第65話 折れた魔剣

 突然斬りかかってきたえっちなお姉さんに俺はしり餅をついているにも拘らず、起立してしまっていた。


 いかん!


 俺にはメルフィナという人がいるというのに。


 誰にも悟られないように前屈みで立ち上がる。そうだ、レスリングのように腰を落として前屈みになれば分かるまい!


「だ、旦那っ!? 申し訳ありませんっ! 私が突き飛ばしたばっかりにお怪我が再発するなんて……」

「あ、うん……痛くはないから大丈夫……」


 メルフィナに速攻でバレた……。


 それもこれも、ぜんぶビキニアーマーなんて破廉恥な装備しているお姉さんが悪いんだ。


「あうっ……あうっ……陛下からぁぁ! 賜ったぁぁ……魔剣レーヴァティンがぁぁぁっ!!!」


 そんないけないお姉さんは剣がメルフィナに斬り折られたことで、四つん這いになっている。真っ二つになった剣をじっと見つめて慟哭と呼ぶに相応しいほどギャン泣きしていた。


 お姉さんの襲撃で「ゼル将軍っ!!!」とゾンビみたいに生気を失っていた兵士たちが叫び、反乱が始まるのかと不穏な空気が流れたが、慟哭する彼女を見て彼らは意気消沈してしまう。


「観念してください。無駄な抵抗をしなければ、クローディス王国はあなたを捕虜として丁重にもてなします。ですが抵抗した場合はその限りではありせん」


 メルフィナは切っ先をビキニアーマーのお姉さんに突きつけ、通告していた。


「それで私に勝ったつもりかっ!? 腐っても私はブリビン帝国四魔将!!! 剣が折れても……剣が折れても……あうう……っ!」


 お姉さんは目に涙を浮かべながらも、メルフィナを鋭い目つきで睨む。だが剣の柄を取ろうとして、折れていたことを思い出し、また泣いていた。


 そこにまた事態をややこしくさせる人物が現れた。


「誰かと思ったら、ゼルじゃん! だっさ! 青二才のメルフィナにぼこられてるとか、ウケる!」


 泣きっ面に蜂とでも言ったらいいんだろうか? 明らかに傷心のお姉さんにセルフィーヌが腹を抱えて爆笑し、傷口にがっつり塩を塗りつけてきた。


「知り合いなのか?」

「知り合いもなにも同僚だから! いーっつも私がこいつの尻拭いをさせられてんの。嫌になっちゃう!」


「なっ!? それはこっちのセリフだ! 私は行方不明になった貴様をわざわざ捜しにきてやったというのに、この恩知らず!」


 売り言葉に買い言葉、お姉さんとセルフィーヌは口汚い言い争いを始めていた。お姉さんはさっきまで泣いていたのが嘘のよう。


「まあ、二人とも落ち着いて……。セルフィーヌもあまり人の失敗を馬鹿にしちゃダメだって」


「だってこいつ、私のことBBA呼ばわりするのよ、こういうときにこそ、きっちりと立場ってもんを分からせてやんなきゃね!」


「き、貴様こそ、どうなんだ! メルフィナと同行しているということは、どうせこてんぱんに負けて捕虜になったんだろう。だからダークエルフなど頼りにならないと陛下に進言したと言うのに……」


 二人の言い争いは当分収まりそうにもないので、俺は折れたお姉さんの剣をメルフィナと共に見る。


「有名な剣なの?」

「はい、炎の神が作り鍛え、神々の終末戦争が起こった際に世界を焼き払ったと言われています」


 俺の知ってるレーヴァティンとこちらの世界のレーヴァティンが同じものなのか分からない。ただメルフィナの言うことを聞く限り、俺たちの世界の神話に似ているような気はする。


 う~ん……。


「その割りに脆くない? 俺の打った太刀に神が打った魔剣が負けるとか」

「旦那さまの作刀は神を超えられているのです!」

「さすがにそれはないよ……」


 キラキラした瞳で俺を見てきて、メルフィナは俺を持ち上げてくるが、俺程度の刀鍛冶に神越えの技量があるなんておこがましいにもほどがある。


「まさか貴様がトウヤ・イセというのかっ!?」

「違うな。俺はアキラ・カンザキだ」

「「えっ!?」」


 メルフィナとセルフィーヌが俺の出任せに驚き、一斉に俺を見た。


「俺はただの刀剣売りにすぎない。ゼル将軍には悪いがそちらの魔剣は直せそうにないな」


 最近の俺には女難の相があるように思えてならない。ここでお姉さんが俺に魔剣を打ち直して欲しいとか言われると碌なことにならないのは目に見えている。


 ただ不思議な素材でできていそうで、持ち帰って調べ尽くしたい気持ちはあった。その気持ちをぐっとこらえているとお姉さんが俺を罵ってくる。


「ふん、貴様からはただならぬ技量を持つ職人だと感じたのだが、とんだ腰抜けのようだ。折った詫びを入れれば打ち直しさせてやる許可を出そうと思っていたのに!」


 おふう……。


 なかなかの上から目線でビビる。


 ほぼ捕虜確定な状態で俺にお願いするどころか、修理させてやるときたもんだ。いや俺も偉そうにしたいわけじゃないんだが、やっぱりそれなりに気づかってもらいたいなぁ、ぐらいの気持ちはある。


「ゼルって馬鹿なの? トウヤがそんなことするわけないじゃん! さっさと諦めて、その折れたク○魔剣を棄ててきなよ」


 ……。


 せっかく俺が身バレしないよう、あきらを騙っていたのにセルフィーヌはあっさりバラしてしまう。


 俺の努力を返してほしいとか思っているとお姉さんは俺に怒りをぶちまけてきた。


「やっぱり貴様がトウヤじゃないか、嘘を言うなど私を愚弄する気だったんだな!」

「待ってください! 旦那さまは忙しいんです。どうでもいいと仕事が増えたら……」


「増えたら?」

「私が愛でてもらえなくなります!」

「「「は?」」」


 メルフィナはメルフィナでただのろけているだけだった。


「ただとは言わん……」


 そう言うと、お姉さんは俺を手招きして告げる。するとお姉さんは俺の耳元で囁いた。


「直してくれるなら、このビキニアーマーを貴様に進呈してやってもいい」

「なんだと!?」


 俺は全身に電流か身体中を駆け巡っていた。


―――――――――あとがき――――――――――

作者……ロリ好きって訳ではないんですが……勝てなかったよ……ブキヤさんがロリの美プラを出してくるなんて聞いてないよ……。

思わずポチってしまいました……。作者はダメな大人です。

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