第53話 秘策

「団員たちの仇だぁぁぁーーーーー!!!」


 グラックス団長は気力を振り絞り、テーブルへ駆け上がるとそのままセルフィーヌに斬りかかろうとする。


「死にたいの? それに私……元四魔将って言ったじゃん。なんも聞いてないのね」


 周りにいた騎士たちが総手でグラックス団長を押さえていたが、一方のセルフィーヌは耳をかいたあと、ぷいっと団長から目を背けて謝罪や反省といった色は見せていない。


「グラックス団長……この子は俺の客人でして、ゆえあって預かることになりました。どうか剣を納めてください」


「我が子同然であった部下たちはそこにいる獄焔の魔女に惨たらしく殺されたのだ! いまこの恨みを晴らさねば、どこで……」


 グラックス団長は号泣し、剣を振り上げたままの姿勢を取っているその時だった。


「待て、グラックス! 貴公は私怨を取るのか、国家国民の利益を取るのか、答えろ」

「くっ……くぅ……あわぁぁぁぁ……、殿下ぁぁ……」


 フレッド殿下の通る声で詰問されたグラックス団長は剣をその手から離していた。周囲から安堵の息が漏れると彼を押さえていた拘束が解かれる。それと同時にグラックス団長は膝が折れ、泣き崩れてしまう。


 殿下は彼の肩に優しく触れ、手を取る。


「クローディス王国は未曽有の危機にある。亡き騎士たちの想いを無にしないことを私は貴公に誓おう」

「殿下ぁぁ……」


 主従の絆が固く結ばれた余所で噂を知る重臣たちはひそひそと驚きの声を漏らしていた。


「獄炎の魔女がいち職人の食客だと!?」

「ホンモノなのか!?」

「しかし、それが本当なら帝国と互角……いや勝利も……」

「待て待て! 真実かどうか疑わしい」


 それはそうだろう。


 俺みたいなどこの馬の骨とも分からない奴が王宮に出入りするだけでなく、国家の重要な会議に顔を出して、しかも敵将を懐柔したというのだから。


「はあ? 私のこと疑ってんの? だったら、相手になってあげるから、ここで……」

「止めておけって。ここで暴れたら、もうパリピーターンやんないぞ」


「えっ、えっ、ええええーーーーーっ!!! うそうそうそ!!! まさか本気で言ってないわよね? 冗談よね?」


 セルフィーヌは俺の服を掴んで狼狽し始めた。その様子はまるでおもちゃを取り上げられた子どもの

よう。


「大人しくしてるなら、あげる。あとグラックス団長の気持ちを逆撫でしたことも謝って」

「し、仕方ないわね……謝ってあげるわよ、謝ればいいんでしょ……」


 俺から顔を背けたかと思うと、また俺の顔色を窺い、本気だと分かるとセルフィーヌは渋々グラックス団長の下へ歩みよる。


「私が悪かった……別にあんたやあんたの部下が憎いからやったんじゃないから。お互いさまだってこと分かってるでしょ?」

「あ、ああ……貴公の言う通りだ……」


 セルフィーヌは罰が悪そうにグラックス団長を見たあと、脚を組んでこめかみを人差し指でかいた。


 一緒に仲良く手を取り合いなんてことにはならなかったが、一触即発という爆弾を抱えたまま、ということだけにはならなかったことだけでも幸いか……。



 会議が終わったあと、セルフィーヌにパリピーターンをあげる。パリパリと食べ始めた彼女だったが、そこには獄炎の魔女という恐ろしげな二つ名に似つかわしくない屈託のない笑顔があった。



――――工房。


 王宮で各騎士団に太刀を分配すると言ってしまった以上、俺は休む暇もなく働いていた。


 もちろん作刀自体は好きだから、まったく苦にはならなかったが、先に根を上げたのは鍛冶ギルドのメンバーたちだった。


「トウヤさん……、一ヶ月もまったく休みなし、飯と寝るとき以外、ぶっ続けで打ち続けるってのは無理がありますぜ……」

「だけど一本でも多く作らないと騎士たちが戦えないから……」


 戦果を報告しに来た騎士たちによると、どうやら俺の太刀はこの世界の魔法に対して特効のような力が付与されているらしく、帝国魔導兵の魔法を打ち破り、突破口を開くのに有効だったとのことだった。


 彼が俺に語る戦果は以前の暗い表情とは打って変わって、希望に満ちあふれているようだった。メルフィナによるとそれでも五分五分の戦いでどちらに戦況が転んでもおかしくないそうだ。


「もし良かったら、キミたちだけでも休んでくれて構わない……」


 俺の選択肢は一つで太刀をひたすら打ち続けることしかなかった。


 だけど……。


 みんなは休みを交代で取り始めたようだったが、それでも国力に勝る帝国は数で押してきて、戦況は一向に改善する兆しがなかった。


「はあ~ん、ひと仕事終えたあとのパリピーターンは最高ーーーっ!」

「ちょっとセルフィーヌさん、食べすぎですよ!」

「いいじゃない、メルフィナだっていっぱい食べてるんだし」


「そんな私はいっぱい……」


 空になった包装がこんもり溜まっていたことにメルフィナは恥ずかしそうしていた。


「ほらぁ、メルフィナだっていっぱい食べてんじゃん。人のこと言えないわよねー」

「ぐぬぬぬぅぅ……」

「そんな喧嘩しないで……って、もしかしたら……」


 俺は二人のやり取りを見てあることが思い浮かんだ。これなら……クローディス王国は……いやブリビン帝国も人的被害を最小限に食い止め、再び友好的なお付き合いができるかも……。


 思い立ったら、すぐに行動に移そうとしていた。


―――――――――あとがき――――――――――

Amazonでちょくちょく美プラの再販が来てるんですが転売ヤーどもに先を越されて、ぐぬぬしております。許すまじ転売ヤー!!!ヽ(゚Д゚)ノ

買いたいものが適正な値段で買える日が戻ってくることを願ってやまない作者でした。

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