第57話 このあといっぱい仲好しする予定

 メルフィナと鳥居を潜り、急な階段を登ってゆく。階段には苔が張り付き、人の出入りがかなり少ないことが分かる。


 どこも過疎化で管理する人が少なくなっているんだろう。


 鬱蒼とした森に囲まれた本殿と拝殿が一体となった祇園造りと呼ばれる小振りのお社があった。その横に目をやると手水舎に覆っていた屋根は朽ち、それらしき柱だけが残っていた。


 すでに水鉢の水はなく、当然水も流れていない。


「アラバラ・ノス・ユル!」


 試しに現代でも五人衆から習った魔法の詠唱をしてみたら……。



 ボンッ!



 氷の塊が水鉢の上に出現する。偶然頭上から巨大な雹が……と思い上を見上げたけど、そんな様子はまったくそんな気配はない。


「おいおい……使えちゃったよ……」

「スゴいです!!! 旦那さまはなんでもできるんですね!」

「あ……いやメルフィナもこっちで精霊魔法を使えてるだろ?」


「あはっ、そうでした」


 ぺろっと舌をだしておどけるメルフィナがかわいくて、魔法が使えたことより彼女の仕草を見れたことの方がうれしかった。


「エルエスタ・パロ・フォン」


 氷を炎で溶かして、クリエイトウォーター的なことをしたが、攻撃特化の魔法を習った都合で少し面倒だった。


 時間があったら、水を出す魔法も習わなくちゃな。


 氷の塊の真ん中が溶けて水溜まりができる。柄杓で掬うのがマナーだけど、柄杓はすでに朽ちてしまったんだろう、辺りを見回してもなかった。


 仕方なく水溜まりに直に手を入れたメルフィナ。そんな彼女に俺は訊ねる。


「冷たい? 熱くない?」


 やはり魔法を覚え立てだと温度調整が難しく、心配になってしまったのだ。


「はい、ちょうど良い温度ですよ。先に洗ってしまいますね」

「あ、うん」


 俺もメルフィナに続いて、水に手を浸すと意外に冷たくて、


「ひゃっ!?」


 女の子がびっくりしたような変な声が出てしまう。


「ごめん、まだ冷たかったね」

「大丈夫ですよ、おかげでこうやって手を温めあうことができるんですから」


 メルフィナは俺の手をハンカチで拭き、手を取ると重ね合わせてきた。じわりと伝わってくるメルフィナの手の温かみに変な気分になってしまいそう……。


 神さまが見てる、と思い自重したのだが、メルフィナはそうでなく頬を赤らめて、目を閉じていた。古びた神社だから誰も来ないのだろうけど、キスすらとてもいけないことをしているような気がしてくる。


 俺はいたたまれない気持ちでメルフィナをハグした。


「メルフィナ、ごめんね」

「こ、ここは精霊さんのお住まいですものね……仕方ないです……」

「う、うん……」

「でも帰ったら、仲好ししてください」


「あ、ああ……分かった!」


 俺がメルフィナに返事すると、彼女の顔は風邪でも引いてしまったように真っ赤になってしまった。ちなみに彼女の言う仲好しというのは男女の営みのことだ。


 アンドレアによるとメルフィナは騎士団にいるときは、フレンドリーではあるものの、女っ気を見せることはないらしい。


 だがお預けを食らった日は……。


 メルフィナがネグリジェ姿で俺に求めてくる映像が浮かんだ。


 いやここは神前だ、これ以上夜のことを考えると俺の下半身の引っ込みがつかなくなる。


 気を取り直し、お社の前に二人で立った。


「大丈夫? ここはクローディアとは違う神さまを祀ってるんだけど……」

「はい! 私は元々精霊信仰ですから」


 クローディス王国は女神クローディアを信仰する一神教だが、メルフィナやセルフィーヌのようなエルフたちは様々な精霊を信仰していると聞いていたのだけど。


 ちなみにダークエルフのセルフィーヌは魔族に近い精霊を信仰しているらしい。


「よし! ギリギリ入った」


 お賽銭箱の隙間になんとか入った金塊、クローディス王国の金塊がやや薄い作りで助かった。


「この紐を持って揺らすんだよ」

「はい!」


 ボロボロになりながらも残っていた鈴の紐をメルフィナと掴み、揺らすとカラカラと乾いた音が鳴る。


 俺が二回、頭を下げるとメルフィナもそれに倣い真似していた。


 パン! パン!


 二回柏手を打つ。


 いつも工房の神棚で行っている仕草を思いだしたのだろう、メルフィナは何も言わなくても違和感のない礼拝をしていた。


 お参りを済ますと木々の葉で被われ暗かったお社の周りに光が射してきて、キラキラと輝いてなんとも神々しい光景だった。


「精霊さんが旦那さまにありがとうと伝えてくれ、と言っています」


 俺にはメルフィナの言う精霊は見えなかったが、手のひらを上に向け、そこにいる精霊を見つめいるようだった。木陰から射した光で彼女の銀の髪が照らされ、幻想的な姿に思わず目を奪われ……、


「……」


 無言で彼女の姿をじっと見つめてしまっていた。


 森人とも称される彼女の種族……この光景を見ればすべての人がその命名に納得する事だと思う。


 誰にも見せたくないようなメルフィナだったけど。


 俺とメルフィナはこのあとも金塊がなくなるまで通り道の神社にお賽銭をして回る。


 のちに謎の金塊配りおじさんとして、ニュースやSNSで巷を賑わすなんて、このときはまったく思ってなかった……。


―――――――――あとがき――――――――――

仲好し……確かに間違ってはいませんよねw

対ブリビン帝国編が終わったあと、時間があればメルフィナとの夜の営みについて書こうかな? 書け~! とご要望の読者さまがいらっしゃいましたら、フォロー、ご評価をお忘れなくお願いいたします。

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