第64話 クロカス作戦

――――回想。


 俺はクローディス王国を出る前にメルフィナと話し合っていた。


『メルフィナ……俺はこの世界で後世まで語り告がれる大悪党になってしまうかもしれない』

『旦那さま……それってどういうことなのですか!?』

『俺は英国面に堕ちてやる!』


『英国面? 暗黒面ではなく?』


 うんうんとメルフィナの問いに俺は頷く。メルフィナは現代に来たときに動画配信サービスでプラネットウォーズにどハマりしていており、彼女は暗黒卿の不幸な境遇に肩入れしている節がある。


『うん……俺たちの世界ではかつて世界の半分は満たないまでも三分の一以上を支配した国があったんだ。その国は獅子と呼ばれた国にヤバい薬を売るようになった』


『ヤバい薬ですか? もしかしてあのお菓子の粉でしょうか?』

『あ、いや……それではないんだけど……』


『だったら大丈夫です! あのお菓子はみんなをしあわせにしてくれますから! あのセルフィーヌさんが旦那さまに服従しちゃうくらいなんですよ』


 俺たちがテーブルで話している傍らで、ソファーに寝転び、すっかり俺の工房でニート化したセルフィーヌが声をかけてくる。


『トウヤぁぁ……パリピーターンまだぁぁ? あれないと私……おかしくなっちゃう……』


 本当に無害なんだろうか? 禁断症状のでかかったセルフィーヌを見て、なんだか疑わしくなってきた。まさか異世界人にはヤバい薬と同等の効果があるとか……。


 だがもう賽は投げられ、大量に運ばれてくるパリピーターンの在庫に踏みとどまれるものじゃなかった。


 後世にクローディス王国はクロカスと呼ばれ、フレッド殿下は腹黒王子と渾名され、俺は王子を唆した大悪党となってしまうかもしれない。


 だが両国の被害を最小限に食い止めるには斬り合いよりも、魔法を打ち合うよりもこちらの作戦の方が都合が良かった。


『ほら、セルフィーヌ……お食べ』

『うにゅ~、おいちぃぃ……』


 包装のビニールを剥いて、彼女に与えるとパリピーターンを舐め、粉を味わう。その姿は猫にそっくりでチュールを与えたように恍惚とした表情へと変わり、ソファでごろごろとしあわせそうにしている。


 王宮に会議で呼ばれた際、クローディス王国の重臣たちはセルフィーヌが目の前にいることを知って恐れ慄いていたが、この通り俺の前では借りてきた猫同然になってしまっている。


 これなら敵の将兵はおろか、王侯貴族……果ては一般市民までも骨抜きにできるだろう……。



 眼前に広がる光景を見て、思わず回想が巡っていたがメルフィナたちが作戦に成功していたことを知る。


「菓子ぃぃ……」

「菓子くれぇ……」

「せめて粉だけでもくれぇぇ……」


 俺は王都まで急いでいる道中に遭遇した。ゾンビみたいに両手をぶら下げ、前屈みになり行進する捕虜らしき兵士たち。


 その周りにはクローディス王国の騎士がおり……って、銀狐騎士団っ!?


 白いマントの裾付近にシルバーのストライプが入っていたので間違いない。


「お~い! みんな~!」

「おおっ! トウヤさまだ!」

「メルフィナはいる?」

「団長なら先頭にいますよ」


 最後尾にアンドリューもいるみたいだし、閲兵式で見た顔もちらほらあったので森の木陰から抜け出し彼らに声をかけた。ホルヘ派のように偽装ということもありうるので、そこは慎重にならざるを得ない。


「旦那さまーーーーーーーーっ!!!」


 騎士たちと軽く会話を交わしていたら、俺が先頭に向かうまでもなくメルフィナが駆けてこちらに寄ってきた。


「おーい! メル……」


 数々の廃課金者を生んだFGOフェイクグレートオーダーのアーサーのように凛々しい騎士の甲冑とマントを身につけたメルフィナは俺に抱きついた。


 その重厚な姿から思わず身構えたが拍子抜けするくらいメルフィナは軽く感じられた。


「申し訳ありません……部下たちの面前でこのようなことをしてしまって……。旦那さまと離れる際はつらくないと強がってしまいました。でも旦那さまと離れた日々がつらく、一日が千日にも万日にも思えたのです……」


 メルフィナは凛々しい騎士団々長の顔はどこへやら、ぼろぼろとあふれる涙で美しい顔を濡らしてしまっていた。


「俺もメルフィナと分かれて寂しかったよ。でもこうやってまた逢えた。いまはそのよろこびを分かち合おうね」

「はい!」


 ん~。


 俺がメルフィナのまぶたに溜まった滴を拭うと、彼女はいつものように素直なで元気な返事する。それだけに止まらず、彼女は目を閉じ軽く顎を上げていた。


 (キシュしれ、くらはい……)と彼女の心の声を感じてしまう。


 だがそのときただった!


「メルフィナ・フォルトナスーーーーーーッ!!! 私の前でいい男と乳繰り合いおって!!! その愚行、万死に値するっ!!!」


 突然声がしたかと思ったら、メルフィナは俺をトンと突き飛ばして、抜刀する。俺がしり餅をつきながら声がした方を向くと木の上から女戦士が現れメルフィナに斬りつけていたのだ。


 素早い抜刀で女戦士の斬撃を受け止めたメルフィナ。それよりも俺はあることが気になって仕方ない。


 いや女戦士……なんちゅう格好してるんだよ!!!


 女戦士は赤いビキニアーマーをまとっていたからだ。


 異世界に来て、初めて見るビキニアーマー……。


 俺はあれは幻の存在かと思っていたが、ちゃんとこの異世界にも実在していたのだ。


 いやいやそんなことに目を奪われていてはいけない。メルフィナたちの様子を見てみると斬りつけてきたはずの女戦士の剣の様子がおかしい。


「そんな馬鹿な……魔剣レーヴァテインが打ち合いをしただけで折れるなんて……」


 太刀と剣が激突した際にピシッと音がして、そのまま剣の先端が飛んでいってしまったのだ。


「あなたは確か……ゼル! 剣鬼のゼルじゃない! なんであなたがここに……」


 襲ってきた女戦士とメルフィナの間になにか因縁浅からぬものを感じてしまった。


―――――――――あとがき――――――――――

やっぱねえ、ビキニアーマーしか勝たん。

防御を無視したかのような破廉恥スタイル!

そしてビキニと言えば、ポロリ……。

次話を刮目して待っていただけるとうれしいですw

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