第56話 無自覚チート

 ふふふふふ、ふ~ん♪


 まだ俺が異世界にいるときのことだ。工房の火を一旦消して、掃除をしているとメルフィナが鼻歌を口ずさみながら箒をかけていた。


 ただの鼻歌なのに神々しいまでの美しさのメルフィナが口ずさむと天使が地上に降臨したのかとまで錯覚してしまう。


『ああ……こうやって旦那さまがお仕事をされている部屋をお掃除できるなんて、メルフィナは幸せ者です!』


 しかし、その天使さまはメイド服に着替えており、俺にご奉仕したい気まんまんのようだった。笑顔で煤けている工房内を掃く彼女に声をかけた。


『かわいい服が汚れてしまうよ。それにメルフィナは戦いで疲れてるのに……』


 昼間は騎士団を率い、侵入してきたブリビン帝国兵を見事撃退する活躍を見せているというのに、夜はこうやって俺のお手伝いをしてくれているのだ。


 まだ結婚こそしていないが、貞淑勤勉を絵に描いたような若妻のご奉仕に胸が打たれてしまう。


『いえ、全然疲れてなんかいませんよ。私は指揮するだけですので。旦那さまのタチのおかげで私達は本当に助かっているんです。旦那さまのタチはどんな魔法もひと斬りでバーンと打ち消しちゃうですから』


『それなら良かったよ。でもあまり無理はしないでね。ジュリたちも働いて……メルフィナっ!?』


 カタンと音がした。メルフィナが床を掃いていた箒を手放して、俺の背に抱きついてきていた。


『はい……旦那さまにたくさんご奉仕したいのに、ジュリは私よりも旦那さまに尽くしている……それが寂しいんです』

『もう十分すぎるくらいに俺はメルフィナに尽くしてもらっているよ』


『ありがとうございます、旦那さま……』


 腰をひねり、メルフィナの銀の髪をゆっくりと撫でると彼女は安らぎを覚えたようにすーっと静かな寝息を立てている。


 やっぱり疲れているんじゃないか。


 彼女を抱えベッドへ運ぶと、天使の寝顔に思わず恥ずかしさよりも愛おしさが勝り、頬に口づけをしていた。


(おやすみ、メルフィナ)


 心の中で彼女に挨拶し、工房に戻ってくるとメルフィナが掃いてくれた鉄くずから思い出したのだ。


 叔父さんのスクラップ工場なら金塊を現金に替えられるかもしれないと!


 何度もやると足がつきそうなので一度きりだが……。



 金が目が行くではないが、叔父さんは金塊に注目が行ってしまい、助手席で待っていたメルフィナを見過ごしていた。


 軽トラの助手席のドアが開くと、メルフィナがこちらに歩み寄り叔父さんを前にして、ぺこりと頭を下げている。


「と、と、刀哉ぁぁぁーーーーーっ!?」


 メルフィナを見た叔父さんはメルフィナを指差し、口を鯉のようにぱくぱくさせていた。


「叔父さん、言いたいことはだいたい分かるから……まあ落ち着いて聞いて」

「あうあう……」

「彼女はメルフィナ・フォルトナス。俺の……婚約者なんだ」


 そりゃ甥が女優顔負けの美少女を連れてきたら、そうなってもおかしくない。しかもメルフィナは西洋人のような顔立ちなのだから。


「ご紹介に預かりました、メルフィナです。よろしくお願いします」

「あ、ああ……刀哉の叔父の剣司です……」


 普段敬語なんて使わない叔父さんはメルフィナの神々しさに語尾が丁寧語に変わってしまっていた。


「刀哉、ちょっとこっち来い」


 徐々に平静を取り戻した叔父さんは俺の肩に腕を回してきて、反対を向く。


「なあ、あの子はどうしたんだよ」

「あの子?」

「おいおい、とぼけても無駄だぞ。あきらちゃんだよ!」


「あ、いやあきらとは、そんな関係じゃねえし。あいつはただの幼馴染だよ。それにあいつは……」

「あー……、らしいな。まだ捕まってないらしいが……自首して罪を償ってもらいたいもんだ」


 口が裂けても異世界で俺の近くにいるなんてこと言えるわけがない。


「じゃあ、あの若い子とはどうなったんだ?」

「優希のこと?」

「おうよ、中須賀の奴が言ってたぞ、刀哉が浮気して逃げられたってよぉ。なるほどなぁ、外人さんと浮気してたってことかぁ」


 中須賀の奴!


 俺がいない間に根も葉もない噂を流しやがって!


 俺は叔父さんの誤解を解こうとしたのだが……、


「叔父さん、違うからな。俺は優希と付き合ってないから。彼女は俺の工房で見習いしてただけだからな」

「ああん? 分かった分かった。若気の至りは誰にでもあるもんだ。気にすんな、ハッハッハッ!」


 叔父さんは俺の肩をポンポンと叩いて笑っていた。


 それにしても優希が今、なにしているのか、心配でならない……。



 図らずも親父の遺産とも言える現金を手にした俺とメルフィナは余った金塊の使い道に頭を悩ましていた。


「どうしよう……このまま持って帰るのもなんだし」


 このまま俺は、とある会社の工場に行きたいので荷台に金塊が積んであると支障を来す。


 はっきり言ってクローディス王国には一生遊んで暮らせるだけの金貨は持っている。王国がブリビン帝国に征服されてしまわなければ、という前提条件はつくんだけど……。


「では精霊さんたちに寄付するというのはどうでしょう?」

「それだ!」


 軽トラはちょうど神社の前に差し掛かっており、メルフィナは助手席でその神社の精霊と戯れているようだった。


―――――――――あとがき――――――――――

バンダイの美プラブランドの30msがついにやっちまいました。変態度マシマシの網タイツのレッグパーツを出すという暴挙をです。いいぞ、もっとやれ!!!

お紳士の仲間入りしたい作者も購入を試みようとしてるんですが転売ヤーどもに阻まれ、ぐぬぬしております。そんな作者を励ますためにフォロー、ご評価していただけますとありがたいです。

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