第67話 はめられた婚約者

――――【メルフィナ目線】


「ぷっ!」


 私をライバル視するゼル・ブリックの姿を見て、吹き出そうになりました。旦那さまのおかげでクローディス王国は確固たる戦術を見いだすことができたのです。


「うーっ! うーっ!」


 アンドレアにより口いっぱいにパリピーターンを詰め込まれ、もごもご言っていたので、おかしくて仕方ありません。


「ホント、メルフィナの婚約者は恐ろしい子……」

「旦那さまは恐ろしくなんてないよ。むしろスゴくやさしいんだから!」


「それよ、それ。やさしい顔して帝国の四魔将をサキュバス由来の媚薬付けのようにしちゃうんだから」


 うっ!?


 図星です。アンドレアの言う通り、いつの間にか旦那さまの周りには女の子がたくさん! それだけならまだしも美女、美少女揃い……。


 いつ旦那さまを寝取られてもおかしくありません!!!


 セルフィーヌなんて、あまり旦那さまに興味なさそうに見えて、工房に戻ってきたら二人でベッドインしてるってこともあり得ます!


「私、帰る!」

「帰るって、メルフィナ。この子はどうするの? あと少しで薬付け……じゃなかったお菓子付けが完了するっていうのに」


 急いで帰ろうとする私をアンドレアが腕を掴んで引き止めた。彼女は私に牢獄を見せる。さっきまでゼルの囗いっぱいに詰め込まれていたパリピーターンはなくなっていて、ゼルは鉄格子を掴んでアンドレアに訴えた!


「おい、拷問官! すべて話すから……そいつをくれ……」

「本当に話してくれる?」


 アンドレアがゼルに訊ねるとゼルはえっちな胸を張って答えた。


「帝国の将軍は嘘をつかない!」

「もうついてるから……」


 私がぼそりとつぶやくとゼルは……。


「私がいつ嘘をついたというのだ! 私は貴様に勝つまでこの顔の疵は消すまいと思い、努力を重ね帝国四魔将まで昇りつめた。ここはどちらが嘘をついているか決着をつけようではないか!」

「私にはゼルと勝負する理由なんてないから!」


「ああん? 勝ち逃げするつもりか? 私が本気を出せばあの男の作った武器などおもちゃにすぎないんだからなぁ!!! はっはっはっ!!!」


「私のことは馬鹿にしてもいいですが、旦那さまのことを侮辱するのは許せません。足腰立てなくさせてあげます。泣いて許しを請うても、もう遅いですから!」


「ちょっとメルフィナ! あなた、敵将の術中に完全にはまってない?」

「はっ!?」


「あははははっ! やっぱりメルフィナはチョロいわね! でも今から前言撤回なんて恥ずかしい真似は誇り高きクローディス王国の騎士さまはしないわよねぇ!」


 アンドレアの指摘に気づいたときにはもう遅く、ゼルは顎を上げ、私を見下すようにニヤニヤと笑っていたのです。



――――【刀哉目線】


「凄い……トウヤは鍛冶の神に愛されている」

「そんな大げさだって!」


 ゼル姉さんの魔剣レーヴァテインが復活した。俺は勝手に心の中で姉さんと呼んでるが、彼女の醸し出す色気からの雰囲気だけで、セルフィーヌによると俺よりずっと若く二十歳そこそこらしい。


 ジュリは俺を推しのアイドルかって感じの羨望の目で見ていたが、恥ずかしいったらありゃしない。それに教えてくれたのはジュリや鍛冶ギルドのみんななのだから。


「依頼主に訊いてみないと分かんないけど、ちゃんと再現できてる?」


 一応気になってジュリに訊ねてみる。


 実はスマホと予備バッテリーを持ち込んで、折れた剣を撮影していたので、撮った画像をその都度確認しながら作業はしていた。表面上の形はほぼ再現できたとは思う。


 ブレイド剣身の根元から切っ先の直近まである幅広のフラー、その中に刻まれたルーン文字。ヒルトの拵えはジュリに頼んだ。


「私が見る限り本物だと思う。依頼主が文句言ったら私がハンマーで何も言えなくさせてあげる」

「うん、ありがとう、ジュリ。だけど無闇矢鱈にお客さまを叩いたら、ダメだからね」


 やや言葉足らずだけど聡明なジュリならそんなことしないと思うが……。ゼル姉さんはそこそこポンコツだからボタンの掛け違い次第で重大インシデント偶発的事件が起こらないとは断言できない。



 いくら敵将の剣だったとはいえ様々な知見を得て、打ち上げられたことがうれしい!


 ルンルン気分で仕上げの研ぎをしていると外からすすり泣くような声がしたかと思ったら、メルフィナがドアの前に立っていた。


「旦那しゃまぁぁぁ……く、くやしいですぅぅ……」

「ど、どうしたの?」


 俺がゼル姉さんの剣を置いて、立ち上がるとメルフィナが抱きついてきた。号泣している彼女の髪を撫でてあやしていると、彼女はとんでもないことを言ってきた。


「ゼルと再戦することになってしまったんですぅぅ……あの子が旦那さまのことを馬鹿にするからぁぁ……」


「そうなのか……ありがとう、メルフィナ。俺は人から馬鹿にされてもメルフィナが俺のことを認めてくれてるから大丈夫だよ」

「あううう! 旦那さま、好きぃぃ……大好きれすぅぅ……」


 メルフィナが俺の言葉に感動したのか、さらに号泣してしまう。


「メルフィナさま、それってこの剣の依頼主? だったら今すぐ折ってやるから。馬鹿にする奴に渡せない」

「あああああーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 それで済めば良かったのだが、メルフィナから伝え聞いたジュリは研いでる途中のゼル姉さんの剣に向かって、ハンマーを振り下ろしていた……。


―――――――――あとがき――――――――――

今日はお休みだったので地方のガンプラの聖地まで行ってきました。が……、お目当てのMGがほとんどなくて……。私も泣きました、うわわわわーん。

作者の悲劇は置いておいて、次回は刀哉の太刀VS刀哉の魔剣です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る