第72話 決闘

――――銀狐騎士団の訓練場。


 ゼル姉さんの手枷がアンドレアによって解かれた。


「やっと自由になったわ。ホント恐ろしい人たちね。正直王国を舐めてたけど、ここまでするなんて思わなかった……」


 彼女はアンドレアに敗戦の弁を恨み節で語っていたが、パリピーターン漬けにされ、クローディス王国の傀儡となったことが確認されたため、解放されたのだ。


「レーヴァテインリビルドだ。次は折るなよ」

「あ、ありがとう……」


 ゼル姉さんに俺は打ち直した魔剣を渡した。それまで悪態をついていたゼル姉さんだったが、魔剣を受け取った彼女は上目づかいで俺を見てきて恥ずかしそうにしている。


 ゼル姉さんはビキニアーマーという格好が格好だけにエキセントリックで取っつきにくい人かと思ったけど、残念なところを含めてかわいげがある。


 彼女に手渡す前にセルフィーヌに暴走した魔剣について訊ねていたが……。


『あり得ないわよ! いくら魔剣レーヴァテインでもあんな威力のある魔法を撃ったところなんて見たことないから!』


 とのことらしい。


 率直に言って、俺は魔剣を強くしすぎてしまった。しかもメルフィナの対戦相手の得物を、だ。すり替えようとも考えたが、それでは正々堂々を旨とするメルフィナは許さないだろうし、ゼル姉さんもすぐにすり替えたことぐらい分かるというもの。


 形はぜんぜん違うが奇しくも鬼切丸と薄緑のような兄弟刀みたいな関係になってしまうなんて……。


 鞘からレーヴァテイン改を抜いたゼル姉さんは魔剣を掲げるようにして、観察していた。


「まさか本当に汚名返上の機会を与えてくれるとはな。おまけにレーヴァテインまで打ち直してくれるとは……。クローディス王国の騎士道精神には心より感謝する」


 ゼル姉さんがクローディス王国に協力する条件はメルフィナとの再戦だった。


「決めた。私がメルフィナとの勝負に勝てば、その男をもらう! 万が一にもメルフィナが勝つような奇跡が起これば、私はメルフィナの奴隷にでもなんにでもなってやる!」

「なんですって!?」


 掲げたレーヴァテイン改の切っ先をメルフィナに向け、ゼル姉さんは高らかに宣言してしまう。


「そんな提案飲めるわけがありません! たとえ私が奴隷になろうとも絶対に旦那さまは渡しませんから!」


 メルフィナは今にもゼル姉さんに掴みかかろうとするくらい強い口調で彼女の提案を拒絶したのだが……。


 ん?


 メルフィナが仮にゼル姉さんの奴隷になってしまうといったいどうなるんだ?


「では私は協力せん。貴様たちで勝手にすればいい。このままクローディス王国が滅びようとも私には一切関係ないのだからなぁ! ははははっ」


 ゼル姉さんは腰に手を当てながら顎を上げ、メルフィナを見下すような姿勢で高笑いしている。


「ぐぬぬぬ……」


 強く歯噛みしているメルフィナ。安っぽい挑発に乗る彼女ではないが、国家と俺を天秤にかけられて困っているのかも。


「な~んて、嘘です。私は旦那さまを選びます。後任はアンドリューが立派に務めてくれることでしょう。それでは永遠にさようなら、ゼル」


 そうゼル姉さんに告げるとメルフィナは俺と腕組みして踵を返してしまう。勢い的にはいまから駆け落ちします、といった雰囲気だ。


 勝負する前から勝ち誇ったようなゼル姉さんだったが、メルフィナの意外な行動に慌てた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ! 国家の犬じゃなかった、国家の狐と呼ばれた貴様が国を捨てて男を取るなどあり得ない! 冗談だろ? なあ、冗談だと言ってくれ……」


 国家の狐だと……なんか裏切りそうなイメージなんだが、まあそれは置いておこう。


 踵を返してしまったメルフィナのマントに涙ながらにすがりついたゼル姉さん……。


「仕方ありません。私とゼルの仲です。勝った方が負けた方を隷属させる。それなら勝負を受けましょう!」

「ほ、ホントか!? そ、それなら受けてくれるのか?」


「ええ、もちろん! ただし、旦那さまは私の婚約者ですから、絶対に譲りませんけどね」

「わ、分かった……。トウヤのことは残念だが今回は諦めざるを得ん」


 やっぱり狐で合ってるかもしれない。脳筋ぎみのゼル姉さんをまんまと言いくるめ、自分に有利な条件にしてしまったのだから……。


 とは言え、メルフィナが鬼に金棒、ビキニアーマーにレーヴァテイン改という組み合わせだと苦戦することは必至。


「メルフィナ、ごめん……。剣を打てるよろこびが勝ってしまって、ゼルの魔剣を夢中で打ち直したら、相当できが良かったみたいで……。だから、今日のゼルは街道で戦ったときより遥かに強いと思う。気をつけて!」 


 メルフィナは俺と額を合わせ、告げる。


「私たちの身体が離れても、私の心は旦那さまと共にあります」


 彼女は聖女のように一点の曇りのない清らかな心に至っており、これから強者との闘いをまったく恐れていない。だがメルフィナはお腹に手を当てて、とんでもないことを言い出した。


「旦那さまからいただいた子種がしっかりと私の中に宿っていますから……」


 ぶふっ!?


 俺は思わず吹き出した。


 聖女どころか、性女だったよ……。


「ゼルに勝ったら、もちろんご褒美くださいますよね?」

「あ、うん……」

「では彼女を隷属させ、あのビキニアーマーを獲得しようと思います!」


「えっ!? メルフィナ? それって……」

「ゼルは旦那さまを誘惑する悪い女の子です。でもそれもこれもビキニアーマーが悪いのです。彼女から取り上げ、私が身につければ旦那さまと熱い夜が……」


 俺がちらちらとゼル姉さんのビキニアーマーを見て欲情していたことはすべてバレてしまっていた。言い訳をするとメルフィナが着てくれたら、どうなるんだろうな? と思っていたのは間違いない。


 どちらにせよ、メルフィナに勝ってもらいたい俺は彼女に秘策を伝えることにした。


―――――――――あとがき――――――――――

くっ、プラモ売り場を回るもっ、なんの成果も!! 得られませんでした!!

こうなったら転売ヤーの抱えた珠玉の在庫が不人気シリーズに替わる呪いでもかけてやりたい! プラモ売り場を占拠してるアレとかコレとかソレとか……。

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