ!!」


 魔剣を抜いて構えたゼル姉さんは余裕の笑みを浮かべていた。


「メルフィナ! 貴様の愛する男が打ち直したレーウァテイン改の錆になるとは笑えて仕方ないな。貴様につけられたこの疵が疼いて……って!?」


 だがメルフィナはガン無視で二刀を抜き放ちながら、ゼル姉さんに襲いかかる。


 速い!!!


 風の精霊魔法を使い、超加速したのだろう。


「ちょちょ、ちょっ! ま、待ちなさいよ! 二つの武器で攻めてくるなんて、卑怯者のすることよ!」


 レーウァテイン改を得たことでヌルゲーだと思っていたゼル姉さんは慌ててメルフィナの斬撃を受けたものの、じりじりと後退してゆく。


 ゼル姉さんがメルフィナを卑怯者呼ばわりするのも仕方ないことだった。メルフィナに拠ると剣と盾を持つ騎士や両手剣ツヴァイハンダーを持つ騎士は多いが、二刀という攻撃力全振りの騎士は存在しないらしい。


「エルエスタ・パロ・バイ……くっ!!!」


 ガッキーーーン!


「撃たせませんから!」


 炎系の魔法を詠唱しようとしたゼル姉さんだったがメルフィナの連撃により、詠唱が完遂できない。


 対抗手段なんて簡単なことだった。


 ひたすら攻め立て、魔法を撃たせる余裕をなくさせてしまえばいい。


 一本なら捌けても二本だったら、みたいに小学生、いや幼稚園児でも思いつきそうな発想ではあるがメルフィナの図抜けた才能が合わされば、無双状態になっている。


「おのれーーーっ!!!」


 ゼル姉さんは起死回生とばかりにレーウァテイン改で全力でメルフィナの脳天を割るつもりで斬撃をしかけた。


 その瞬間カーン! と甲高い音が訓練場に響いて、くるくると武器が宙を舞っていた。武器は石畳に突き刺さってしまう。メルフィナがゼル姉さんに太刀の切っ先を向けたところでアンドレアが宣言する。


「勝者、メルフィナ!」

「くっ……」


 ゼル姉さんは片膝をついて、うなだれた。俺が手に汗握る決闘に興奮しているときだった。石畳に刺さったレーウァテイン改を引き抜いたセルフィーヌがいる。


 まさかセルフィーヌの奴、レーウァテイン改を使って……。


 警戒を怠ったことを悔いようと思ったら……、セルフィーヌは意外な行動に出た。


「だっさ。ゼルは男を知らないから負けたのよ。メルフィナの充実した顔を見てみなさいよ、『昨晩はお楽しみでした~!』みたいに余裕ぶっこかれてたのにね」

「なんだと!? 男と寝ると強くなれるのか!?」


 セルフィーヌの奴、また嘘からを!!!


「メルフィナ! 卑怯だぞ! その男とイチャイチャさせろ! 条件を揃えなければ勝負にならんではないか!!!」

「旦那さまは絶対に渡しませんからっ!」

「いや貴様から奪う気はない」


「えっ!?」

「私の処女を奪ってもらうだけだ!」

「同じことですっ!」


 ゼル姉さんは俺に迫ってきたがメルフィナが彼女の腕を引っ張り、俺から引き剥がそうと必死だった。


―――――――――あとがき――――――――――

マジか……。

コトブキヤがテレ朝の関連会社になってしまうなんて……。

口は出さずにお金だけ出してくれたら、最高なんですけど、どうやることやら……。


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